第百二十八話
「行け! 黒羽! 遥を助けに!」
「助かった王女。あとは頼む!」
僕はマリー王女にお礼を言うと城に向かって走り出した。
「させると思う? 坊や」
リカルダがそう言うと同時に糸を出そうと右手を前に出した。そして糸を放出し僕を捕らえようとする。
「くっ!」
糸がものすごいスピードで向かってくる。僕はその目にも留まらぬスピードに恐怖を感じ下唇を噛むと急いで剣を抜こうとした。
しかし、剣を抜くよりもリカルダの糸が僕の胴体に巻きついた。
「しまった!」
僕は精一杯、力を込めて糸をブチ切ろうとした。が、やはり僕の力を持ってしてもリカルダの糸を切る事は出来なかった。
「く、くそ!」
まずい、このままでは姫野さんを助けに行く事が出来ない、どうにかしてこの巻きついている糸を破らなくては!
「無駄よ、坊や、あなたにこの糸を切る事は出来ない! 観念なさい!」
「ぬおおおおお!!!」
僕は必死に力を入れて糸を切ろうとする。が、やはりビクともしない。
「さあ、このまま私の糸で握りつぶしてあげるわ!」
リカルダが糸を操り僕の胴体を締め上げた。
「ぐあああああ!!」
な、なんて強さだ…… も、もう、ダメか…… ひ、姫野さん…… ご、ごめん。僕は君のことを助ける事が出来なかった。
「黒羽殿! 諦めてはいけません! 今、助けます!」
僕は聞き覚えがあるその声の方を見る。すると、上空から双剣を手にした一人の女性が僕の方へ向かって飛び降りてくる。
「ゴッドスティンガー!」
女性の双剣から光り輝くオーラの刃が飛び出し、なんとリカルダの糸を切り刻んだ。
「大丈夫ですか? 黒羽殿」
「き、君は…… ルイさん」
「ここは私に任せて、黒羽殿は姫野さんを助けに行ってください」
「し、しかし、相手は強いぞ。二人で戦った方が……」
「いいから早く!」
「わ、わかった。ありがとう!」
僕はリカルダの相手をルイさんに任せて先を急いだ。
「馬鹿ね、行かせると思う!」
リカルダの糸が僕を襲う、しかし、その糸をルイさんがスキルで切り刻む。
「今です!」
ルイさんの言葉に従い、僕は城へ向かって走り出した。
「黒羽! 姫野遥を頼んだぞ!」
魔族に変異したジャンと戦いながら、マリー王女が僕に声をかけた。
「任せてくれ!」
僕はマリー王女に向かって親指を立てた。そして先ほどジャンに吹っ飛ばされた時に突き破った壁から再び城に入った。
待っててくれ!姫野さん! 必ず君を無事にここから脱出させる!
僕は城の中を走り出すと真っ赤な絨毯が敷かれた大きな階段を必死で駆け上がる。
一階にはある扉は全て開けて調べた。どこにも姫野さんがいないから下にはいない。もっと上のほうだ!
そしてそのまま一番大きく豪華な扇型を見つけた。
「あ! あそこは」
あの扉を見覚えがある。確かウリアンがいた玉座の間だ。あそこで僕はリカルダに亜空間へ飛ばされたんだ。
僕は扉をあけ中に入ると、奥へと進む。
「ここに何か手がかりがあるはずだ」
ここはとても広いが何もない、玉座があるだけだ。
僕は一番に玉座を調べる。と、大きな椅子の後ろに何やら神秘的な輝きをした光の渦が見えた。
「これは転移の泉」
「転移の泉」は「転移の魔法陣」と同じく一瞬で別の場所に移動できるワープゾーンだ。
しかし、「転移の魔法陣」と違ってそんな遠くまではワープ出来ない。きっと、この城のどこかに繋がっているはずだ。
「行くしかない! この泉に飛び込むしか!」
僕は覚悟を決めた。そして泉に両足を入れた。すると、体がグルグル回りながらその泉に吸い込まれていく。
待っててくれ! 姫野さん! 今いく!
僕は必ず姫野さんを助けると心に誓った。