第百二十七話
「ここは、城のどこだ?」
僕はクレアさんの開けた穴を通り城に戻ってきた。どうやらここはウリアンの城だろう。だか城のどこにいるのかわからない。
「くそ! 早く姫野さんを助けないと!」
僕はとりあえず闇雲に走り出した。そして目についた扉を片っ端から開け中を確認する。
「いない…… ちくしょう、ど、どこだ」
必死に扉を開けていくと最後の扉を僕は開いた。すると、扉を開けた瞬間、ドス黒い大きな拳が勢いよく僕の目前に向かってきた。
突然のことで、防御も何も出来なかった僕はその拳の攻撃をモロにくらい、まるで発射されたミサイルのように勢いよく吹っ飛んだ。
僕は城の壁という壁を突き破り、そのまま城の外まで飛んでいくと地面にゴロゴロと転がった。
「イテテ」
口から血を垂らし、軽くはないダメージを負ったが、僕はなんとか立ち上がる。すると、突き破った壁から体長五メートルはあるだろうか、全身が黒く堅そうな皮膚をし、頭にはツノ、口からは大きな牙を生やした巨大な悪魔が出てきた。
悪魔は僕を見てクククと笑っていた。
「黒羽龍斗! 好い様だな」
僕はその声に聞き覚えがあった。
「そ、その声、お前はジャンか!」
「ククク、勇者である君には全力じゃなければ勝てまい。最初から魔族変異して挑むよ。覚悟しろ!」
デカイ図体のくせに目にも留まらぬスピードで僕に向かってくる。ジャンは先ほど同様拳を僕に目がけて繰り出してきた。
咄嗟に顔面の前に両手をクロスして、その拳を受けるがさっきの攻撃よりもさらに威力があったようだ。僕の両手は弾かれ顔面がガラ空きになる。
「もらったよ!」
無防備になった僕の顔面にジャンの左ストレートが打ち込まれる。
僕はまたもロケットのように後方へ吹っ飛ぶと城の近くにある森の木々に衝突していく。
森の木々が爆発音と共にドカドカと倒れていく。
「がはぁ!! なんて威力だ」
僕は血を吐きながらも何とか立ち上がると、ヨロヨロと歩き森から出る。
「おいおい、どうした勇者の力はそんなものなのか?」
くそ…… 勇者の装備で身を固めているのにまるでダメージが軽減されていないかのようだ。
魔族に変異したジャンは相当な強さだ。
僕は剣を抜いて構えた。だが、その瞬間、剣に白い糸が巻きついた。
「なっ!」
糸は剣をグイッと引っ張る。突然のことで驚いた僕は思わず剣を離してしまった。
「油断しちゃダメよ。私だっているんだからね。坊や」
「リカルダ!」
糸で僕の剣を奪ったのはリカルダだった。リカルダは自身の糸をグルグルと巻きつけると大きな拳に変えた。
「食らいなさい!」
糸の拳が飛んでくる。
「ぐっ!」
僕はその拳を腹に食らうと宙に舞った。そして糸の拳はさらに追撃し僕の背中に鉄槌を食らわせた。
血を吐きながら地面に叩きつけられる。
「リ、リカルダ。なんという攻撃力」
僕は力を振り絞り立ち上がる。
リカルダのやつ、相当強くなっている。才能があるとは思っていがここまでになるとは……
だが、あれほどのレベルのリカルダを操るとは、一体どんな方法で…… なんとかしてリカルダを元に戻さないと。
だが、勝てるだろうか…… この二人に
僕は気を張り二人を睨むつける。すると、二人がゆっくり僕に近づいてくる。
「ふふふ。さあ、面白くなってきたな。黒羽くん」
くそ! こいつらを相手にしていたら姫野さんが……
思っていた以上の手強いジャンとリカルダのコンビに僕は焦りを隠すことが出来なかった。
だが、早く倒さないと時間がない。僕は剣を構えた。
「坊や、相当焦っているようね。そんなんじゃ私たちに勝てないわよ。ほら、注意力が散漫になって私の糸の動きを追えてないじゃない」
どうやら、一刻も早く姫野さんを助けたいという気持ちが隙を生んでしまったようだ。僕は背後から近づいてくるリカルダの糸に気づかなかった。
「なんだ!」
リカルダの糸が僕を縛り上げるように巻きついた。
「ぐっ、リ、リカルダ、やめろ! 目を覚ますんだ! お前は操られているんだ!」
僕はリカルダに必死に呼びかけながらも糸を破ろうと力を入れた。しかし、ビクともしない。僕の力でも破ることが出来ないなんてなんて強度だ。
「無駄だよ、リカルダの糸は絶対に切れん」
そう言いながらジャンがこちらに向かってくる。そして、右手を大きく振りかぶった。
「終わりだ! 黒羽龍斗!」
ジャンが右手を振り下ろした。
く、くそ! ダメか! 僕は思わず目をつぶる。が、その瞬間だった。ガキンと金属がぶつかり合う大きな音が聞こえた。
僕は恐る恐る目を開ける。
「なっ! あ、あなたは!」
なんと驚くことに僕の前にたちジャンの拳を受け止めた人物がいた。ジャンもその人物を見て驚いた顔をしている。
「な、まさか。貴様がここにいるとは!」
「全く、情けないぞ黒羽、ここは私に任せておけ」
その人物はジャンの言葉を無視して僕に話しかけると背中にある大きな斧を取り出しリカルダの糸を斬った。
「す、すごい、リカルダの糸をこうも簡単に斬るとは……」
僕が感嘆の声を漏らすとその人物は口角をあげる。
「いいからさっさと行け、お前には目的があるんだろう? 遥を助けるという……な」
僕はその人物の言葉に力強く頷きお礼を言った。
「助かった。ありがとう! マリー王女」
僕の言葉にマリー王女は笑顔で頷いた。