第百二十六話
「ぐぇぇぇぇ!!」
クレアの正拳突きがカルラの鳩尾にめり込むと、カルラは腹を抑え苦しそうにうめき声を上げた。
「ちくしょう!」
エーリカがクレアにその長い爪で襲いかかる。
「死ね!」
攻撃の間合いに入ったエーリカは右手を振りかぶった。
しかし、手応えがない、そして目の前にいたはずのクレアが消えていた。
「な…… あのアマ、どこに……?」
エーリカは首を左右に振り、クレアを探した。しかし、どこにもいない。すると、エーリカの後ろからクレアの声が聞こえた。
「どこ見てるの? 後ろよ」
ハッとして振り返るエーリカ。だが、その瞬間、自身の顎に衝撃が走る。どうやらクレアの正拳突きを顎にモロに食らったようだ。
とてつもない衝撃に一瞬、エーリカの意識が飛んだ。
「くそ!」
かろうじて意識が戻ったエーリカはクレアから離れるため思いっきり後ろに飛び退き体勢を立て直そうとする。
だが、それは叶わぬ事となった。なんと離れたと思ったクレアが目の前に立っていたのだ。
「なに!」
驚いたエーリカ。そして次の瞬間、またも顎に衝撃が走る。
「ぐおっ!」
今度はクレアのアッパーがエーリカの顎にヒットさせた。エーリカはガクガクと震え膝から崩れ落ちる。
「あ、あ…… あ、な、なんて強さだ、魔族になった私をこう簡単に……」
エーリカはよだれを垂らしパクパクと口を動かしながら呟く。
「源魔炎竜神砲!」
カルラはエーリカを助けようと走りながら火魔法を放つ。炎は悪魔の姿を変えクレアを襲った。
弾丸のようなスピードで源魔炎竜神砲はクレアに向かって飛んでいく。
「フンッ!」
しかし、クレアは冷静な表情でカルラの炎に右の回し蹴りを繰り出した。
ドガン!と大きな爆発音が聞こえると、驚く事にカルラの源魔炎竜神砲が粉々になって消えていってしまった。
「なに! 私の魔法がただの蹴りで破壊されただと!」
「フッ」
クレアが口角をあげ超スピードでカルラの正面まで素早く移動する。
「なっ!」
そのスピードに驚いたカルラだが、あまりの速さに何も出来ずにだだジッとクレアを見ているだけだった。
「終わりよ」
圧倒的な実力差だった。
クレアは静かに呟くと素早くカルラの首に手をかけそのままぐるっと首を180度回転させる。クレアは無慈悲にカルラの首の骨をへし折った。
そしてゴキッという衝撃音が聞こえるとカルラは悲鳴をあげることもなく白目を剥いてそのまま絶命してしまった。
そのカルラのあまりにも呆気ない結末にエーリカをその光景をボーッとした顔で見ている。だが、突然、ハッとした表情になると、すぐに怒りの表情でクレアに向かっていった。
「てめー! チクショウ!」
エーリカが怒りに任せて右手を振りかぶり長爪でクレアに攻撃を仕掛けてきた。だが、その爪をクレアは手の平で簡単に受けた。
「そんな攻撃、私に通用すると思うの?」
クレアはエーリカの爪を簡単に握り潰すと爪はバラバラと地面に散らばる。
「まだだ!」
エーリカは諦めず左手の爪で攻撃した。が、その攻撃も簡単に受けられ右手の爪と同じように握り潰された。
絶望した表情でクレアを見るエーリカ。
「さよなら。すぐに妹に会えるわよ」
そう言うとクレアはエーリカの頭を両手で持ち、そのまま180度回転させるとゴキという鈍い音が聞こえた。エーリカはカルラ同様、首の骨が折れて絶命した。
「所詮、魔族の力で強くなろうとしている奴らなんてこの程度よね」
エーリカとカルラの死体を冷めた表情で見ているクレア。
彼女は地面に落ちている自身の弓武器を拾うと矢を放ち、亜空間に穴を開ける。
「さてと、さっさと龍斗の助けに向かうとしますか」
独り言を言いながら穴の中に入ろうとする。が、何か異様な空気を感じふと、エーリカとカルラの死体に目をやったクレア。すると、二人の死体がシュウシュウと蒸発するような音をたて始めたのがわかった。
「じょ、蒸発? どうして?」
蒸発していく二人をクレアは黙って見ていると、二人の死体は煙となって上空へ上がっていく。
どうやらその煙は何か意図があって上空へ上がっていったように見えたクレアは何やら胸に嫌な予感のようなざわつきを感じた。
「どこに行くのかしら…… 何か…… 何かやばい…… これは早く龍斗の元へ行かなくちゃまずい……」
そう呟くとクレアは胸のざわつきを一刻も早く取り払いたい気持ちを抱え穴の中へと入っていった。