第百二十四話
「うぉぉぉぉ!!」
魔族に変異したカルラが両手を平げながら目にも留まらぬスピードにクレアに攻撃を仕掛ける。
広げたカルラの手の爪が剣のように伸びた。
「クッ!」
思った以上に素早いカルラのスピードにクレアの動きが一瞬だけ鈍った。
キンッ!
かろうじてカルラの爪攻撃を剣で受ける。
「お、思ったよりも素早いわね」
「あら、妹にばかり気を取られてたらダメじゃない」
いつの間にかエーリカがクレアの後ろを取っていた。そしてエーリカもカルラ同様に爪が剣のように伸びていた。彼女の爪はクレアの背中を斬りつけた。
「ぐあっ!」
背中から大量の血を吹き出したクレア。彼女は苦しい表情を浮かべながらエーリカから距離を取る。
「ヒール!」
クレアはすぐに回復魔法を自身にかけた。
「い、いつの間に……」
どうやらエーリカの気配を察知することができなかったようだ。
「フフフ、さっきの威勢はどうしたのかしら?」
エーリカは馬鹿にしたような含み笑いをもらしながらクレアを見る。
そのエーリカの顔を見てクレアは頭に血が上ったようで怒声を発した。
「このクソッタレ!」
クレアは剣を振り上げエーリカに斬りかかっる。だが、それよりも先にカルラが攻撃を仕掛けた。
「おせーよ!」
「ぐあっ!!」
カルラの爪がクレアの右の肩口を切り裂き大量の血が吹き出した。
「なろぉ!」
クレアはすぐさま剣を水平に振りカルラを斬りつける。が、その攻撃は呆気なくかわされ今度は左の肩を斬られる。
クレアの肩から勢いよく血が噴水のように吹き出す。
「どうしたのかしらぁ? 急に動きが遅くなったけど? あ、そっか! あんたの動きが鈍くなったんじゃなくて私たちの動きが早くなったんだ。キャハハハハ」
「アイオロスバースト!」
悔しそうに歯を食いしばりながらクレアが最上位の風魔法を放った。
「おっとすげーじゃん。そんなの使えんのかよ」
クレアの右手から大量の風が吹き、その風が黄金の全身鎧を着た筋骨隆々の男に変わりカルラを襲うが、カルラは余裕の表情で佇む。そしてスッと右手を前に出した。
「源魔炎竜神砲!」
カルラが叫ぶと前に出した右手から炎が飛び出した。そしてその炎はツノが生えた悪魔に姿を変えクレアのアイオロスバーストに突っ込んでいく。
「そんな気持ちの悪い炎、私の風で吹き飛ばしてやる!」
クレアのアイオロスバーストとカルラの源魔炎竜神砲がぶつかり合う。するとお互いぐるぐると回り出す。
そして、しばらくぐるぐると回っていたがカルラの炎は大きく燃え上がりクレアの風を飲み込んでしまった。
「な、なに!」
クレアは自慢の風魔法が呆気なく破られるを見て驚愕の表情を浮かべる。カルラの炎はクレアへと向かう。
「きゃああああ!」
炎がクレアに直撃するとその炎はうずまき状に吹き上がる。
火だるまになりながら上空へと吹き飛ばされたクレアは地面に叩きつけれた。
「う…… ぐ、ぐ……」
「ほう、魔族固有の魔法を食らってまだ生きてるとはさすがにしぶとい」
クレアはヨロヨロと立ち上がった。
「ま、まだよ。まだ私にはこれがある!」
そう言いながらクレアは自身の武器を剣から弓と戻ると意識を集中する。
「くらえ! 『風神大聖豪派』!」
クレアは自身の最強のスキルを発動した。放った光矢が巨大な鬼へ変わる。
「源魔氷竜神砲!」
だが、クレアがスキルを放ったと同時に今度はエーリカが魔族固有の魔法を放つ。エーリカの放った氷はツノの生えた悪魔に変わりクレアのスキルとぶつかり合う。
ガッキーーン!
大きな金属が激突するような衝撃音が聞こえ、しばらく拮抗した状態が続く。が、バキンと大きな音が聞こえると、いきなりクレアのスキルが粉々になって崩れ落ちた。
「な……!」
驚きのあまり立ちすくむクレアにエーリカの魔法が容赦無く襲いかかる。
「きゃああ!!」
エーリカの魔法が直撃したクレアは血だらけになりながら吹っ飛んでいく。
「終りね」
エーリカは勝ち誇った表情で呟く。エーリカもカルラもこれでクレアが死んだ、そう確信した。
しかし、クレアは血だらけで満身創痍ながらも立ち上がった。その様子をエーリカとカルラが感心しながら眺めている。
「さすがは勇者の仲間ね。まさか、私たちの魔法を食らって立ち上がるとは…… だけど、もうあなたに勝ち目はない。諦めて死ぬのね」
そう言うとエーリカが右手を前に出しクレアに向ける。すると、エーリカはハッとした顔でクレアを見る。
なんと驚くことに瀕死の状態のクレアだったが、ニヤリと口角を上げエーリカをまっすぐ見ていたのだった。
「あなた、なに? あなたはもう死ぬのよ。なのになぜ笑っているの? 頭がイかれちゃったの?」
「死の恐怖で頭がおかしくなったか…… 気色わりーな。お姉ちゃん。さっさと殺しちゃおーよ」
「ええ」
エーリカが頷くと右手に力を込める。そして魔法を発動した。
「死にさらせ! 源魔氷竜神砲!」
悪魔の姿をした氷の塊が勢いよくクレアに向かって飛んでいく。
「ハハハ! 終わりだクソあま!」
ヨロヨロと立ち上がるのが精一杯のクレアでは避けきることはできない。エーリカとカルラはそれを確信した。
だが、不思議なことにそれを冷静な表情で見ているクレア。彼女は小さな声で呟いた。
「やれやれ魔族風情がここまでやるとは、仕方がない奥の手を出すか」
クレアがそう呟くとさっきまで虚ろだった彼女の目が鋭い光を放った。