第百二十三話
「てめー! やりやがったな!」
カルラが憤怒の形相でクレアに襲いかかる。しかし、クレアは冷静に対処する。
「タービュランス!」
クレアが右手を前に出し風魔法を唱えるとその右手から激しく上下に流れ動く突風がカルラに向かっていく。
「うぉ!」
その風魔法でカルラはまたも後方へと吹っ飛んだ。
「やれやれ、中位の風魔法でそんなに吹っ飛ぶなんて、ダメージはないから体は結構頑丈みたいだけど実力は大したことないわね」
「なんだと!」
クレアの挑発にカルラは敵意剥き出しで睨みつけるとエーリカはそれをたしなめた。
「カルラ、冷静になりなさい。あの女はあんたを挑発してんのよ。それに乗ったらあの女の思う壺よ」
「ぐっ! エーリカお姉ちゃん……」
「あんた、エリノルとルイとかいう女に倒されてから女の戦士を見ると異常なまでに敵意剥き出しになっちゃってるよ。冷静になりなさい」
「そ、そうね。ごめんなさい……」
カルラはエーリカに窘められて気持ちを落ち着かせる。
「さて、悪かったな。確か…… クレアとか言ったか。ここからが本番だ」
カルラは片手剣の切っ先をクレアに向ける。
「フン、冷静になったところでその程度の実力では私には勝てないわよ。かかってらっしゃい」
「行くぞ! カルラ」
「ええ!エーリカお姉ちゃん!」
クレアに方へエーリカとカルラが同時に向かっていく。だが、クレアは先ほど同様冷静だ。
「タービュランス!」
「グラウンドウォール!」
クレアが風魔法を放つと同時にエーリカが土魔法で応戦する。
エーリカが土魔法を放つと地面を盛り上がり土の壁をできた。その土壁でクレアの風魔法を防御する。
そして、そこからエーリカが気合いを込めると土壁はバラバラになり、クレアに向かって飛んでいった。
だが、冷静なクレアは咄嗟に弓を引き、飛んでくる土壁を一つ一つ粉々にしていく。
「どりゃああ!! くそアマ死ねや!」
なんと粉々になった土壁から煙が出て辺りが見えなくなったのを利用してカルラがクレアにいつの間にか近づいていた。
そして、剣の攻撃が当たる位置まで近づくと勢いよく煙から飛び出し、クレアに斬りかかる。
クレアの武器は弓で接近戦には向いていない、なのでエーリカとカルラは咄嗟に今のような作戦をとったようだ。
だがエーリカたちの思惑通りにはいかなかった。クレアの弓武器『天之麻迦古弓』はただの弓ではない。
クレアはニヤッと笑うと素早く『天之麻迦古弓』を振る。すると驚くことになんと弓が一瞬で剣に変わったのだった。
「なんだと!」
カルラは驚いた様子だったが、攻撃の手を緩めなかった。自身の武器『蛇龍柔剣』でクレアに襲いかかる。
「どりゃああ!」
カルラの攻撃は常人では目で追うことは不可能なほど素早い動きで斬りかかった。が、その攻撃をクレアはいとも簡単にヒョイとかわし剣を水平に払うとカルラの首がポンと音を立てて吹っ飛んだ。
「カルラ!」
呆気なくやられたカルラにエーリカは驚き、思わず、すっ飛んだ彼女の首を受け取ろうと走り出した。
「フフ、そんな事してどうやって私の攻撃から身を守るの?」
「はっ!」
咄嗟に走り出してしまったエーリカは自分の迂闊な行動を後悔する。
「しまった!」
エーリカは大剣を振り上げ向かってくるクレアを斬りかかろうとした。だが、時すでに遅し。それよりも早くクレアが剣を水平に振ると先ほどのカルラと同様、ポンという音を立てて首が吹っ飛んでいった。
なんとクレアはあっという間にエーリカとカルラを倒してしまった。
だが、クレアは武器を構えたままその場から動かない。
「あんたらの正体はわかってるわよ。魔族に魂を売った人間なんでしょ? さっさと生き返って本当の姿を現しなさい」
クレアは生首になったエーリカとカルラに話しかけると二人は同時に目を開け喋り出した。
「ククク、やはり知っていたか。いいだろう。私たちの本当の姿を見せてやる。カルラ!」
エーリカがカルラに声をかけると、なんとカルラの切れた首からいくつもの血管が飛び出してきた。
血管は斬られた胴体に巻きつくと、まるで掃除機のコードが巻き取られていくように首が胴体へと向かっていく。
そして首と胴体がくっつくとカルラはすくっと立ち上がる。
今度はエーリカの首からいくつもの血管が飛び出した。カルラと同じように首と胴体がくっつていく。
「あんた、ビックリするぐらい強いわね。正直マジで驚いたわ。でもこれからが本当に本当の本番よ」
そう言いながらエーリカが立ち上がると、二人は拳を握りしめ唸り始めた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」
唸り声と同時に地面がゴゴゴゴゴという地鳴りが響く。そしてエーリカとカルラの体が紫色に変色しはじめ、口から吸血鬼のような牙が生えてきた。
「フフフ、これぞ魔族変異。さ、クレアとやらこれが本当の私たちだ。こっからは本気だぞ」
魔族に変異した二人を見てもクレアは驚いた表情も見せずニヤッと口角を上げ笑っていた。
そして剣先を二人に向け、余裕な態度で言い放った。
「さっさと本気出せばいいものを。さあ、かかってらっしゃい」