第百二十一話
「どうした? 古井。余はお前がもっと喜んでくれると思ったが、何やらずっと驚いた表情をしているぞ」
僕はウリアンに言われハッとなり冷静さを取り戻した。
「い、いや。そ、それは当然です。いきなり見ず知らずの女性を褒美だと言われたら誰でも驚きます」
僕は必死で誤魔化した。だが、ウリアンはニヤニヤ笑いながら僕を見ている。
「ほう、見ず知らずとな。それはおかしい、リカルダは確かにお前の知り合いはずだが、余の勘違いとでも言うのか?」
「え、ええ。恐れながらウリアン王の勘違いかと思われます……」
僕が否定してもウリアンは余裕の態度を崩さない。すると、ウリアンは僕の後ろの方を見て誰かに話しかけた。
「どうやらリカルダと古井は知り合いではないらしいぞ、アメデ」
アメデ! 僕はその名前に驚いて後ろを振り返る。
「いえ、ウリアン様、確かにこのリカルダはその男と知り合いですよ。なあ、リカルダ」
アメデが言うとリカルダは微笑みながら答えた。
「ええ、確かにこの人とは知り合いです、何度も一緒に魔物と戦いました」
リカルダ…… どういうことだ。お前は…… ウリアンに操られているのか……
僕は警戒して黙っていると、ウリアンが僕に近づいてきた。
「フフフフ、もう観念しろ。お前の正体はわかっている。それにしても久しぶりだな。勇者サリウス、いや、今は黒羽龍斗という名前だったか」
こ、こいつ…… な、なぜ、僕の正体を……
「ウリアン王、な、何を言ってるのでしょうか?」
僕は必死で惚けた。そんな僕を見てウリアンは呆れた顔で首を左右に振る。
「お前のことはハルカから全て聞いている。今更とぼけても無駄だ。お前の前世が勇者サリウスなのはわかっているぞ」
な…… 姫野さんから全て聞いただって、だがなぜだ、僕は『変装の杖』で姿を変えている。それがウリアンになぜバレた。
「サリウス 、いや、黒羽龍斗よ。お前は知らんようだから教えてやろう。お前が使っている『変装の杖』は元々私が作ったものだ。魔物を人間に変装させて人間を襲うためにな。忘れたか、私は世界一の錬金術師だぞ。だから当然、私にはそれを見破れる様に作ってあるのだ。だからお前は顔を変えているつもりだろうが私にはハッキリと見える。髪の色は違うが顔はサリウスそのものだ」
しまった…… 『変装の杖』はウリアンが作ったのか…… 僕は諦めて変装を解いた。
「おお、凄い、本当に黒羽くんだったとは、いやはや驚いたよ。確か君は僕が完全に殺したはずだが」
驚いた顔で僕を見ているアメデにウリアンがズバリの答えを言う。
「アメデよ。こいつには神がついているのだ。おそらくサリウスは神から命を複数与えられているのだろう」
「ほう、神とは凄い、と言うことは我々と同じ様に命がいくつかあると言うわけですね」
アメデは感心した表情で僕を見ている。
こいつらの会話を最後まで聞いてる必要はない。僕は咄嗟に身構え戦闘態勢に入った。だがウリアン達はそんな僕を見て笑い出す。
「サリウス、お前にしてはノロマなことよ。今更身構えたところでもう遅い。リカルダ!」
ウリアンがリカルダに命じると彼女は素早く右手を出し魔粘糸を出した。
「なめるな。今の僕にその糸を切ることぐらいなんてことはない!」
僕は手刀でリカルダの糸を切ろうと構えた。しかし、そうではなかった。リカルダの糸は僕を捕まえるために放たれたのではなく、僕を移動させるために放ったのだ。
広がったリカルダの糸から亜空間が見える。僕はその中に吸い込まれていく。
「な、なんて力だ、す、吸い込まれていく」
僕は抵抗虚しくリカルダの亜空間に下半身が吸い込まれてしまった。その姿を愉快そうな顔でウリアンが見ている。
「フフ、いい姿だサリウス。その亜空間にはエーリカとカルラがお前を殺すために待っているぞ。存分に相手をしてもらうがいい。それと最後に良いこと教えてやろう。ハルカはもうすでに産気づいている。あの状態なら魔王様が誕生するのも時間の問題だ。フフフ、サリウス、お前は何も出来ずにその亜空間で死んでいけ」
「ウリアン、貴様!」
僕はウリアンを睨みつけ手を伸ばす。しかし抵抗むなしく体はどんどんと亜空間に飲み込まれていく。
「ウリアン、僕は必ずお前を殺す。そして必ず姫野さんを無事に助け出す。それまで覚悟しておけ!」
ウリアンは僕の言葉を負け惜しみと思ったのか先ほどからニヤニヤと笑っていた顔がさらに崩れて大声で笑い出した。
「ははははははは。面白い! 良いだろう。楽しみだぞ。わかった、その時を待ちわびておくぞサリウス 」
「ああ、楽しみに待ってろ」
僕は勝ち誇ったウリアンを睨みつけたまま亜空間に飲まれていく。
少し落ち着いたので今日はなんとか更新できました。時間が少しでもあれば更新していきますのでよろしくお願いします。