第十二話
「黒羽くん、ここは?」
魔法の羽根で瞬間移動してきた僕達の前にあるのは大きな壁に囲まれた大きな町の門の前だった。
「ここはセレンシアという国のカリウスという、ここらで一番大きな町だよ」
セレンシア共和国はイスカグランから遠く離れた内陸国で気候は典型的な大陸性気候で夏は非常に暑く、冬は比較的寒い。
今の季節はちょうど夏真っ盛りで日差しの下は相当暑いが湿度が低いせいかカラッとしている。そのため蒸し暑さは感じず日陰に入れば涼しく感じるほどだ。
「さ、入ろう」
僕が姫野さんを促しカリウスの門をくぐろうとすると、リカルダが慌てて引き止めた。
「ちょ、ちょっと。私、手を縛られたままなんだけど。こんな状態でこんな人が大勢いるところに入りたくないわ。解いてちょうだい」
リカルダが縛られた手を見せながら言う。
「ああ、わかった解くけど大人しくしてろよ」
僕がリカルダの縄を解こうとすると姫野さんが慌てて止めた。
「え? ダメよ。黒羽くん。この人の縄を解いたら戦ったら勝てないんでしょ?」
「姫野さん、安心してくれ。この魔法の縄は縛った相手の魔力を放出させる効果があるんだ。だからこの人の魔力は今、ほとんどないから僕がもしこの人と戦っても今なら勝てるさ」
「そ、そうなの? でも、この人、力も相当強かったでしょ? 魔法が使えなくて強いんじゃない?」
「この人の職業は妖術師。妖術師は魔力で自分の力を上げることができるんだ。力が強かったのは魔法で筋力を向上させてたからなんだ。だから今は、成人女性ほどの腕力しかないから大丈夫だよ」
あまりに僕が物知りなのでリカルダは驚いた顔でこちらを見ている。
「フフ、坊や。あんた何者なの? 色々詳しすぎるわ。それによく考えたら呪いの短剣なんてレアアイテムどこで手に入れたのかしら」
僕はリカルダの問いに素知らぬ顔で答えた。
「さあね」
僕達が改めて門をくぐると中にはたくさんの人がいた。
「あれ? 黒羽くん。この町の人たちってこの女の人と同じ服を着てるわ」
カリウスに行き交う人々はリカルダが着ている羽織袴風の和服を着ている人で溢れている。
「そうなんだ、この町の人たちの多くがリカルダと同じ服装をしているんだ。この服はここら辺でしか買えない服でね。だからリカルダがここに来たことがあるとわかったのさ」
姫野さんが感心した顔で頷く。
「なるほど、で、この町まで来るのは結構大変なのね」
「うん、イスカグランから船に乗ってウール共和国を通らないとこの国には入れない。その道のりには多くの強敵モンスターが出る。今の僕のレベルではここまではこれない」
「ふ〜ん。そうなんだ。で、ここに黒羽くんが探しているアイテムがあるの?」
僕はかぶりを振った。
「いや、ここからさらに東に行った場所にある石の塔にあるアイテムが欲しいのさ」
「石の塔?」
「ああ、だがその塔にはもちろん魔物がたくさんいるからね。ここで準備を整えてから出発する」
「そうなんだ、石の塔…… なんか冒険って感じでワクワクするね」
姫野さんが嬉しそうにはしゃぐのを見て僕はこれから姫野さんに言う言葉が少し言いづらくなってしまった。だが、唇を噛みながら決心する。
「ごめん、姫野さん。石の塔には僕とリカルダだけで行く。君はここで待っていて欲しいんだ」