第百十六話
「これより決勝戦を開始する。両者前へ!」
審判の言葉に従い、僕が円形闘技場の中央に向かうと、対戦相手もこちらに向かって歩いてきた。
ほう、なかなかイケメンな男だな。僕の対戦相手はスラリとした高身長で、いわゆるしょうゆ顔というのか、すっきりとしてクセのない涼しげな目鼻立ちをしている。
どうやら日本人のようだが…… う〜んさすがはイケメン、やはり女性ファンが多い。先ほどから女性の黄色い歓声が上がっている。
「きゃー、智也樣〜〜、絶対優勝してぇ〜〜」
「智也樣〜〜結婚してぇ〜〜」
「そんなへんちくりんな男さっさと倒してくださ〜〜い」
「死ねぇぇ!! 古井!!!」
「古井! てめぇに今日を生きる資格はねぇ!!」
黄色い声援の中に過激なファンの罵声が聞こえた。
な、なんだかなぁ…… 怖いから無視しようっと。僕は過激ファンの声がした方向は決して見ないと心に誓った。
「二人とも準備はいいか?」
審判が尋ねる。
「ああ」
僕が頷くと対戦相手のイケメンも頷いた。
「ええ、いつでも」
その言葉を聞いた審判が力強く頷いた。
「それではこれより決勝戦、古井 巧vs 朝霧 智也の勝負を開始する」
「両者構え!」
僕と朝霧が構える。
「始め!!」
審判が開始の合図を大声で叫んだ。
僕は早速、攻撃態勢に入るとジリジリと朝霧に近づく、それに対して朝霧は余裕の態度なのかニヤリと笑ったまま、その場から動かない。
おっと、随分余裕の態度じゃないか。大物ぶりやがってその綺麗な顔面に一発食らわしてグチャグチャにしてやる。
な〜〜〜んて、僕がそんな事思うわけない。相手が余裕の態度だからってそれに惑わされるな。いつも通りの自分の戦いを全うするんだ。
僕は自分に言い聞かせた。そして焦らずジリジリと間合いを詰めていく、すると朝霧が攻撃の間合いに入ったのがわかった。
ここから僕が一突きすれば終わりだな。なんと言っても僕には『神速の無拍子』がある。この奥義は半年前までは成功確率が45%だったが、今はもちろん成功確率は100%だ。
つまり僕の攻撃は出せば必ず当たる。絶対に避けることはできないのだ。
しかし、この武術大会はスキルや魔法は禁止だ。
奥義『神速の無拍子』はスキルでも魔法でもないがこの大会が単純な武術の腕を競い合う場なら使わずに戦おうと僕は決めていた。
まあ、奥義を使わなくてもこれで終わりだろうな。僕はそんなことを思いながら右の正拳突きを繰り出そうと右手に力を入れる。
だが、突如、目の前にいたはずの朝霧が消えた。
「なに!」
まさか、僕が見失うほどのスピードで動くとは…… こいつ、ただのイケメンではないな。
僕は素早く動く朝霧を目で追う。と、だんだんと円形闘技場を縦横無尽に動き回る朝霧の姿が見え始めた。
見えた!
僕は素早く移動して右の回し蹴りを朝霧に出した。
フン、最初のスピードには驚かされたが、そこまでだな。僕をなめるなよ。
が、驚く事に僕が出した右の蹴りはアッサリと避けられた。それと同時に右の頬に鈍痛が走る。
「うおっ!」
僕は思わず仰け反る。どうやら、朝霧の奴が僕の蹴りを避けたと同時に右のストレートは放ったようだ。
おっとと、なんという速さだ。この速さ一回戦で戦った浩浚だっけか? そいつの速さとは比べ物にならない。しかし、この動きどこかでみたことがある…… どこだ?
まあいい、流石は決勝戦だ。少しは楽しませてくれるようだ。ちょっとだけ本気になるか。
僕は唇の血を拭うと目を細め朝霧を見ながら両手を顔の前に出して構えた