第百十四話
「準決勝第一試合、古井 巧vsフレドリック・ガイスト」
今度の僕の相手は二メートル近い巨体で筋骨隆々の男だ。まんまプロレスラーだ。
「それでは始め!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
審判の開始の合図と同時にフレドリックが両手を高く上げながら僕に襲いかかってきた。
おっ! 力くらべで勝負してくるか。まあ、その体格からしてそうだろうな。
僕はその勝負を受けて立つとフレドリックと両手をがっちり組み合った。
「ぐおおおお、ぶっつぶれろ〜〜〜!!!」
フレドリックは僕の押しつぶそうと力を込める。
おっと、流石に力があるな。だが、それも一般人レベルでの話だ。勇者レベルがカンストした僕からしたら三歳児の女の子にしてはちょっと力が強いなってレベルだ。
しかし簡単に押し返しては面白くない。僕はフレドリックにわざと押しつぶされそうに体勢を崩し、苦しそうな顔をする。
「ぐぬぬぬ」
僕の苦しそうな顔を見てフレドリックはニヤリと笑った。
「カカカカ。このまま押しつぶしてくれる!!」
フレドリックがさらに力を込めてきた。
なんか調子に乗っているフレドリックを見てめんどくさくなってきた僕は反撃を開始する。
おっさん、ちょっとだけ力を込めるよ。
僕は少しだけ力を込めて押し返した。するとフレドリックの顔が驚愕に変わった。
「な、なに!」
僕からしたらちょっと力を込めた程度だったがフレドリックはまるで魔物で一番力があると言われているアースギガントにでも押されたような顔をしていた。
「ふぬぬぬぬぬ」
懸命にフレドリックは押し返そうとするがビクともしない。
「な、なんでだ、急に力が強くなって……」
フフ、驚いてるな。これからもっと驚くことが待ってるぞ。
僕は右足を上げ突然、フレドリックの腹に軽く蹴りを見舞った。
「ぐおっ!!」
ヒューーーーーーーーーーーンという飛行機が墜落するような音と共にフレドリックが吹っ飛ぶ。
その大きな巨体は僕の蹴りで円形闘技場の壁まで飛んでいき激突した。
し、しまった。やりすぎた……
僕の蹴りでフレドリック・ガイストは5、60メートルは吹っ飛んだ。そのあまりの衝撃的な出来事にさっきまで盛り上がっていた観客がピタッと静かになった。
やば、これはフレドリックとかいうおっさんを殺してしまったか…… この武術大会は確か、対戦相手を殺してしまうと失格となるルールだったはず。
僕は冷静さを装ってはいるが内心ヒヤヒヤしていると、苦しそうに咳き込みながらフレドリックが立ち上がるのが見えた。
ホッ、おっさんが頑丈な体で助かった……
僕がフレドリックに近くと彼はジッと立ったままだった。
ほう、怯えて後ずさりでもするかと思ったが、なかなか根性が座ってるじゃないか。まだ、勝負を投げてないな。
壁に激突した衝撃であたりは土煙が上がっていて彼の表情までは見えなかったが、きっとこちらを睨んでいるに違いない。
僕はさらにフレドリックに近く。そしてさっきまでヒヤヒヤしていて焦っていた気持ちを戦闘モードに切り替え走り出した。
よし、試合再開だ!
僕は土煙を払いながら進んだ。そしてフレドリックの姿が見えると拳を握る。
「えっ!」
意気揚々とフレドリックに向かっていった僕だったが、彼の前にたつと思わず「えっ!」と小さく声を上げた。
なんとフレドリックは立ったまま気絶していたのだった。僕はてっきり戦闘意欲満々で立っているのかと思ったが、違っていた。
僕は困った顔で審判の顔を見る。審判も僕と同じキョトンとした顔をしていたがすぐに正気になり、勝ち名乗りを上げる。
「勝者!古井 巧!!!!」
審判の大きな声が上がると同時に観客の歓声が一斉に上がる。
「いいぞ!古井!!!」
「カッコイイ。古井さ〜〜〜ん!」
「次が決勝だ! お前なら優勝できるぞ!!」
僕は観客に笑顔で手を振りながら控え室に戻った。