第百十三話
「それでは第一試合、古井 巧vs 浩浚!!」
実況者が大きな声を大きな声を張り上げる。
僕は円形闘技場の中央に立つと目の前に僕と同じアジア系の男がこちらを睨んでいた。
どうやら相手は名前からして中国系の男のようだ。彼も異世界人だろうか……
この円形闘技場には僕と浩浚以外にもう一人審判らしき男がいる。その男が僕に話しかけてきた。
「古井、準備はいいか?」
変装の杖で顔を変えた僕だが、名前も偽名を使ってこの大会に出場した。古井 巧と適当に考えた名前だったので一瞬、僕が呼ばれたことに気づかなかった。
「おい! 古井! 準備はいいかと聞いている」
「はっ! ぼ、僕か、ああ、いいよ。問題ない」
審判は訝しげな顔で僕を見ていたがすぐに今度は浩浚の方を見た。
「浩浚、準備はいいか?」
「ああ、いいに決まってるさっさと始めろ」
浩浚と名乗る男は身長は僕と同じ170センチぐらいで、体は細身で、一見、痩せた野良犬のようだ。しかし、目は鋭くその目は獲物を狙う鷹のようだ。
ガリガリの見た目に誤魔化されないようにした方がいいな。まあ、まずはお手並み拝見といこう。
僕はゆっくりと両手を顔の前に出して構えた。その僕を見て浩浚はニヤッと笑う。
「ふん、隙だらけな構えだな。よく、その程度で本戦に勝ちあがれたもんだ」
審判が僕と浩浚の間に手刀を置き、それを下へと下ろすと大声で叫んだ。
「それでは始め!」
審判の試合開始の合図と同時に浩浚が動いた。その目の止まらぬ素早さに審判も観客も浩浚が消えたように見えたようだ。「えっ!」と声を上げた。
お! はえーじゃん。だが、僕はお前の動きを捉えているぞ。
周りの人間にとって浩浚の動きは常人のものではないだろう。しかし、僕からしたらのろまな亀のようなものだ。遅い遅い。
まあ避けるのは簡単だ。しかし……
「うわ!」
浩浚が僕の背後に回り込んだ。そして背中に蹴りを放つとその蹴りをモロに食らって僕は吹っ飛んだ。
僕は地面をズサーと滑り倒れるとヨロヨロと立ち上がった。
思ってより結構重い蹴りだ。流石は本戦出場者。だけど、僕はノーダメージ。ヨロヨロと立ち上がったがもちろんそれは演技だ。
やはり僕の敵じゃないな。倒すのは簡単だが、あまり簡単に倒すと変だと思われる。
「ふふふ、お前、俺の姿が見えなかったか?」
自身の攻撃が簡単に決まって気を良くした浩浚はニヤニヤと笑うとまたも素早くその場から消えた。
そしてまたも僕の背後に回り込み背中に蹴りを見舞う。
僕は再度、吹っ飛び地面に滑り倒れる。
それを何度か繰り返すと、円形闘技場の観客が歓声をあげる。
「いいぞ!浩浚! やっちまえ!!」
「ぶっ倒せ浩浚!」
ワー
ワー
ワー
浩浚が素早く動き、僕に蹴りを見舞うたび観客が興奮して歓声をあげる。
やれやれ、そろそろほんのちょっとだけ本気を出すか。
僕はまたも素早く動いた浩浚を目で追った。
まったく…… 馬鹿の一つ覚えだな。また、僕の背後に回り込むつもりか……
浩浚がやはりまたも僕の背後を取る。そして蹴りを見舞う。しかし、今度の蹴りは空を切った。
「なに!」
驚く浩浚。僕は彼が蹴りを放った瞬間、ジャンプしてクルリとバク宙をしてその蹴りを交わしたのだった。
そして僕は後ろ蹴りを放つと蹴りは浩浚の腹部に炸裂した。
「ぐああああ」
思いっきり吹っ飛ぶ浩浚。今度は彼が地面を滑り倒れた。
「な、なんて蹴りの威力だ……」
浩浚は苦しそうに立ち上がると構えた。しかし、浩浚は僕の姿を見失った。
「な、なに!ど、どこだ。奴は!」
浩浚は辺りをキョロキョロ見回す。だが、彼は僕がどこにいるかわかってないようだ。
仕方がないので、」僕は浩浚に声をかける。
「もう終わりだ。後ろにいるよ」
驚いた浩浚が後ろを振り向こうとした。だが、それより先に僕の手刀が浩浚の首に炸裂した。
「かはっ」
白目を剥いて浩浚はその場に崩れ落ちた。僕は審判の方を見る。審判は何が起きたのかわからないのかぼーっとしている。
「おい審判、しっかりしろ」
僕が声をかけると審判はハッとした顔をする。そして、浩浚の元へ行き意識があるかどうか確認する。
まあ、確認するまでもないけどね。
審判は浩浚が気絶していると判断したようだ。僕の方へとくると僕の右手を上げ勝者コールをした。
「勝負あり! 勝者古井 巧!」
観客が僕の見事な逆転劇に歓声をあげる。
よし、まずは一勝っと。
僕は歓声をあげる観客に手を振りながら円形闘技場を後にした。