第百十二話
「さあ! ここに集いし八人の有志は激戦の予選を通過した強者たちだ。そして今日、この八人はお互いの武術の腕を競い合います。それではこれより第57回ゴランダ帝国武術大会を開始します!!!」
実況者が場を盛り上げると円形闘技場の観客が大きな歓声をあげる。
僕はその大きな円形闘技場の中央に立っている。そして横を見るとイカツイ男たちが七人横並びに立っている。
この七人はこの武術大会の予選を勝ち上がった者たちだ。
さてと、やっと本戦か。予選は大したレベルの奴らはいなかったが…… でも本戦に残った俺以外の他の七人も大したことないレベルのようだ。これなら楽々優勝できるな。
僕はギルドで聞いたゴランダ帝国武術大会に早速エントリーをして、その予選に出場した。
どうやらこのゴランダ帝国武術大会はかなり有名だったらしく、いろんな国から出場する者たちがいて、なんと出場人数は千人を超えていた。
この武術大会は武器と魔法の使用を禁止している純粋に素手による戦いだ。
いや〜、それにしても出場人数はすごかったな。よっぽどこの大会で優勝すると嬉しい褒美がもらえるのだろう
予選ではあまり目立たぬように苦戦した振りをしながら勝ち上がったが、なんとか怪しまれずに本戦に残れたようだ。
そして僕は円形闘技場の客席を見る。客席は3階まであり、どうやら上の階にいる人間ほど、この国では身分が高いようだ。
ってか、観客もすごい人だな。これはかなり人気の武術大会のようだ。
聞いた話によるとこの円形闘技場には約5万人を収容できるとの事だが、席は満席になっている。
「それでは開始の合図を我がゴランダ帝国国王からお願いしたいと思いますが、若干、王と王妃の到着が遅れております。皆さま少々お待ちください」
遅れてるだと…… 全くいいご身分だな。……ってこの国の国王と王妃なんだからいいご身分に決まってるよな。たははは…… まあ、どんな奴らなのか、早くお顔を拝見したいもんだ。
僕は退屈そうにあくびをしながら国王と王妃の到着を待った。
「お待たせしました。まずはこの国の王であらせられるウリアン・ユーギン国王の登場でございます」
「なに!」
僕はウリアン・ユーギンという名前に聞き覚えがあった。
ウリアン・ユーギンだと…… まさか……
僕は国王が出てくるのをジッと凝視した。すると円形闘技場の最上階から煌びやかな王冠と派手な赤いマントを羽織った初老の男が笑顔で手を振りながら現れた。
「や、やはり…… あいつは……」
僕はあの男を知っている。僕が前世で勇者だった時から知っている男だ。
ウリアン・ユーギンは世界一の実力があると言われた錬金術師だ。
しかし、ウリアンは人間でありながら魔王を崇拝し、魔族側についた男だった。
そして人間をこの世界から抹殺するために病気を流行らせたり人間を魔族にする薬を作ったりしていた。
でも、確かあいつは僕が殺したはずだ…… なぜ生きている。それにあれから何百年も立っているのに、ウリアンの姿は当時のままだ。
あっ、そ、そういえばあいつは不老不死の薬を一生懸命開発しようとしていたな。
僕が殺したと思っていたウリアンは実は生きていて、ずっと研究していた不老不死の薬を完成させていたというわけか……
しかし、まさかウリアンがこの帝国の王となっていたとは…… もしかして、魔王の復活にあいつが関わっているのか……
僕が混乱した頭で色々考えていると、実況者が今度は王妃の名を呼んだ。
「そして、次にご紹介するのはこの国の王妃であらせられる、ハルカ・ユーギン王妃の登場でございます」
な、な、なんだって、ハ、ハルカ…… だと……
僕は王妃の名前を聞いて嫌な予感がした。
すると、今度は王妃が姿を現した。僕は王妃の姿を見て愕然とする。
「ひ、姫野さん……」
なんと…… 驚くことにゴランダ帝国の王妃は…… 姫野さんだった。