第百十一話
「おお、アルカディー ・サラファノフか、覚えてるよ。確かこのギルドが創設して以来、最速でBランクの冒険者になった男だ。将来を有望視されていたんだけどなぁ、確か半年以上前かな? 一年も経ってないとは思うけど、突然、冒険者を辞めて行方がわからなくなったんだ」
僕とクレアさんはゴランダ冒険者ギルドでマルコルフについて情報を集めていた。
冒険者ギルドでは金さえあればいくらでも情報が手に入る。
僕たちは散々、モンジュの地下ダンジョンでお金を稼いだ。正直、一生遊んで暮らせるほどの大金を持っている。そしてお金はマジックバッグといういくらでもアイテムやお金が入る魔法のバッグに入れたあるのでかさばることはない。
「そうか、ところでアルカディー には仲間はいなかったのかい?」
僕はそう言いながら情報をくれる男にお金を渡す。男はその金を見ると舌舐めずりしそうな顔でお金を受け取った。
「いや、仲間はいなかったな。あいつは常に一人で行動してたよ。俺は常に一人で行動するんだ、なんて言って、一匹オオカミを気取ってたな」
「なるほど、さっきアルカディーが突然、冒険者を辞めたって言っていたけど、その理由は知っているかい?」
僕が聞くと男は目をつむり記憶の糸を辿りはじめた。
「う〜ん、なんだったけなぁ…… 確か理由は何も言ってなかった気がするな」
ダメか…… そんなに上手くトントンと物事が進むわけないよな。僕は男にお礼を言ってその場を立ち去ろうとした。が、突如、男が僕を引き止めた。
「いや、待て。そういえば冒険者なんかやってるよりいい稼ぎが出来る仕事が見つかったって言ってたな」
「その稼ぎって何かわかるかい?」
「いや、それは教えてくれなかったよ」
「そうか……」
僕は再びその場から立ち去ろうとした。が、男がまた僕を引き止めた。
「おいおい、せっかちな坊やだな。まだ、話は終わってねーよ。続きがあるんだ。聞きたくないのか?」
「なに! 続きだと! 教えてくれ」
僕が男に話の続きを教えてくれるよう頼むと男はニヤリと笑いながら右手を差し出した。
「もちろん、教えるさ。だが、タダってわけにはなぁ」
くっ、金か…… ガメツイ親父だ。まあいい、金ならいくらでもある。
僕は男にお金を渡した。
「ヘヘ、毎度、お兄ちゃんお金持ってるね〜」
「そんなのいいから続きを話してくれ」
僕は男を急かせた。
「へいへい、いやね。確かにアルカディーの野郎はその稼ぎのいい仕事ってのは教えてくれなかったよ。だがな、奴がその稼ぎのいい仕事ってのは帝国の仕事だろう」
「帝国? このゴランダ帝国のことか?」
「もちろんそうだよ」
「帝国がどうしてアルカディーに仕事を与えるんだ?」
「さあね。さっきも言ったがどんな仕事かはわからねー。だがな、奴が冒険者を辞める前に、年に数回、開かれるゴランダ帝国の武術大会に出場したんだ。奴はそこで優勝した。その武術大会で優勝すると、帝国の城に招待され褒美をもらえるんだ。奴が冒険者よりも稼ぎのいい仕事があるって言ったのはその優勝から数日後のことだ。だからきっと褒美を貰いに城に行った時、帝国の誰かに仕事を持ちかけられたんだろうな」
「なるほど……」
「ふふ、さらに良いことを教えてやろうか? これは金払いが良い坊やに特別タダで教えてやる」
「良いこと? それはなんだ」
「ヘヘ、アルカディーが優勝した武術大会なんだがなぁ。実は明後日、また開かれるのよ」
「なんだと!」
「例えばそこで坊やが優勝すれば、必ず城に招待されるはずだ。そうなればアルカディーのことを知ってるやつに出会えるかもしれないな」
男はニヤニヤ笑いながら僕の顔を見ている。
なるほど、武術大会か……
「ありがとう、これ少ないけど取っておいてくれ」
僕は男にお金を渡す。まあ、かなり有益な情報を教えてもらったのでチップだ。
「クレアさん。行こう」
僕がクレアさんを見ると彼女が頷いた。
そして、ギルドを出るとクレアさんが僕に話しかけてきた。
「龍斗、あなた武術大会に出るんでしょ?」
「ああ、そこで優勝して帝国の城に招待されれば何かわかるかもしれない。出場は帝国の城に行けば受付をしてくれるようだ」
「それは良いけど、そんな大会に出たら目立っちゃうんじゃない?」
クレアさんが心配そうな顔で僕を見ると、僕はニヤッと口角を上げた。
「クレアさん。忘れたのかい? 地下ダンジョンで見つけた変装の杖をゲットしたのを」
「あ! そうだった。あのアイテムがあれば顔を自由自在に変えられるんだった!」
「ふふ、そう、それで変装して武術大会に出場する!」
「やった! 龍斗なら簡単に優勝できるわよね」
「まあね。とりあえず受付は明日することにして今日は宿屋でゆっくり休もう」
「うん。宿屋のベッド一つだけだったら一緒に寝ようね!」
「な、何を言ってるのぉ。クレアさん」
僕は顔を真っ赤にしながら宿屋に向かった。