第百十話
「ここがゴランダ帝国の城下町です」
僕とクレアさんはルイさんと一緒にゴランダ帝国の城下町に入った。
町は賑やかで華やかで人口が多いせいか、商店街や出店などがたくさん並んでいる。
「すごい人だな」
僕が町の賑やかさに感心していると横でクレアさんも同じように驚いているようだった。
「ほんと、すごい。こんな所初めて来た」
「この町の冒険者ギルドはあそこです」
ルイさんが指を刺した方角を見るとゴランダ冒険者ギルドと書いた看板が立っている大きな建物が見えた。
「ありがとう。ルイさん、助かったよ」
「いえ、とんでもない。では、私は姫の護衛の仕事がありますのでここら辺で失礼します」
ルイさんはそう言うと魔法の翼を取り出し、それを使ってイスカグランへ帰ろうとした。だが突然、何かを思い出したかのように僕に声をかけてきた。
「黒羽さん」
「ん?」
「黒羽さんはどうして生き返る事ができたのですか? 半年前のあの時、確かに黒羽さんの心臓は止まって言いました」
「さ、さあ、どうしてなんだろう。僕にもわからないよ……」
僕は自分が神によって生き返ったことをクレアさん以外には内緒にしている。そのためルイさんへの返事を適当にごまかして答えた。
「そうですか…… 今でもマリー王女と黒羽さんのあの時のことを話します。マリー王女はきっと黒羽さんが復活した救世主じゃないと言ってます。我が国の国教はラビスト教です。ラビスト教の聖書には世界を救うために一度死んだ救世主が復活して世界を平和に導くと記されています」
「そ、そんな。僕はそんなすごい人間じゃないよ。たまたま止まった心臓が何かのキッカケで動き出したんじゃないかな?」
僕はあくまでも誤魔化すことにした。すると、ルイさんは答えを知ることを諦めたような表情をする。
「そうですか…… わかりました。それじゃあ私は城に帰ります。お二人ともお気をつけて」
今度こそルイさんは魔法の翼でイスカグラン国へと帰って行った。
そしてクレアさんが僕に声をかける。
「さっ! ギルドに行きましょう」
「ちょっと待ってくれクレアさん。その前に宿屋に行って泊まるところを確保しよう。こんなに人がいるともしかしたら宿屋が満室の可能性がある」
僕らは近くにある宿屋に向かった。
「どうもいらっしゃい、部屋をお探しですか?」
宿屋に着くと受付のおばさんが対応してくれた。
「そうなんだ。部屋を二つ借りたいんだけど」
僕が聞くと受付のおばさんは困った顔をした。
「う〜ん、二部屋かい? 残念だね〜 今の所空いてるのは一部屋だけなんだよ。ここは人が多くてすぐ満室になっちゃうからね〜 ごめんね。でも、一部屋でいいだろ?」
受付のおばさんがとんでもない事をいう。
「いやいや、それはダメだよ。なんとかならないのかい?」
僕が慌てて言うとおばさんは首を左右に振った。
「残念だけどダメだね〜」
仕方がない、他の宿屋を探すか…… 僕が諦めて宿屋を出ようとするとクレアさんが受付のおばさんと話し始めた。
「あ、すみません。一部屋で大丈夫ですよ」
「え!えええええ! クレアさん、な、な、な、何を言っているんだい?」
僕は顔を真っ赤にさせながらクレアさんを止めた。すると、クレアさんはいたずらっこのような目で笑いながら言った。
「え〜 いいじゃない。私、龍斗と一緒だったら同じ部屋でもいいよぉ〜」
「いやいやいやいや。だ、駄目だよ。クレアさん」
「大丈夫、大丈夫。すみません、ここに泊まります」
「はいよ〜。一晩100ゴールドね」
僕はクレアさんを止めようとしたが、彼女はさっさと受付のおばさんにお金を払ってしまった。
受付のおばさんはニヤニヤと笑いながらお金を受け取った。
「ありがとうございます〜 どうぞ楽しんでってくださいね〜」
た、た、楽しむって何を言ってるんだこのおばさん。
おばさんの言葉に僕の顔はさらに真っ赤になる。クレアさんはそんな僕をクスクス笑いながら見ている。
「さ、さ、もうお金は払ったんだから、もう決まり、決まり。早くギルドに行きましょう」
そして、クレアさんがそう言うと宿屋を出て行ってしまった。
「だ、大丈夫なのかなぁ〜」
僕は不安になりながらもクレアさんの後を追った。