第百八話
「ルイさん!」
僕は駆け寄ってくるルイさんに手を振った。
「黒羽さん、お久しぶりですね。えっと……」
ルイさんが僕とクレアさんを交互に見た。
「彼女はクレア・シューリスさん。この村の村長さんの娘さんで僕の仲間ですよ」
「そうですか。初めまして水口ルイです」
ルイさんがクレアさんに挨拶をするとクレアさんも挨拶を返した。
「ええ、半年ぶりですね。今日はどういった要件で?」
僕が聞くとルイさんは僕の方を向き答えた。
「はい、実はマリー王女がアメデたちの足取りを掴んだかもしれないということです」
「なんと!」
「ええ、ですから明日、マリー王女が城にきて欲しいとのことです」
「わかりました。でも、僕は死んだ事になってるのであまり目立ちたくありません。城にはたくさんの人がいます、城以外で会うことはできませんか? 」
「それなら大丈夫です。城の中と言っても限られた人間しか入れない場所にこっそり案内しますよ」
「そうですか。よかった」
「それでは、私は城に帰ります」
「ええ。お気をつけて」
僕らに挨拶をするとルイさんは城へと戻っていった。
「龍斗、いよいよね」
クレアさんが真剣な表情で僕を見る。
「ああ、やっとこの時がきた」
「もちろん、私も付いて行くわよ」
「ええ、それは当然ですよ、僕たちは仲間なんですから」
僕がそう言うとクレアさんは満足そうに頷いた。
半年前、僕が生き返って真っ先に向かったのはこのモンジュ村の地下ダンジョンだった。
それは神からこの地下ダンジョンの最下層に勇者になるために必要な【勇者のオーブ】があると聞いたからだ。
とにかく今度は絶対に死なないように強くなる必要がある。そのためには勇者の力が手に入れなくてはならない。
僕がモンジュ村につくとクレアさんは笑顔で迎え入れてくれた。
そして、サプライズな事実を聞いた。なんとクレアさんから父親から旅を出ることの許しが出たとの事だ。
僕はまさか許しが出るとは思わなかったのでビックリしたが、どうやらクレアさんの父親の夢に神枕元に立ち、クレアさんを冒険者にするようにと言われたらしい。
多分、神がやってくれたのだと思う。粋な計らいを…… 何やら神はクレアさんの冒険を許可すればこの村は永遠の平和が訪れると言っていたらしい……
もう、病気や蒼目族とバレて国に利用されることがないならとクレアさんの冒険を許可したらしいが……
ってか、元々、この村に『魔紫菌感染症』を流行らせたのは神だったようだ。
姫野さんをルガトの場所までおびき寄せるためにやったらしい…… 全く回りくどい事を……
しかし、神が人間を病気にさせるなんて…… よっぽど姫野さんを始末したかったようだな。
だがまあ、神が言うには『魔紫菌感染症』の毒性はかなり抑えて流行らせたとは言っていたが……
ってなわけで、そんなこんなで僕はクレアさんと仲間を組める事となる。
それから半年、僕は職業が勇者になり、クレアさんはアーチャーの最上位職『弓聖』になった。
そして何度もこの地下ダンジョンを挑戦してクリアしていったおかげで僕らのレベルはカンストしたってわけよ。
「それじゃあ、今日はもう家に帰って休みましょう。お父さんが美味しい晩御飯を作って待ってるわよ」
「やった! クレアさんの親父さんの料理はプロ並みなんで毎日楽しみですよ」
「フフ」
僕が喜んでいる姿を見てクレアさんは笑った。
「ところで龍斗」
「ん、なんですか?」
「いい加減。その敬語で話すのと私の事をさん付けをやめてよ。クレアって呼び捨てでいいのよ。もう半年も一緒に戦っている仲間なんだから、ちょっとよそよそしいよ」
「す、すみません。僕、女性を呼び捨てで呼んでことなくて……」
突然、クレアさんのクレームに僕は戸惑ってしまった。
「ええ、そうなの? 慣れてないのね。じゃあ、慣れるために試しに私の事を呼び捨てで呼んでみてよ」
クレアさんが変なことを言うので僕は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
「え? で、出来ませんよ。そんな突然言われても……」
「えーつまんないなぁ」
クレアさんが口をとんがらせている。
それを見て僕はさらに顔が赤くなり恥ずかしさに居ても立っても居られなくなった。
「ま、まあ、その話はまた今度、は、早く帰って休みましょう。明日は早いうちにマリー王女のところに行きますので……」
僕はそう言うとクレアさんの家の方へと歩き出した。そんな僕はクレアさんはクスクスと笑って見ていた。