第百五話
「ひ、姫野さんが…… 魔王の母となる存在、そして僕があっちの世界に転生して理由が姫野さんを殺すため……」
僕は神の言葉を繰り返した。
「ああ。そうだ。だが、少しだけ事情が変わった」
「事情が変わった?」
「ああ、説明しよう。まず、私は姫野遥が魔王の母となる存在になると知った私はお前にどうしたら良いか相談した」
「僕に相談……」
「魔王を倒して何十年もたったがお前の強さは未だ健在でその強さは人間にして神にもっとも近い存在となっていた、そのためお前は人間で唯一私と地上で交信出来きるほどのになっていたのでな」
「なるほど……」
「そしてお前は私に言った。自分の寿命が尽きたらあっちの世界に転生させてくれと、そして自分がその姫野遥を殺害し、この世界に転移させないようにすると」
「僕がそんな事を…… しかし、僕の記憶では神がこの異世界を救った褒美に違う世界で普通の生活を送るために転生させたとなっていた気がしたが……」
「どうやら記憶が混乱しているようだな」
「前世の記憶も魔王を倒したまでしか憶えていない」
「やはりそうか、思わね事態が起きたようだ…… 私自身、異世界からあっちの世界に人を転生させたのは初めてだった。そのせいかもしれないな」
「そうですね。すみません、話の腰を折って、続けてください」
「うむ、で、私はお前の案に乗っかることにした。それでお前に姫野遥の姿を見てもらうとお前の脳に直接、通信を送った。それが事態を大きく変えることになってしまった」
僕は神の話を聞いてピンときた。ま、まさか……
神は僕の反応を見て自分の言いたいことを言わずともわかったことに気が付いたようだ。
「そう、お前は姫野遥の容姿を見て一目惚れをしてしまった」
「や、やはり……」
「お前は姫野遥の暗殺を止めると言い始めた。その代わり自分が姫野遥をこの世界に来させないようにすると私に言ってきた」
「姫野さんをこの世界に来させないようにする? どうやって?」
「フフ、自分が言い出したことだぞ。まあいい、お前は姫野遥がこの異世界にきてから元の世界に帰りたいと言った事を聞いたことがあるか?」
「いや、確かないはず……」
「そうだ、理由は彼女の家庭環境にある。姫野遥は幼い頃から天涯孤独で一人で生きてきた。そのため彼女はあっち世界にいることがずっと苦痛で違う世界に行ってみたいとずっと子供の頃から願っていたんだ」
「そうだったのか……」
「その強い思いが彼女をこの異世界に転移させたんだ。だからお前は彼女を支えてやることで彼女の寂しさを癒し、どこか違う世界に行きたいという願望がなくしてみせると言ってきた」
「そ、そうか……」
「ああ、私はそれを了承した。せざるを得なかった。ただし、それが出来ずに姫野遥がこの異世界に転移した場合は最初の案の通り、姫野遥を暗殺すると約束した。姫野遥が異世界に転移しなければお前の勝ち、転移すれば私の勝ち、まあ、言い方は良くないかもしれんが、俺とお前は賭けをしたんだ。だが、結果は……」
「僕の負け……」
「そうだ、だが、お前は記憶失っていたために私との約束を実行せず、姫野遥を守り続けた。そこで私は自分の出来る範囲で姫野遥の抹殺を実行した」
「抹殺の実行!」
「そうだよ、まずは「石の塔」の屋上にゴーレムを二体配備したり、ヴァンパイア・ルガトのスキル『ミストスモーク』での攻撃回避を四度に増やしたりしてな」
「な、あれは神の仕業だったのか……」
「フッ、しかし、姫野遥ではなくお前が死にそうになっていたがな」
「そ、そうですよ。危なかったんですから」
「悪いな、だが、「破滅の石」が生成出来るアイテムや蒼目族の神父を同行させるように仕組んだり、万が一の保険は作っておいたけどな」
「そうか、そうだったんだ…… 色々不思議なことがあったがそれは全て神の仕業だったのか…… なるほど、それならわかる、納得だ」
僕は今まで不思議に思っていたことの答えを知り、胸のつかえがとれた。
「で、これからお前を生き返させるが、その後、どうするかはわかっているな?」
神の言葉に僕は何も言えず地面を見る。そんな僕を神は困った顔で見ているのが何となくわかった。
「とりあえず考える時間を少しやるがお前の死体の前にマリーとその仲間がいる。早く決断しないとお前の死体は処理されてしまうぞ」
僕はしばらく考える。そして、覚悟を決め神に答えた。
「わかった。僕が姫野さんを殺す」