第百四話
「――――きろ」
「――――ウス、起きろ」
「――――サリウス、起きろって。あ、今は龍斗か…… おい! いいから起きろ龍斗」
ん…… ん、だ、誰だ。誰からが僕の名前を呼んでいる。この声、聞き覚えがあるな…… 誰だっけ?
僕はもっと寝ていたかったが、仕方なく背伸びをしながら目を開け上体を起こした。
「う〜ん。ふぁあ。よく寝た。ん、ここはどこだ?」
僕は辺りをキョロキョロ見回す。どうやらここは何もない真っ白な空間のようだ。
「ん? ここは確か……」
「おう、やっと目が覚めたか。サ…… いや、龍斗」
声のした方を見ると目の前に全身黒のスーツで着ている、無精髭を生やしたなかなか渋目のおっさんが僕を見ていた。
「あ、あなたは神、お久しぶりです…… なんであなたがここに…… あ、そ、そうか、僕はアメデに倒されて死んでしまったのか……」
僕はアメデに倒されたことを思い出した。すると、神が少し寂しそうな顔で頷いた。
「そうだ。お前は死んだ。で、今はこのあの世とこの世の境にいるってわけだ。寿命が尽きて死んだ時、一度来たろ?」
「ええ、思い出しました。でも、またここに来てしまうとは…… そ、それにしてもまさかアメデが魔族で、しかもあんなに強いとは…… やられた…… くそ! …… はっ! そうだ。姫野さん、神様、姫野さんは無事なんでしょうか? 確かアメデは姫野さんを連れ去って国を出ると言っていた」
僕が問うと神は残念そうに首を左右に振った。
「駄目だったよ。姫野遥はアメデたちに連れ去れてしまった」
「そ、そんな。神様。お願いします。僕を、僕をまたあの世界に返してください」
僕は立ち上がり神にもう一度、異世界に返してもらうよう頼んだ。しかし、神はわかったとは言わないだろう…… 一度失った命は戻らない…… 僕は絶望感を感じながらも神に頼み込んだ。すると、
「ああ、わかった。こんな事もあろうかと、お前が黒羽龍斗として生まれる時に、二つ命を与えている。もう一度異世界に帰る事は可能だ」
なんてことだ、僕には命が二つあったのか。助かった!! 衝撃の事実に僕は驚いたがそれ以上に喜びが優った。
「よかった。本当によかった。ありがとうございます。神様、では、僕を異世界に戻してください。一刻も早く姫野さんを助けに行かなければ」
僕が神に異世界に戻してもらうよう頼むと神は口を真一文字に結び、かぶりを振った。
「龍斗、お前を異世界に戻す事は可能だ。が、しかし、姫野遥を助けに行く事は許さない」
姫野さんを助けに行く事は許さないだって! 意味がわからない…… どういう事だ。
「神よどういう事ですか? なぜ姫野さんを助けに行けないのです?」
僕が神を問い詰める。
「龍斗、それはお前が前世でサリウスだった時の俺と賭けをして負けたからだ」
賭け? 僕が神と賭けをしただと……
「神よ、一体、どういう賭けを僕は神としたのですか……」
「まだ、思い出さないか…… わかった。話そう、全てを…… 覚悟はいいか?」
僕は神の言葉につばを飲み込む力強く頷く。
「龍斗、まず姫野遥だが、彼女はただの少女ではない、彼女は魔王の母となる存在だ」
「ひ、姫野さんが…… 魔王の母となる存在だって! そんな……」
神の驚きの言葉に僕は思わず後ろに一歩後ずさる。そして、神からさらなる事実を僕は聞かされる。
「ああ、そしてお前をあっちの世界に転生させたのは姫野遥を殺すためだ」