第百二話
「どうやら、君には何かがあるようだ。ただのDランク冒険者ではないな……」
「フン、今頃気づいたか」
僕は剣先をアメデに向けながら一歩前に出る。
「おっと、君にはなるべく近寄らない方がいいようだな」
そう言いながらアメデはサッと後ろに下がる。
「僕に近づかないで戦うつもりか?」
距離を取ったってことは魔法かスキルを使うつもりか?
僕はアメデの攻撃に警戒した。
「フフ、黒羽くん。君は私がスキルか魔法を使うと思っているだろう」
何やら余裕な態度のアメデに僕は慎重になった。
「ああ、違うのかい?」
「違うよ。もっとすごい力だ。特別大サービスだ。この力を君に見せてあげよう」
アメデはそう言うとグッと拳を握り、何やら唸り始めた。
ま、まさか、これは……
僕はアメデが醸し出す不穏な空気に思わず後ずさる。
アメデが発する唸り声がどんどんと大きくなる。それと同時にアメデの体からどす黒いオーラが浮かび上がった。
「ア、アメデ。お、お前、まさか。魔族に魂を売ったな」
「すごいね、黒羽くん。なぜわかった」
アメデの体が発するドス黒いオーラが彼を包むと、体がどんどんと黒く変色して巨大化していく。
そして、アメデの手からは獣のような大きな爪が生え、口からは大きな牙が出てきた。また、頭には大きなツノが生えた。アメデのその姿はまさに悪魔そのものだった。
「黒羽くん。どうだすごいだろう。この姿になれば君の攻撃など怖くはない。さあ、かかってこい」
魔族に変身したアメデの体は五メートルほどまで大きくなった。
なんて事だ。この姿、こいつはただの魔族ではない。あれは最上級魔族だ。
人間が魔族に魂を売るとその体は魔族に変身する事ができる。だが、人間が魔族になっても下級の魔族にしかなれない。
どう言う事だ。
それを不思議に思ったが、今はそれを考えている場合じゃない。僕は大きくジャンプすると剣を振り上げアメデに斬りかかる。
アメデの肩に僕の剣が当たるとガキンとまるで金属同士がぶつかったような音が聞こえた。
「無駄だ。そんなもので私の体を傷つけることなど出来んよ」
アメデは右手を大きく振りかぶると平手打ちを僕に食らわせた。
「ぐほ!」
僕は口から血を吹き出し吹っ飛んでいくと思いっきり地面に叩きつけられた。
「あ、あああ」
大きなダメージを受けた僕だったが必死に立ち上がる。
ヴォヴォヴォヴォ!!
完全に魔族の姿になったアメデがものすごいスピードで僕に向かってくる。そして、右のアッパーを繰り出した。
「うお!」
僕はアメデのアッパーをくらい宙に浮かんだ。その時、僕の意識は失いかけていた。
そして、そこからアメデは僕の顔面を鷲掴みにする。
「ぐあああああ!!」
あまりの激痛に僕は失いかけていた意識が戻った。
「ははははは、どうだ痛いだろう?だが、もう遊びは終わりだ。もっと君を痛めつけたかったが、時間がないのでね。そろそろ終わりにしよう」
アメデは笑いながら僕の体を空高く放り投げる。そして落下していく僕に向かって連続で拳を繰り出してきた。
「だらだらだらだらだらだら!!!!」
なんども繰り出す拳を僕は全て食らう。そのあまりの衝撃に僕は自分の死を悟った。
なんて強さだ。全く歯が立たない。
僕は全身から血を流し地面に平伏す。もう、指一本も動かない。
「ふふふ、黒羽くん、君との戦い面白かったよ。でも、もうサヨナラだ」
アメデが右手を大きく振りかぶる。僕はそれを黙って見ているしかなかった。
終わった……
そう僕が思った瞬間、アメデの拳が僕の顔面に直撃した。その瞬間、僕の命の炎は消えていった。