第百一話
「アメデ・シソッコ、あんた、素手で僕とやる気か?」
なんの武器も持たずに僕の前に立つアメデに聞くと彼は軽く笑い答えた。
「ああ、君程度の実力なら素手で十分だ。それに、今日は僕はここには丸腰できちゃったもんでね。そもそも武器を持ってないんだ」
アメデの余裕な態度に僕は軽く苛つくが表情には出さずに静かに言い返した。
「そうか、死んでからだと後悔はできないよ」
冷静になれ、こいつには何かありそうだ。油断するな…… まずはいつものようにジリジリと少しずつ間合いを詰めて行くぞ。そして、僕の射程距離に入ったら一気に攻撃だ。
僕はゆっくりと息を吐くと肩の力が抜けていくのがわかった。そして、ジリジリと間合いを詰めて行く。
アメデは両手をダラリと垂らしその場から動かずジッとしている。僕はそんなアメデを見て眉をひそめる。
こいつ、素人か? なんて隙だらけなんだ。これなら瞬殺してしまうな。
僕はアメデを攻撃できる射程距離に入ると剣を振り上げた。
もらった!
アメデは反応できず僕の剣に呆気なく斬られる。そう思った。だが、驚くことに目の前にいたはずのアメデが消えた。
どこだ?
僕はアメデを見失った。そう思った瞬間、僕のすぐ前にアメデがパッと現れた。
なに!
突如現れたアメデを見て驚いていると胸に衝撃が走った。僕は後方へ吹っ飛ぶ。
どうやらアメデの掌底打ちを胸に食らったようだ。
僕は地面をゴロゴロと転がるがすぐに起き上がり剣を構える。
しかし、またもアメデを見失う。
すると、すぐ右横で人の気配がした。
ハッと思いそちらを見ようと下が、もう遅かった。アメデの右フックが僕の腹部に飛んできた。
「ぐは!」
あまりの衝撃に僕は前かがみになり嘔吐する。
「なんだ、この強さは……」
顔を上げるとアメデがニコニコと微笑みながら僕を見ている。
「くそが!」
僕は剣を水平になぎ払おうとした。が、それよりも早くアメデの右回し蹴りが僕の顔面にヒットする。
「だは!」
蹴りを食らった僕は宙に舞う。アメデはジャンプして僕の腹部に鉄槌を食らわしてきた。
鉄槌を食らった僕は地面に背中を叩きつけられた。
「うぐ」
背中に強烈な痛みが走り息ができない。僕は必死に呼吸をしよう口を開ける。
「はあはあ」
アメデは僕の髪を鷲掴みにして顔を上げさせると何度も何度も顔面を殴りつけた。
そしてそこから僕の顎に膝蹴りを食らわすとさらに右フックを放つ。
僕はその衝撃で吹っ飛んだ。
「な、なんて強さだ……」
僕は必死に立ち上がろうとするが足が震えて起き上がれない。そんな僕をアメデは相変わらずニコニコと微笑みながら見ている。
「黒羽くんだったね。君、なかなか頑丈だね。驚いたよ」
「ま、まだだ、まだ終わってないぞ……」
僕は力を振り絞り何とか立ち上がる。
「だが、もう疲れた。そろそろ終わりにしよう。ジャン達も、もう来る頃だしね」
くそ、こいつの強さは何だ…… 全く動きが見えない。一体どうすればあいつの動きを捉えられる……
そうか、見えないなら見なきゃいんだ。そう、見るのではなく感じるんだ……
僕は剣を青眼に構えると目を閉じる。
「フン、目を閉じるだと…… 最後の悪あがきか…… つまらん」
僕は心を落ち着かせ、アメデの動きを感覚で捉えようと意識を集中させる。
すると、アメデがものすごい速さで動いているのがわかった。あちこちで地面を蹴る音が聞こえる。
集中しろ、集中しろ、集中だ……
「ここだ!」
僕は剣を振り下ろした。だが、手応えはない。僕は目を開けた。
「おっと、危ない危ない」
振り下ろした剣のすぐ横にアメデが立っていた。どうやら僕の剣は避けられてしまったようだ。
しかしアメデの顔は先ほどの余裕の顔とは違い少し焦っていた。
そしてアメデはパッと後ろに飛びのく
「面白いね、黒羽くん、さっきの攻撃、少しだけ驚いたよ」
くそ! ダメだったか……
僕は剣先をアメデに向ける。
「どうやら君はなかなか油断できない男のようだ。もう手加減なしで終わりにするよ」
そう言いながらアメデが拳を握り構えた。
これが通じないとなるともう、ダメか…… と、僕の気持ちが折れた瞬間、何とアメデの肩から血が吹き出した。
「なに! バカな…… 完全に見切ったはずだ」
アメデは驚いた表情で僕を見る。そんなアメデの表情を見て今度は僕がニコっと微笑む。
「フフ、どうやらまだまだ勝負はこれからのようだな。アメデ」