第一話
僕がこの異世界に来て一ヶ月がたった。
僕は今、イスカグランという国のカスドルという町で冒険者をやっている。カスドルは平野を中心とした地域で沿岸部から走る暖流の影響からか割合と暖かい気候に恵まれている。そのため産業が発展しやすく多くの人が行き交う町となっている。
だが、町が発展すると同時に魔物による被害も多く発生していた。そんな訳でこの町の冒険者ギルドは常に冒険者を募集している。
僕は堅牢な建造物の立ち並ぶまさに中世ヨーロッパといった感じの街並みを眺めながら色彩豊かな石畳を踏み締めいつもの通り冒険者ギルドまで歩いていく。
「ふう、やっと着いたな」
立ち並ぶ建造物の中で一際大きな建物の前に立つと扉には冒険者ギルドカスドル支部と書かれていた。僕はその扉を開け中に入る。
「おっと、今日もギルドは大盛況だな」
ギルドの中は人で溢れていた。僕は人をかき分けギルドに掲示されている魔物退治の依頼書を眺める。
「ん〜、今の僕にぴったりの依頼はないかなっと」
しばらく掲示板を眺めていると農場を荒らすコボルトを退治してほしいという依頼を見つけた。
「お! これなら丁度いいな」
僕は掲示板に貼られている依頼書を持ってギルドの窓口に向うと黒いスーツを着た20代前半ぐらいの綺麗な女性が応対してくれた。
「やあ、どうも。ライミさん。この依頼を請負いたいんですけど大丈夫ですか?」
窓口に立っているライミさんに依頼書を渡すと彼女はニッコリと笑顔で返事をする。
「いらっしゃい黒羽 龍斗くん。今日も精が出るわね。もうこの世界に来て一ヶ月だよね。随分と慣れた感じね」
「はい、お陰様で」
「すごいわね。この世界に転移してくる人は年に100人ぐらいいるけど、君みたいに冷静な子は初めてよ。大体の人はパニックになって異世界の難民キャンプに移住させられるのに」
「まあ、慌ててもしょうがないし、ここで仕事してた方が元の世界に帰る情報も集まるのかなって」
「そう、本当に頑張ってね。……えっとコボルト退治の仕事だったわね。うん、この仕事はDランクだから大丈夫よ」
「そうですか! よかった。では、早速行ってきますね」
「ちょっと待って、その服って確か学生服だったよね。君、それ前の世界で着てた服のままでしょ? そろそろ他の服か防具も買ったら? この隣は防具屋になっているからそこに寄って行きなさい」
「はい。でも、この間この剣を買ったばかりでお金が厳しいので…… でもとりあえず見るだけ見てみます。ありがとうございます」
「そう? 結構ギルドの仕事してるからお金があると思ったけど……」
不思議な顔で僕を見ているライミさんを尻目に僕はギルドを出た。
「さてと……」
僕はギルドの依頼書の裏に書いてある依頼主が住んでいる地図を確認した。依頼主はここから5キロほど東に行った村に住んでいるようだ。
早速、僕はギルドに停めてある馬に乗り込むと村へと向かった。
そして、しばらく馬を走らせていると目的の村につく。僕は依頼主の家を訪ねた。
「スミマセ〜ン。ギルドから派遣されたものです」
僕が扉をノックすると中からヨボヨボのおじいさんが出てきた。
「あれまぁ。ようこそいらっしゃいました。こりゃ随分お若い冒険者さんですね〜。こんな若くて大丈夫ですかぁ?」
「はい、おそらくは…… おじいさん、ちょっとお聞きしたいですが、農場を荒らすコボルトはいつも何匹ぐらいいるかわかりますか?」
僕が尋ねるとおじいさんは人差し指をコメカミに当て記憶をたどるように上目づかいになる。
「う〜ん。よく覚えてないねぇ。コボルトが出ると怖くてすぐに家に引っ込んじゃうんでね〜」
「そうですか。まあ、コボルトは大体いつも、五、六匹で行動してますから、それぐらいかなと思います。それなら今の僕でも倒せますので安心してください」
「こりゃ頼もしいねぇ〜 それではお願いしますよ」
「はい。そろそろ日が暮れる頃ですね。コボルトは日が暮れるとすぐ出てきますのでおじいさんは家の中にいてください」
「はいはい」
おじいさんが部屋の中に入ると僕は農場の方を見た。
「あそこか、さっ! 始めるか」
そういうと僕は腰に帯刀している銅の剣を抜き農場へ向かった。
「さてと、とりあえずステータスを確認しておくか」
僕は目の前の空間を人差し指で叩いた。
名前:黒羽龍斗 Lv10 種族:人間(男) 職業:魔法戦士 役割:アタッカー
HP:100/100
MP:95/95
SP:0/0
力:7P
魔力:8P
敏捷:3P
耐久力:3P
器用さ:0P
魔法:レイジングブレッドLv3:9P
ヒールLv1:3P アイスランスLv2:6P
装備:銅の剣:10P
所有ポイント:0P
Ex:617
「う〜ん、まだまだレベルが低いなぁ。でもコボルトぐらいなら何とかなるだろう」
そんな独り言を言っていると、草むらからガサゴソと音が聞こえてきた。
僕は音のする方を向くと草むらから六匹のコボルトがワラワラと出てきた。コボルトは牙を僕に見せつけながらのそのそと向かってくる。
「フン、お出ましか」
僕は剣を正眼に構えコボルトを迎え撃った。
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