この分だと、デザートにおれたちを食いに戻ってくるかもしれねえな。
バルテル少尉から通信が入った。
例のコカトリスが「食われている」という。
オシュトロー西の、森の中。
樹木はなにものにも制限を受けず、思いおもいに曲りくねり、伸び放題になっている。人々はほとんど足を踏み入れることがない。鬱蒼と茂る森林は、獣や鳥たち、無数の昆虫が生きる世界であり、人間の世界ではなかった。
そして本来であれば、魔族の住まう世界でもない。
スズとエルナがたどり着いた森の中は、異臭で充満していた。
コカトリスの肉と体液から発せられているにおいだった。辺りには羽とどす黒い血が飛び散っており、付着した木々や草花が鈍色に変色していた。
「周辺に飛び散っている体液には絶対触るな! 固まっちまうぞ!」
バルテル少尉が指揮をとり、兵士たちが周辺の調査を行っている。
「少尉。魔族コカトリスの死体は計七体」バルテル隊の兵士のひとりが言う。「以前軍用列車から迎撃し、生き残っていた個体数と一致します」
「わかった。引き続き周囲に警戒だ」
バルテル少尉が指示を入れる。
部隊の野営地から森林を約十五キロほど西に入ったところで、コカトリスの死体が発見された。それらは、この森で息づくものとは相いれず、致命的に場違いだった。散らばった肉片も、邪悪な色をした血液も、まるで突然現れたかのように、そこに存在している。
コカトリスの残骸のようすからは、はっきりとわかることがあった。
それらは、明らかに捕食されたあとだったのである。さらに不気味なことに、それはまるで、肉の正しい解体方法を知っている「人間」が、順序よく「食事」をしたあとのように見えた。
最初に頭を取り外され、そこから大量の血が抜かれている。毛で覆われた皮の部分が剥がされ、蛇のような尻尾も切り落とされている。それらの「食べられない」部分は、頭部と一緒にまとめて放り捨てられていた。一緒に得体の知れないぶよぶよとしたものも放られていたが、それは内蔵だった。
残りの「可食部」であるもも肉やむね肉、足の付け根の肉などが主に捕食されており、最後に捨てられたであろう脚には、かじり取ったような跡が残っている。
コカトリスが家畜を捕食した跡とは、明らかに違う。そこにはどこか文明的な、身の毛がよだつような賢さが感じられた。
「どう思う? 中尉」
バルテル少尉はスズに聞く。
通信を受けたスズは、エルナと一緒にヴイーヴルに乗って、現場に急行した。
エルナはこの惨状を見てずいぶん顔色を悪くしてしまったが、先ほどヴイーヴルを見たときは大興奮だった。
「通常の動物である可能性はまずありません。魔族でしょうね」スズは言う。「これは明らかに人型の、手指を器用に使うことのできる二足歩行の魔族です」
「石化なんて気にせず食っちまう野蛮な巨人ってことか。この分だと、デザートにおれたちを食いに戻ってくるかもしれねえな」
バルテル少尉が笑った。
「ちょっと、やめてくださいよ」
エルナがバルテル少尉を小突く。
スズは肉片の散らばるその周辺を観察する。
何箇所か草木が円型に潰されているところがあった。直径三メートルくらいのちょっとした竪穴のようになっている。
それは、確認できる限り五つあった。
「五体。たぶん数時間、ここで宴会でもしていたんでしょう」
周辺の木々は適度になぎ倒され、ぽっかりと空間が出来上がっていた。
残った肉片はまだ腐食が始まっていないところからすると、ここ二十四時間での出来事である可能性が高かった。
「オーガー、またはサイクロプス。もしかしたら、オルフ戦争では確認されてない新種かも知れませんね」
スズが言う。それを聞いたエルナは血の気が引いたような顔をした。
「いずれにせよ、司令部に連絡して応援をよこしてもらいましょう」スズは続けた。「五体も村に現れたら、この戦力じゃ太刀打ちできません。周辺の町や村には軍を配備し、厳戒態勢を敷く必要があります」
「おいおい、そのオーガーだかなんやらは、そんなにやばいのか?」
バルテル少尉がにわかに目つきが鋭くなる。
「やばいです」エルナが替わりに答えた。「これは士官学校の召喚術過程では詳しく扱うんですけど、オーガーやサイクロプスは、召喚術師の命令の理解度も高く、オルフ戦争では反乱軍前衛の最高戦力だったんです。硬い皮膚を持っていてこちらの攻撃もなかなか通らないし、その大きな体躯にもかかわらず、非常に俊敏です。当時のルーンクトブルグ軍、ソルブデン軍、諸外国の義勇兵たち多くが、この魔族に食われて命を失ったと――」
スズが頷いた。
「こいつらがもし一般市民を襲ったら、すぐさま非常事態宣言が発動されます」




