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白銀の簒奪者  作者: たかまち ゆう


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第71話

「……何だよ、あんた達」

 ついに姿を現した、銀色の髪の少年が、不機嫌そうな顔で僕達を睨む。


 少年は、一人の女性を連れて来た。

 ブラウンの髪を長く伸ばした、綺麗な女性だ。

 白い下着しか身に着けていない身体を、抱くようにして俯いている。


「ケイト、貴方は無事だったのですね」

 ロゼットが安堵の表情を浮かべる。

 ケイトと呼ばれた女性は、ロゼットの姿を見て目を見開いた。

「お嬢様……!」

 ケイトは、慌てた様子でロゼットとタームを交互に見た。

 おそらく、タームがロゼットを殺すのではないかと思ったのだろう。


 しかし、タームは、ケイトよりもさらに慌てた様子だった。

「お、お嬢様……!? あの、これは……!」

 タームの反応は、まるで浮気現場を見られたかのようだ。

 彼が、ロゼットに対してこんな反応をするとは……あまりにも予想外である。


 ロゼットは、いきなりタームに対して跪いた。

「お、お嬢様……!?」

「申し訳ありませんでした、ターム。貴方には、耐え難い思いをさせてしまいましたね。貴方が望むのであれば、私はどのような償いでもします」

「そんな……おやめになってください! 俺は、お嬢様にそんなこと……!」


 ベルさんは、何が起こっているのか分からない、といった表情をしていた。

 おそらく、僕も今、全く同じ表情をしているのだろう。


 ロゼットは、タームに促されるようにして立ち上がった。

「全ての責任は、私が取ります。ですから、生き残っている者がいるのであれば、全員を解放してください」

「……生き残っている人間なんて、ほとんどいませんよ。この女を助けたのは、ただの気まぐれです」

 そう言って、タームはケイトを示した。

「ほとんど、ということは、他にもわずかに生き残りがいる、ということですか?」

「……使用人は、他に2人だけ……。あとは、娼婦が3人残っているだけです」

「……!」


 ロゼットは肩を震わせた。

 それは、悲しみによるものであるようにも思えたが、怒りによるもののようにも思えた。


「……とても、残念です」

「すいません……」

「……私には、貴方を非難する権利はありません。この事態を招いたのは、私とお婆様なのですから……」

「いえ……お嬢様は、何も……!」


「ちょっと、2人だけで盛り上がらないでほしいんだけど」

 ベルさんが、不愉快そうに口を挟んだ。

「何だよ、あんたら。関係ない人間は出て行ってくれ」

 タームがそう言い放った。

 彼の反応があまりにも冷たいので、ベルさんは動揺した。

「関係ないって……貴方、私達の髪が見えないわけじゃないでしょう?」

「髪? ああ、あんたらも、俺と同じダート人の末裔なんだな……。でも、他人であることに変わりないだろ?」

「他人ですって……!?」

 ベルさんが、悲鳴のような声を上げる。


 僕も驚いていた。

 タームの関心は、明らかにロゼットだけに向けられている。

 それも、事前に予想していたような、憎悪の感情によるものではない。

 彼の様子は、自分が仕える屋敷の令嬢に恋をしてしまった、使用人のものに近いように見えた。

 おそらく、ケイトという使用人の女性とは、直前まで性的な行為をしていたのだろうが……その彼女のことすら、今では完全に、どうでもいい存在に成り下がっているようだ。


「君は、ロゼットのことを恨んでないのかい?」

 僕は、思わず口を挟んだ。

 すると、タームは驚いた様子で首を振った。

「お前は何を言ってるんだ! 俺がお嬢様を恨むはずがないじゃないか!」

「でも、君はこの別荘にいた人間を、ほとんど殺したんだろう?」

「それがどうした? あいつらは、死んで当然の連中だから殺したんだ」

「……それなのに、ロゼットだけは別なのかい?」

「当然だろ? お嬢様は、あの連中とは違う」

「……訳が分からないな。ロゼットは、君を虐待した人の孫なのに」

「あのババアの話はするな! 吐き気がするじゃねえか!」

「……」


 考えてみれば、あり得ることだった。

 ロゼットは、出会った男性が一目惚れしてもおかしくない容姿をしているのだ。

 タームは、明らかにロゼットのことが好きなのだろう。

 しかし、僕達は、タームがロゼットのことも憎んでいるに違いない、と思い込んでいた。


 ベルさんは、非常に悔しそうな顔をしている。

 こんなことになるのであれば、ロゼットのことは、さっさと殺しておくべきだったと後悔しているのだろう。


「貴方は、これからどうするつもりですか?」

 ロゼットがタームに尋ねると、彼は困った様子で言った。

「どうって……俺には行くアテも無いですし、これだけたくさんの人間を殺して、タダで済むはずがありませんから……ここで、気が済むまで楽しんだら、この建物を燃やして死のうと思ってたんですけど……」

「では、その時まで、私も貴方と共に過ごしましょう。ですから、ケイト達を解放してください」

「そんな、お嬢様を巻き込むわけには……!」

「良いのです。私は、屋敷に仕えてくれた者や、別荘を管理してくれていた者の多くを死なせた責任を取らねばなりません。それに、貴方に対する償いをするつもりで、ここまで来たのですから」

「お嬢様……」


「冗談じゃないわ! ターム、私達には、貴方の力が必要なの!」

 ベルさんが、必死な様子で訴える。

「そんなの、俺の知ったことじゃない」

 タームは、煩わしそうに言い放った。

 もはや、ロゼットのことしか考えられない、といった様子だ。

「貴方は、オットーム……オルト人に報復したいと思わないの? 貴方が屋敷に来ることになったのは、オルト人の社会で冷遇されたからであるはずよ?」

「馬鹿らしいじゃねえか、そんなの。女と遊ぶ方が、よっぽど楽しい決まってるだろ」

「私達は、貴方と同じように、オットームから虐げられている同族を助ける活動をしているの。お願い、力を貸して!」

「知るか。勝手にやってろ」


 タームの態度に、ベルさんは激しい怒りを覚えたようだ。

 ついに、冷たい口調で言い放つ。


「別荘の人間の大半を殺されて、ロゼットが、いつまでも大人しくしていると思ってるの? 貴方は、きっと、その女に殺されるわよ?」

「構わねえよ。どうせ死ぬつもりなんだ。お嬢様がそうしたいなら、そうしてくれればいい」

「……‼」


 ベルさんは言葉を失った。

 ロゼットは、タームに抱き付いて、勝ち誇ったようにこちらを見てくる。


 どこまで計算していたのかは分からない。

 だが、ロゼットには、こうなる未来が見えていたのではないだろうか?

 彼女のことを、恐る恐る、といった様子で抱き返すタームを見ながら、そんなことを思った。

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