第6話
夜が明け、外に逃げ出した村の人間が戻って来た。
その数は、元の数の半分以下になっているようだった。
皆が、自然と村の中心部の広場に集まる。祭りなどで使っている場所だ。
その場に集まった者は、互いに慰めたり、励まし合ったりしている。
そして、その全員が僕から距離を取り、こちらを恐れるような目で見た。
僕は、まだ剣を手放していなかった。
あれだけの数の魔物を斬ったのに、刃こぼれした様子も無い。
おそらく、僕が魔法で強度を上げていたからなのだろう。
何だか、まだ暴れたりない気分だった。
「ティルト!」
クレアが広場にやって来た。フードを目深に被った姿の、ベルさんも一緒だ。
「クレア……良かった、無事だったんだね」
僕が笑いかけると、何故か、クレアは後ずさるような動きをした。
「……ティルト?」
「喜んでよ、クレア。僕は、凄い力を手に入れたんだ。グラートの魔物なんて、僕にとってはただの雑魚だよ。この力があれば、僕はきっと英雄にだってなれるはずさ」
「クレア! そいつから離れて!」
嫌な女の声が聞こえた。スーザンだ。
「そいつはボブを殺したの! やっぱり、銀色の髪の人間は呪われているのよ!」
スーザンはヒステリックに叫んだ。
何て女だ。せっかく、僕が皆を助けてやったのに……!
「よせ、スーザン!」
周囲の村人は、スーザンを諭すように止めた。
連中は、明らかに僕のことを恐れていた。
こちらを怒らせるようなことをすれば、ボブのように殺されると思っているのだろう。
そうだ。今までの僕は弱かったから、こいつらに好き放題されてきたのだ。
でも、今は僕の方が優れている。だったら、こいつらをどうしようと自由なはずだ!
「その女を殺す」
僕は宣言した。
村の連中はざわめいた。どうすればいいのか、と互いに顔を見合わせる。
「どけ。邪魔だ」
そう告げると、連中はスーザンから少しずつ離れていった。逆らって、巻き添えになることを恐れているのだ。
「そんな……嘘でしょ……?」
先ほどまで、僕に嫌悪の眼差しを向けていたスーザンは、自分が村の人間から見捨てられたことを理解したらしく、真っ青な顔で後ずさった。
今までチヤホヤされていても、いざとなればこんなものである。いい気味だった。
「ティルト、やめて!」
クレアが叫ぶ。
しかし、やめるつもりなど全く無い。
あんな女くらい、一瞬で殺してみせる。
そう思い、一歩を踏み出そうとした、その時だった。
「待ちなさい、ティルト。まだ、魔物が残っていたみたいよ?」
ベルさんがそう言った。
彼女の視線の先には、確かに3体の魔物がいた。
こいつら、まだいたのか。
きっと、森の中で獲物を探していたのだろう。
人がここに集まったから、戻って来たに違いない。
一体の魔物が、ベルさんの方に向かって行く。
ベルさんは、初めて見た時と同じ魔法を使い、その魔物をあっさりと切り刻んだ。
やはり、この人は凄い。さすがはダッデウドである。
この魔物に歯が立たなかった、この村の連中とは大違いだ。
別の一体は、こちらを目がけて突っ込んできた。
僕は、相手を一瞬で斬り捨てた。
なんて弱いんだ。こんなの、何百匹押し寄せてきても、負けるはずがない。
残る一体がスーザンに襲いかかる。
彼女は悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、足がもつれたらしく転んだ。
他の村人は、先ほどよりもさらに距離を取っている。誰も、スーザンを助ける素振りは見せない。
このまま放っておけば、あの魔物はスーザンを餌食にするだろう。
しかし、そんなことをさせるつもりは全く無かった。
勝手なことをするな。その女は、僕の獲物だ!
頭に来て、僕は魔物を追うように走った。
それなりに距離はあったが、ダッデウドの魔法は動きを加速してくれる。魔物に追い付くまでは一瞬だった。
僕は、魔物の首を斬り飛ばした。