表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の簒奪者  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/116

第68話

 僕達は、充分に休んだ後で、干していた衣類を回収して、旅を再開した。


「私達が寝ている間に、逃げ出すかと思ったわ」

 ベルさんが、ロゼットに対して嫌味を言う。

「今さら逃げたりしませんよ。第一、逃げられることを心配をするよりも、私に寝込みを襲われて、殺されることを警戒すべきではないですか?」

 ロゼットがそう言うと、ベルさんは笑いながら首を振った。

「あり得ないわよ、そんなこと。貴方は、人を殺せるような人間じゃないわ」

「よく、そのようなことが断言できますね? つい先ほど、薬を盛られて、殺されかけたばかりだというのに」

 ロゼットに指摘されると、ベルさんの顔が引きつった。

「出会ったばかりの相手だと、本性を読むのは難しいのよ。それに、あの男だって、本当は人間を殺すことなんて出来なかったはずだわ。そのことも、読み間違いの原因の1つよ」


 ベルさんの言葉に、僕は驚いた。

 本性を表したあの男は、とても、そんな善良な人間には見えなかったからだ。


「ティルト達の話を聞く限りでは、とても、そうは思えませんが?」

 ロゼットが疑問を呈した。

「それは当然よ。人間の定義は、人それぞれだもの」

「何ですって?」

「貴方……身近にダッデウドがいたのに、そんなことにも気付いてなかったの? よく考えてみなさい。ダッデウドを人間だと認識していないオットームは、珍しくないでしょう? そういうオットームは、ダッデウドを平気で殺すことが出来るわ。それは、人を殺すことが平気だからじゃないの。その人にとって、ダッデウドが人間じゃないから平気なのよ」

「……」

 ベルさんの言葉を聞いて、ロゼットは絶句した。

「だから、どんなに善良で、まともに見える人間であっても、ダッデウドを殺す可能性は否定できないわね」

「……あの男は、オルト人である私のことも、最終的には殺すつもりだったと思うのですが?」

「そうでしょうね。あの男は、ダッデウドのことだけじゃなくて、女のことも、人間だと認識していなかったみたいだから」


「人間の定義なんて、主観的に決まるものじゃないはずなのに……」

 クレアが悲しそうに言った。

 それを聞いて、ベルさんは呆れ返った様子だ。

「貴方、まだそんなことを言っているの? 貴方だって、自分が住んでいた村で、ティルトを人間扱いしていなかった連中のことを、散々見てきたはずでしょ?」

「さすがに、そこまで酷くはありませんでしたよ! そうでしょう、ティルト?」


「……」

 クレアに言われて、僕はしばらく考えた。

 そして、答えを出す。

「僕は、ベルさんが言ってることは正しいと思うけど」

「そんな……」


 僕の言葉を聞いて、クレアの顔は青ざめた。

 そんな僕達のやり取りを聞いて、ベルさんは鼻を鳴らした。


「よくあることね。加害者側と被害者側との間で、状況認識が乖離している、なんてことは」

「クレアが加害者だったわけではありませんけど……」

「同じことでしょ? クズみたいなオットームの連中と、仲良くしてたんだから」


「そんな酷いことを言わないでください! 村の人達は、皆いい人達だったんです! ティルトのことは、言い伝えの影響で避けていただけで……!」

 必死な様子で言うクレアに対して、ベルさんは白い目を向けた。

「……貴方、私とティルトが言ったことと、自分で言ってることについて、もう少し真剣に考えた方がいいわよ?」

「……」


 ベルさんにトドメを刺されて、クレアは黙り込んでしまった。

 自分の発言が、ベルさんの言葉を裏付けてしまっていることに気付いたのだろう。


「気にしない方がいいですよ、クレア。差別主義者であるこの人に、貴方や、貴方が住んでいた村の人間を非難する資格はありません」

 ロゼットがそう言うと、ベルさんは彼女を睨みつけた。

「貴方だって、タームっていう少年を苦しめた加害者だということを忘れないで」

「……忘れていませんよ、そのことは。ですが、貴方がオルト人を虐殺することを肯定しているのは事実でしょう?」

「当然じゃない。オットームに、生かしておく価値があるとは思えないもの」

「……」

 筋金入りの差別主義者であるベルさんに、これ以上何を言っても無駄だと思ったのだろう。ロゼットは黙り込んだ。


 その後にも2日を要したが、ようやく僕達は湖までやって来た。

 この近くに、ロゼット達の別荘があるはずだ。


 皆の間に緊張感が高まる。

 ついに、タームという少年を救い出す時がきたのだ。

 そのことに集中しているらしく、ベルさんは、湖での水浴びを提案したりはしなかった。


 僕は、他の理由でも緊張していた。

 ベルさんは、ロゼットを殺すと宣言しているのだ。


 いざとなったら、ペティと同じ方法で、ロゼットの命を助けることも考えられる。

 しかし、ロゼット自身が、ベルさんに殺されることを受け入れているのだ。

 今さら、僕に凌辱されてまで、助かることを望みはしないだろう。


 一体どうするべきか……?

 そんなことを考えている間に、僕達はロゼットの別荘に辿り着いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ