第5話
僕は駆け出していた。
クレアが何かを叫んだが、僕は振り返らなかった。
こんな世界はおかしい。理不尽だ!
何が呪われた民族だ。じゃあ、お前達は、神に祝福されるような、立派な人間だとでもいうのか!
そんな人間は、髪の色や力の優劣で、他人を差別したりしないはずだ!
ベルさんも僕の味方じゃない。結局、皆が僕のことを価値の無い人間だと馬鹿にするんだ!
もう、こんな世界は滅んでしまえ!
村を襲っている魔物が何匹か目に入る。
僕は、その一匹に殴りかかった。
当然、敵うはずなんてない。
しかし、もう身の安全なんて気にならない。
とにかく、怒りをぶつける相手が欲しかった。
その結果、魔物に殺されたとしても、どうでもいい気分だった。
相手が振り回した腕をかいくぐり、魔物を力任せに殴りつける。
すると、その魔物の身体は、落ち葉のように舞い上がった。
驚いたのは一瞬だけだった。
当然ながら、僕にこんな腕力は無い。
いや、その前に、相手の攻撃をかわすような、俊敏な身のこなしだってあり得なかった。
この現象を説明できるとしたら、可能性は1つだけだと直感的に理解する。
これは、ダッデウドの魔法だ!
続けて、近くの魔物が、こちらに襲いかかってくる。
しかし、遅い。
僕は、相手の爪をかわし、顔面に拳を叩き込んだ。
その魔物の、いかにも凶暴そうな顔が、メチャクチャに砕ける。
何て気分がいいんだろう!
思わず笑いがこみ上げてきた。
僕の魔法は、ベルさんのものとは系統が違うようだ。
オルト人にも使える、補助魔法と同じものかもしれない。
しかし、効力が桁違いだ。これだって、かなり強力な魔法に違いない。
村の人達が全く歯が立たなかった魔物を、何体も容易く葬った。
弱い。弱すぎる。
こんな奴等に殺されるなんて、この村の住人はどれだけ弱いのだろうか?
こんな魔物にすら敵わないような連中に、僕は今まで、いじめられ続けてきたっていうのか?
……ふざけるな。
ふざけるな!
そんな程度の実力しかない連中が、今までずっと偉そうにしてきたのか?
お前らだって弱いくせに!
ふと、足元に転がっていた剣に目を止めた。
近くには、その持ち主であっただろう男の死体が転がっている。
僕はその剣を拾った。
そうだ、戦うには武器があった方がいい。
これで敵を切り刻んだら、気持ちがいいのではないだろうか?
オルト人の魔法でも、無機物を硬くしたり、刃物の切れ味を上げたりすることができたはずだ。
僕の魔法で強化して剣を振るえば、かなり頑丈な物でも斬れるのではないだろうか?
その効力を試してみたくなり、僕は駆け出した。
早速、一匹の魔物を発見し、僕は剣を横一線に振り抜く。
すると、魔物の胴体はあっさりと上下に斬り分けられた。
思わず笑いが漏れる。
想像以上に爽快な気分だ。
そのまま獲物を求めて駆け回っていると、建物の陰に村の人間が隠れているのを発見した。
その連中は、僕を見て恐怖を覚えた様子だった。
そうだ、それでいい。
僕が怖いか?
今までいじめてきた相手が、自分よりも遥かに強くなって、お前達はどうする?
ふと、そこにいたメンバーの中に、ボブという男がいるのを見つけた。
この男こそ、僕に石を投げて、怪我をさせた張本人である。
こんな奴が、まだ生き残っていたのか……!
躊躇はしなかった。
僕は、恐怖に顔を歪めていたボブの首を刎ね飛ばした。
周囲の人間が、けたたましい叫び声を上げた。
うるさい連中だ。こんな奴が死んだくらいで、そんなに騒ぐんじゃない!
僕が一睨みすると、先ほどまで叫んでいた連中が、真っ青な顔で黙り込んだ。
最高の気分だ。他人に恐れられるというのは、こんなに気持ちのいいことだったのか!
僕は、新たな獲物を求めて走り出した。
目に付く魔物は全て斬り捨てる。
村の連中は、生まれ変わった僕を見て、恐れるばかりだった。
そうだ。僕は今までとは違う!
お前らみたいなクズよりも、遥かに優れた人間なんだ!
僕は、はっきりと悟っていた。
オットームは、僕よりも劣った存在だ。
ダッデウドこそ、この帝国を支配するのに相応しい存在なんだ!
やがて、村の周辺からは、生きている魔物の姿が見当たらなくなった。