第4話
ベルさんの答えが、あまりにも非現実的だったために、僕は腹が立った。
「それが出来たら、とっくにやってますよ!」
「あら、貴方だってダッデウドなんだから、私と同じような魔法が使えるはずよ?」
「えっ……?」
そんなはずはない。
あんな魔法が使えるなら、僕は、魔法が下手だと馬鹿にされたりしなかった……!
「貴方は混血で、ダッデウドの魔法についての知識も無いから、上手く魔法を発動させられないのね。よくあることだわ」
「どうすれば、ベルさんと同じ魔法が使えますか?」
「簡単よ。攻撃的な感情を高ぶらせればいいの」
「攻撃的な、感情……?」
「怒りや憎しみの感情よ。ダッデウドは、常にそういった感情を周囲から取り込み、魔力に変換して戦うの」
「それじゃ、オルト人と正反対だ……」
この帝国の多数派であるオルト人は、誰かの役に立ちたいという、善良な精神を魔力に変換するのだ。
だから、他者のために尽くす良い人になれ、というのがオルト人の教えである。
「そう思う人が多いから、オットームの社会で生まれたダッデウドは、混乱してしまって、魔法が使えないんでしょうね。本当は、ダッデウドもオットームも、使っている魔法に大差は無いのだけど……」
「細かい話は後にしましょう! あの魔物達に怒りを向ければ、僕でも魔法が使えるんですね?」
「そうね。ただし、慣れないうちは、心の全てを、破壊の願望で埋め尽くすくらいの衝動が必要になるわ」
「……」
僕は困ってしまった。
よく考えてみると、多くの人が死んでいるのに、僕にはそこまでの怒りが無かった。
「ティルトは優しいもの……そんなに怒るなんて無理よ」
クレアは、こんな時でも僕に優しかった。
「あら、甘いのね。父親の仇をとってほしくないの?」
「私は……ティルトに、そんなことを望んだりしません!」
「それは構わないけど……貴方、勘違いしてるわよ?」
「……何をですか?」
「この子は、もしも殺されたのが貴方だったら、使い方を聞いた時点で魔法を発動させているはずよ。そうなっていないのは、死んだのがどうでもいい連中だからよ」
ベルさんの指摘を、僕は慌てて否定しようとした。
「そんなことは……!」
「ない、と自信を持って言える?」
「……」
ベルさんの指摘は正しい。
そのことは、認めるしかなかった。
仮にクレアが殺されていたら、きっと僕は怒り狂っていただろう。
そこまでの感情が湧き上がってこないのは、死んだのが、僕を虐げていた人達だからに他ならない。
「でも、今のままだと困るわ。ダッデウドの数は少ないから、貴方にも戦ってもらう必要があるもの」
「……何か、方法はありませんか? 僕でも、簡単に魔法が使えるような……」
「あるけど……後で、私のことを恨まないって約束できる?」
「はい!」
「そう。なら言うけど……あるわけないでしょ、そんな方法!」
僕は驚いた。
ベルさんが、突然怒り出したからだ。
「ベルさん……一体……?」
「冗談じゃないわよ。やっと見つけた同族が、こんな腰抜けだなんて。もういいわ。貴方、そのクレアっていう子と、仲良く死んじゃいなさい」
「どうして……そんな、酷いことを言うんですか……!」
「貴方が、どうしようもない人間だからに決まってるじゃない。何の役にも立たない人間に、生きてる価値なんて、あると思ってるの?」
「やめて!」
クレアが、僕を庇うように割り込んできた。
「誰かに憎しみをぶつけられないのは、ティルトが優しいからでしょう? 貴方みたいな人に、ティルトを悪く言われたくありません!」
「そう。貴方はティルトを庇うのね……でも、他の村人はどうかしら? 大半の住人が死んで、その子が生き残ったら……最悪の場合、八つ当たりで殺されちゃうかも?」
「そんな……まさか!」
「あり得ないとは言えないわよ? 実際に、理不尽な理由で殺されたダッデウドはたくさんいるもの。火山が噴火したのはお前のせいだ、と言われて、リンチされて死んだ子がいたり、ね」
「……!」
火山が噴火するのは、人々が神を怒らせるようなことをしたからだと言われている。
その責任を、一人の人間に押し付けるなんて……!
「そんなこと、私がさせない!」
クレアがそう言うと、ベルさんは首を振った。
「無理よ。あんまり庇うと、貴方だって殺されちゃうかもしれないわよ?」
「そんなことって……!」
「多くの人が死ぬような出来事が起こった後の人間って、普段ならやらないようなことを、やっちゃうものなの。でも、そうなっても仕方がないじゃない。元々、弱い人間は殺されてしまうものなのよ」
「……」
「ここで生き延びても、後でオットームに殺されるとしたら、何のために助けるのか分からないわね。後は、貴方達だけで何とかしなさい」
「そんな!」
「二人だけで逃げても、のたれ死にするだけでしょうから、もうティルトは死ぬしかないわね。何も悪いことをしていない貴方が死ぬなんて、酷い話だけど、仕方がないわ」
そう言って、ベルさんは僕を嘲笑った。
「だって、貴方は嫌われているんですもの」
そう言われた瞬間、僕の頭の中で、何かが弾けた。




