第45話
その夜になって、状況は一変した。
「……」
「……」
クレアとレレの、汚らわしいものを見るような視線が、僕に突き刺さる。
彼女達の後ろにはノエルがいた。
散々泣いた後で、目の回りが少し腫れている。
ノエルが彼女達に、全て話してしまったのだ。
僕が、紐を切ることができなかったわけではなく、切らなかったのだと知って、耐えきれなくなったのだろう。
そのために、僕は糾弾されようとしているのだ。
全身から、冷や汗が噴き出すのを感じた。
「……話は聞かせてもらったけど、私は事故だと思うわ」
僕達の様子を見守っているベルさんがそう言った。
「でも、ティルトは紐を切らなかったんですよ!? それは……最終的にそうなることを、期待していたからでしょう!? つまり、そういう趣味があった、ということじゃないですか!」
「誤解だと思うけど。私達が催しても、ティルトは喜んだりしないじゃない。むしろ、凄く気を遣ってもらっていると思うわ」
「それは、自分の性癖が、異常だって知っているからじゃないんですか!?」
「酷いことを言ったら駄目よ。ノエルを縛ったのは私であって、ティルトじゃないわ。その紐は、ディフィが姉さんから貰った物で、大切にしているから、切らなくて正解だったとも言えるでしょ?」
「そのことを、ティルトは知らなかったんでしょう!?」
「ディフィは髪を大切にしてるんだから、それを結っている紐だって、大切な物であることは想像できるはずよ」
「だからって、女の子に、目の前でさせるなんて! 優先順位が間違っています!」
「魔法が使えなかったのは、あくまでも無意識によるものよ。悪意があったとは思えないわ」
「でも、ティルトは、勝手にスカートを捲り上げたそうじゃないですか!」
「限界だったことは、ノエルだって認めてるでしょ? ティルトの判断が間違っていたとは言えないと思うけど?」
「その時、ノエルはもう下着を下ろしていたんですよ!? つまり、全部見えたっていうことでしょう!?」
「でも、スカートを捲ったのは、汚さないようにするためじゃない。それとも、スカートをびっしょりと濡らした方が、ノエルは恥ずかしくなかったって言うの?」
「それは……」
「それに、下半身は見てないって、ティルトは言っているわ。お風呂で、貴方やディフィの裸を見なかったことは覚えているでしょ? 信用してあげるべきよ」
「……」
「……私の紐を大切にしてくれたことには、感謝しています」
レレは、困った様子で言った。
自分にも責任があると思い始めてしまったようだ。
「いや……レレは悪くないよ。縛る物を貸したのは、ノエルが自殺したりしないようにするためでしょ?」
「……ごめんなさい。皆さんに、不快な思いをさせてしまって……」
ノエルは、申し訳なさそうに言った。
「貴方が謝ることはないわ。悪いのは、酷いことをしたティルトと、その原因を作ったベルさんよ……」
クレアが、ノエルを抱きしめて慰める。
彼女は、感情的に僕達のことが許せないようだ。
「……ティルトさんを責めないでください。この人は、私を抱える時に、とても気を遣ってくださいました。触っても、事故だと言い張れる場面は、何度もあったと思いますけど……私が触られたくないところには、触りませんでしたから……」
「……」
クレアが、気まずそうな視線をこちらに向けてくる。
さすがに、言いすぎたと思っているようだ。
「ノエル……本当にごめん。どんな事情があっても、ああいう結果になったのは事実だから……」
「いえ……全部打ち明けて、たくさん泣いたら、楽になったような気がします。やっぱり、事故だったと思いますし……私は、ティルトさんを許します。もう二度と、あのことは思い出さないでいただけるなら……」
「……わ、分かった。あのことは忘れるよ……」
結局、クレアの下着を見た時と、同じような結論に落ち着いてしまった。
思わずクレアを見ると、彼女は顔を赤らめて俯いた。
どうやら、クレアの下着を見たことを忘れていない、ということまで明らかにしてしまったようだ……。
僕は後悔した。




