第40話
女を放置して村に戻ると、そこには、困った様子で佇んでいるクレアとレレがいた。
何故か、レレは三つ編みを解いている。何があったのだろうか?
「ティルト、良かった! 無事だったのね!」
「クレア、心配をかけたね」
僕がそう言うと、何故かクレアは表情を曇らせた。
今の僕が、普段と違う状態であることを思い出したらしい。
一方で、レレは、こちらのことを尊敬の眼差しで見ていた。
先ほどの戦いでの活躍を、評価してもらえたようだ。
「あれ? ベルさんとノエルは?」
「それが……ベルさんが、ノエルを森の中に連れて行ってしまったの」
「ベルさんが?」
嫌な予感がする。
相手はダッデウドだ。まさか、殺すことはないと思うが……。
そう考えていると、ベルさんが、ノエルを連れて戻って来た。
ベルさんは、こちらに笑顔を向けてきた。
ノエルは、俯いているが、身体を傷付けられた様子は無い。
「ティルト、無事で良かったわ。この子の身体検査をしていたの。どこにも、武器になりそうな物は隠していなかったわ」
ベルさんがそう言ってくる。ノエルは、顔を真っ赤にした。
「そのために、彼女を人目に付かない場所へ連れて行ったんですね? ひょっとして、裸にしたんですか?」
「下着も含めて、全身をくまなく調べさせてもらったわ。毒針か何かを隠し持っていたら大変だもの」
「……あの……ごめんなさい。私……皆さんを騙して……」
ノエルは、消え入りそうな声で言った。
ふと気付いた。どうやら、ノエルは後ろ手に縛られているらしい。
僕は、髪を解いたレレの方を見る。おそらく、彼女が髪を結うために使っていた紐で縛ったのだろう。
「さて、皆に相談なんだけど……この子をどうしようかしら?」
ベルさんはそう言った。
ノエルは、真っ青になって全身を震わせる。
クレアが、驚いた様子で叫んだ。
「どうって……許してあげないんですか!? この子だって、騙されて殺されかけたのに……!」
「だって、この子はティルトとディフィを殺そうとしたのよ? 簡単には許してあげられないわ」
「でも、ノエルは……ダッデウドですよ!?」
「そうね。もしこの子がオットームだったら、時間をかけて、ゆっくりと痛めつけながら殺しているところよ」
ベルさんがそう言うと、クレアの顔は蒼白になり、ノエルは先ほどよりも激しく震えた。
「でもね、この子はダッデウドだし……顔も可愛くて、体型にも恵まれているわ。脱がして確かめたから間違いないわよ?」
「……そういうことを、僕の方を見ながら言うのはやめてください」
「あら、興味はあるでしょ?」
「それは……ありますけど」
僕がそう言うと、クレアとレレが、冷たい目で僕の方を見た。
「大分、欲望に対して素直になってきたわね」
ベルさんは、楽しそうに笑った。
「この子、村ではいじめられていたし、今回は殺されそうになって、同情すべきところはあると思うの。それに、家も燃えちゃって……このまま放り出したら、確実に野垂れ死にすることになるわ。だから、ダッデウドのお仕置きを加えて、ダッデウドの社会に受け入れたいと思うんだけど、それでいいかしら?」
「ダッデウドの社会における、女性に対するお仕置きって、どういうものなんですか?」
「簡単なことよ。ダッデウドの女にとって、一番の悩みは、男に相手にされないことだもの。つまり、女としての魅力を損なうことは、死刑にも等しい刑罰になるわけよ」
「女としての魅力を損なうって……まさか、顔に傷を付けるんですか!?」
「さすがに、そんなに酷いことはしないわ。一番よくあるのは……髪を切ることね」
「……!」
女性にとって、髪は大切なものらしい。
ノエルは、自身の銀色の髪を嫌っているかもしれないが……それでも、切られたら、ショックは大きいのではないだろうか?
「……可哀相」
レレが呟いた。
彼女は、自分の髪を撫でている。
やはり、とても大切なものだと思っているようだ。
僕は、ベルさんを止めることにした。
「それは駄目です」
「あら、どうして?」
「女性としての魅力を損なわせるのが刑罰だというなら、ノエルはそれを既に受けていますよ。この子は、きちんとした食事を与えて、髪を丁寧に整えてあげれば、もっと綺麗になるはずです」
「そう……貴方、この子のことも気に入ったのね?」
「ベルさんは短絡的ですね……というより、興味を惹くようなことを、最初に言ったのはベルさんですよ?」
「……」
ベルさんは、何だか不満そうな様子だ。
レレも、ベルさんと似たような表情をしている。
少し驚いたのは、クレアが怖い顔をしていることだ。
確かに、彼女の前で他の女性に興味を示すのは良くないことかもしれないが……このやり取りで、ノエルに過剰な罰を与えないで済むなら、喜んでもらいたいところなのだが……。
「……まあ、いいわ。ティルトが興味を示した相手が、ダッデウドなら。一族の繁栄のためだもの」
「じゃあ、ベルさん。ノエルの拘束を解いてあげてください。長時間縛ったら可哀相ですよ」
「私の縛り方は、身体への負担が軽い方法を使ってるんだけど……」
そんなことを言いながら、ベルさんが紐を解こうとした、その時だった。
何か、大きな獣が吠えたような声が聞こえた。
それほど離れていない場所……森の中からだ。
慌ててそちらを見ると、巨大な熊が、こちらを目がけて突進してきていた。




