第32話
脱衣所に行くと、ベルさんは平然と服を脱ぎ始めた。
普通は、もう少し男の目を気にするとか、躊躇するものではないのだろうか?
などと考えて、ベルさんが脱ぐのを見つめてしまっていたことに気付き、僕は慌てて自分の服を脱ぐ。
そちらを見なくても、クレアとレレが、冷たい視線を送ってきているのを感じた……。
チラッと見て驚いたのは、ベルさんの下着が黒かったことだ。
今まで、女性が着替える際には、部屋の外に出ていたので知らなかったが……ベルさんは、普段から色の付いた下着を身に着けているらしい。
貴族の社会では、女性が色を付けた下着を身に着けている、などという話を聞いたことがあるが……ダッデウドの社会では、男性の関心を惹くために、貴族のようなことをしているのかもしれない。
だとしたら、ひょっとしてレレも……?
そんなことを考えているうちに、ベルさんは浴室に向かって歩き出していた。
結局、全裸のベルさんの後ろを歩く形で、僕も歩き出す。
ベルさんの後ろ姿に見入ってしまう。
芸術品のように整った体型。そして、銀色の髪が揺れる。
性的な意味で興奮するよりも、その非の打ち所のない美しさに、僕は惹かれた。
2人で並んで、浴槽からお湯を汲み、身体を洗う。
つい横目でベルさんの方を見てしまう。違う角度から見ても、彼女はとても美しかった。
ふと、ベルさんがこちらを見たので、慌てて目を逸らした。
「安心したわ。私の裸になんて、興味がないのかと思っていたから」
「す、すいません! ジロジロ見てしまって……!」
「謝る必要なんて無いわよ。この状況で無関心に振る舞われたら、相当ショックが大きかったでしょうから。私も、ようやく貴方の興味の対象になれたのね」
「と、当然じゃないですか! ベルさんに関心のない男なんて、どうかしてますよ!」
「まあ、嬉しい。貴方はオットームの社会で暮らしていたから、価値観が純粋なダッデウドとは違うのかもしれないわね」
「そういうものなんでしょうか……?」
以前、ベルさんから聞いた話を思い出す。
ダッデウドの社会で暮らす男達は、ベルさんと添い寝しても、彼女に対して何の関心も示さなかったという。
これだけ綺麗な人がすぐ近くにいて、好意を向けられても、無関心だなんて……。
ダッデウドの女性は美人が多いらしいから、皆、価値観が麻痺してしまっているのではないだろうか?
音がして、クレア達が浴室に入ってきたことが分かる。
思わず振り向きそうになって、自重した。
一緒に入浴する覚悟を決めたとしても、僕に鑑賞されることを許容したわけではないだろう。
同じ場所にいた方が安全だという、妥協に基づく行動だ。
僕に興味を持たれたがっていた、ベルさんとは違うのである。
「あら、紳士的なのね。折角2人とも裸なんだから、見たいなら見ちゃえばいいのに」
「ベルさん……!」
「いいじゃない、欲望に忠実に生きたって。その代わりに、誰かが襲ってきたら、その時には身体を張って2人を守ってあげればいいのよ。ディフィだって、裸を晒しながら戦うのは、耐えがたい苦痛のはずよ?」
「……」
僕は、湯船に入って、奥に進んだ。
前回、クレアと一緒に入った時と同じである。これなら、見られたくない人の裸を見たりせずに入浴できる。
音で、ベルさんも湯船に入ってきたことが分かった。
「……僕には、ベルさんみたいな奔放な生き方はできませんよ」
振り向かずにそう告げる。
「やっぱり、貴方って、オットームと同じような価値観の持ち主なのね。ダッデウドの女性は、ダッデウドの男性から相手にされなくて、仕方なくオットームの男を対象に婿探しをしたらしいけど……その気にさせるのに、苦労したらしいわ」
「それは……ダッデウドの女性が綺麗すぎて、どうしていいか分からなかったんじゃ……?」
そんなことを言っている間に、ベルさんの気配が近付いてくる。
突然背中に触れられて、全身が震えた。
「ちょ、ちょっと、ベルさん!?」
「私は貴方のことが好きよ。貴方は、オットームの女性に対しても関心があるみたいだけど……もう、それでも構わないと思っているの」
「えっ……?」
「ダッデウドの血を引く者が増えるのはいいことだし……オットームも含めて、貴方が気に入った女性は、全員抱いてしまいなさい」
「……‼」
またしても、ベルさんがとんでもないことを言い出した。
そんなの、最低な男のすることではないか!
ダッデウドは、人口減少で困っているようだし、価値観も普通ではなくなっているので、それでいいのかもしれない。
だが、オットームにまで同時に手を出したら、言い訳は不可能である。
どうして、こうも次々と、ろくでもない提案ができるのか……?
本当に勘弁してほしかった。




