第31話
「じゃあ、同じ部屋で寝ることが決まったところで……皆で仲良く、お風呂に入りましょう」
もう何度目か忘れてしまった話題を出されて、僕はうんざりした。
「ベルさん、またそれですか? いい加減にしてください」
「あら、私は何も間違ったことは言ってないわよ?」
「どこがですか!」
「だって、入浴中は無防備じゃない。襲撃されても対応しやすいように備えるのは、当然だと思わない?」
「……」
予想外に、まともな答えが返ってきたので、僕は動揺してしまった。
確かに、一切の感情を抜きにして考えるなら、いつ追手が来るか分からない状況で、1人で入浴する方が間違っている。
「でも、今までは……」
「そうね。私も、甘かったと思っているけど……本格的に仲違いしたら、今後に支障をきたすと思ったから。男の子の生理的な欲求って、身体の変化で分かってしまうもの」
「ベルさん……!」
「怒らないで。貴方にとって、デリケートな話題だということは分かってるけど、他の子には心の準備が必要でしょう? 私は当然のことだと思ってるけど、何も知らない女の子にとっては、結構ショックなことらしいから」
ベルさんの言葉に、クレアは顔を曇らせ、レレはキョトンとした顔をする。
どうやら、レレは男の身体について、詳しいことは知らないようだ。
僕は焦った。
そんなことを詳しく解説されたら、本格的にレレに嫌われてしまうかもしれない。
「だったら……僕は、ベルさんと一緒にお風呂に入りますよ! それでいいでしょう?」
「ティルト!?」
クレアは、ショックを受けた様子だった。
「ごめん、クレア。でも、君に無理をさせたくないし、レレだって、いきなり僕とお風呂に入るなんて無理でしょ? だから、僕はベルさんと入浴するのが、一番いいと思うんだ。クレアはレレに守ってもらえるし……」
「駄目よ、そんなの!」
クレアは激しく反対した。
そんなに、僕とベルさんが一緒に入浴することが嫌なのだろうか?
ベルさんが、再び口を開いた。
「ついでに言っちゃうけど、お風呂に入っている時に敵が襲ってきたら、裸のまま戦う必要があるわ。今のうちに覚悟しておいた方がいいわよ?」
「!」
そうだ。そのような事態に陥ったら、恥ずかしいなどと言っている場合ではない。
下半身の前を、手で隠すような余裕ですら、あるかも分からないのだ。
「大勢の男に囲まれながら、全裸で戦う可能性があることを考えたら、仲間に裸を見せるのが嫌だなんて言ってる場合じゃないと思うけど? 襲ってきた相手を全員殺せるなら、生きている時に見られたことなんて気にならないのかもしれないけど……1人でも逃がしたら、色々と言い触らされる可能性だってあるわね」
「いや、でも……だからといって、仲間の前で安易に裸になるのも問題でしょう!? 何より、僕が責任を取れませんよ!」
「あら、暴発しそうなの? 欲求を持て余してるなら、私が相手をしてあげるわよ」
「だから、そういうことを言うのはやめてください!」
「私じゃ駄目? クレアじゃないと嫌?」
「そういうことを言ってるんじゃありません!」
「皆で入りましょう……お風呂」
僕達は驚いた。それを言ったのがレレだったからだ。
「ちょっと、レレ! 本当にいいの!?」
クレアが、レレの両肩を掴み、顔を覗き込むようにしながら尋ねた。
「……私は、裸のままでも戦う覚悟があるから」
「だからって、無理しなくてもいいのよ? それに……」
クレアは、こちらの方を窺うようにしながら、レレに何かを耳打ちする。
それを聞いたレレは、こちらのことを怯えた様子で見た。
まるで、僕の正体が化け物だと聞いたかのような反応である。とてもショックだ。
……しかし、実物を見て泣き出したりされるよりは、今のうちに思い直してもらった方がいいだろう。
「……それでも構わない」
レレがそう言った。クレアは唖然とする。
「レレ……本当にいいの?」
「そんなことを気にしてる場合じゃないっていうのは、叔母様の言う通りだと思うから」
「……」
「クレア、貴方はどうするの? 私かディフィが、2回入浴するっていう方法も、考えられるけど?」
ベルさんに尋ねられて、クレアは意を決したようだった。
「私も、皆と一緒に入浴します。男がティルトだけなら、私は困ることなんてありませんから」
「ちょっと待ってよ! クレアは、僕に裸を見せたことなんてないでしょ?」
「この期に及んで、躊躇なんてしないわ」
「……」
どうしてこうなってしまったのか?
僕は頭を抱えてしまった。
こうして、僕達は全員で入浴することになった。




