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第2話

 薪を家に持ち帰った後で、僕はクレアを探した。


 クレアの祖父である前村長が亡くなった今となっては、僕に好意的な人間は、この村ではクレアだけだ。

 他の村人は、クレアの父親である現村長も含めて、僕に冷たかった。


 原因は髪の色だけではない。僕は男なのに腕力も体力も充分にあるわけではないし、魔法も使えないのだ。

 要するに役立たずなのである。


 前村長から教えてもらった、都会で人気のある高価なキノコを発見するスキルが無ければ、僕は本当に何もできない人間だ。

 そのキノコだって、山ほど採れるわけではないし、僕にしか採れないわけではない。

 だから、僕は要らない人間だと思われているのだ。


 彼女が行きそうな場所を探し回り、ようやくクレアを発見した。

 しかし、彼女は1人ではなかった。

 数人の女の子と一緒に、おしゃべりをしていたようだ。


「ティルト……そんなに慌てて、どうかしたの?」

 クレアが僕に尋ねてくる。

 そんな彼女を、周囲の少女達が制止した。


 クレアの友達は、僕に嫌悪感を込めた視線を向けてくる。

 彼女達は、僕がクレアに付き纏っていると解釈しているのだ。


「何? あんた、クレアに何かするつもりなの?」

 村の女子のリーダー的な存在である、スーザンが僕に詰め寄ってきた。


 彼女は、髪は綺麗な金色で、幼い頃から、可愛い、将来は美人になる、と評判だった女性だ。

 村の男子からも人気があるが、そのためなのか、高飛車なところがあり、僕は苦手だった。


 スーザンは、都会流の、膝が見えるほど短いスカートを履いている。

 足元近くまであるロングスカートを履くのが普通であるこの村では、かなり非常識な格好のように思える。

 しかし、そんな彼女を非難する者は、驚くほど少ない。

 僕との扱いの差に不条理を感じることも、僕が彼女を苦手にしている理由の一つだった。


「いや、僕は別に……!」

 何とか弁解しようとするが、スーザンは最初から、僕の言うことなんて聞く気は無いようだった。

「消えて。目障りよ。気持ち悪い」

 冷たく言い放ち、彼女は僕を突き飛ばした。


「ティルト!」

 尻もちをついた僕を見て、クレアが声を上げる。

 いたたまれない気分になって、僕は逃げ出した。


 前村長は、僕を孫のように可愛がってくれた。

 しかし、その人が死ぬと、村人達は、僕のことを露骨に避け始めた。

 先程のスーザンのように、攻撃的な態度の者も増えたし、石を投げられて怪我をしたこともある。

 この村の人間の大半は、僕がこの村に存在すること自体が不快なのだ。

 ましてや、クレアと仲良くすることなんて、絶対に反対だろう。


 僕は、誰もいない自分の家に帰った。

 前村長が亡くなり、クレアの家から追い出されて、村の外れにあるこの家で一人暮らしをするようになってから、1年以上は経った。

 この家にいると、実の両親にすら捨てられた自分は一人ぼっちなのだということを、改めて強く意識することになる。


 確かに、このまま、この村で暮らすよりも、ベルさんに付いて行った方が幸せになれるのかもしれない。

 だからといって、皆を見殺しにするのは、何か違うと思った。

 クレアだけ逃がせばそれでいい、という感情もあったが、やはりそれで済む話ではない。


 クレアには、2人きりになれるタイミングで話をしよう。

 彼女なら、きっと僕の話を信じてくれる。

 そして、皆に上手く話をして、逃がすのに成功するのではないかと思った。


 その夜、僕は目を覚ました。

 やけに外がうるさかった。叫び声のようなものも聞こえる。

 一体何事だろう?


 家の扉を開け、眩しさに目がくらむ。

 雨戸が月明りを遮るので忘れていたが、今夜は満月だったはずだ。

 満月の夜は、ランプが必要でないほど明るいのである。


 目が明るさに慣れ、騒ぎが起こっている方へ向かった。

 そして、何が起こっているのかを見て唖然とした。

 魔物が、村の人間を襲っている!


 魔物は、二本足で立ち、指が三本しかない手から伸びた、長く鋭い爪を振り回していた。

 見たことのない魔物だ。これが……グラートが呼び出した魔物なのか!?

 ベルさんの話だと、まだ何日かは猶予がありそうだったのに……!


 村の人達は、攻撃魔法を次々と魔物に放った。

 しかし、魔物はそれをものともしなかった。

 そして、爪で村の人が展開した防御魔法を突き破り、身体を引き裂く。


 補助魔法を使って加速し、刃物で魔物に斬りかかる者もいた。

 しかし、魔物は俊敏に動き、爪で村人を餌食にした。


 野生の魔物とはレベルが違う。

 こんな生き物を大量に呼び出せるのだとしたら、グラートという民族が帝国を滅ぼすことも、不可能ではないように思えた。


 突然、僕の目の前に、血塗れの男性が降ってきた。

「……!」

 慌てて助けようとしたが、一匹の魔物が、こちらを見ていることに気付く。


 僕の身体能力は低い。そして、魔法も使えない。

 僕が魔物に立ち向かっても、即座に殺されるだろう。

 そして、負傷した人を助けようにも、僕にはその手段が無い。

 肩を貸しても、非力な僕では逃げられない。回復魔法だって使えないのだ。


 こうなってしまったら、もはや僕にはどうすることもできない。

 そう悟って、全力で逃げ出した。

 僕は足だって速くない。すぐに追いつかれてしまうかもしれないと思ったが、とにかく必死に走った。


 魔物に追いつかれることのないまま、森の中に逃げ込む。

 木々が僕の姿を隠してくれるので、すぐに見つかることはないだろう。


 一安心して、少し冷静になった時、凄まじい後悔に襲われた。

 僕は、村の人達を見殺しにした……!


 頭では分かっている。

 あの状況では、どうすることもできなかった。

 僕には、村の人を助ける能力なんて無い。

 だが、それでも何かできたはずだ……せめて、僕にもっと知恵があれば……!


 そこまで考えて、僕は重大なことを思い出した。

 そうだ、クレアを助けなければ……!


 今更遅いかもしれない。

 彼女がまだ生きていても、僕には何もできない可能性の方が高い。

 それでも、僕はクレアの家を目指して走った。

 彼女を見捨てるくらいなら、魔物に殺されてしまった方がマシだと思えた。

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