第11話
5日も歩き続けて、僕達は一つの村に辿り着いた。
「今日は、この村の宿に泊まりましょう」
ベルさんがそう提案してくれた。
「助かります」
「その代わり、部屋は一つしか取らないわよ?」
「えっ……!」
クレアは顔を真っ赤にした。
普通なら、男性と女性が、同じ部屋で寝ることはない。
それは、その男女が家族であっても同じである。
男性と女性が同じ部屋で寝るとしたら、それは子供を作る間柄の場合だけだ。
「お金は私が出すから。大人数で泊まれる部屋の方が経済的でしょ?」
「でも……そんな非常識な……!」
「ダッデウドでは、仲がいい男女が一緒に寝ることは、珍しくないんだけど?」
「本当ですか!?」
「警戒する理由が無いもの。分かり易く言えば、男性の能力の違い、ということかしら?」
「ベルさん……僕達の前で、卑猥な話をするのはやめてください……」
「あら、ティルトも、こういう話は抵抗があるの? やっぱり、貴方もダッデウドの男性なのね」
「ダッデウドであることは関係ないでしょう!?」
「どうかしら? オットームの男の子って、エッチな話が好きなんじゃないの?」
「男1人に女2人の状況で、そんな話ができる男なんて、非常識ですよ!」
「そうなの?」
僕は、ベルさんの空気を読まない発言に頭を抱えた。
結局、僕達は3人部屋で、一緒に泊まることになった。
クレアは嫌がったが、余計なお金は使いたくないし、慣れない野宿をすることは苦痛なのだ。
「ティルト……何もしないでね?」
クレアが、泣きそうな顔でそう言った。
「頼まれなくても、何もしないよ!」
この状況で男を警戒するのは、仕方のないことなのかもしれない。
しかし、クレアに信用されていないことはショックだった。
「そうね……ダッデウド同士なら問題ないけど、クレアは安全とは断言できないかもしれないわ」
突然真顔になって、ベルさんはそう言った。
「ベルさんは、僕を何だと思ってるんですか!?」
「ダッデウドの男の子だと思ってるわ」
「じゃあ、ダッデウドの男性は、皆ケダモノみたいな連中なんですか!?」
「その逆よ。ダッデウドの男性は、同じダッデウドの女性に対しては、例外なく消極的なの」
「僕だって、それは同じですよ! 訳の分からないことを言わないでください!」
「ダッデウドに対しては、と言ってるでしょう? クレアはオットームだから、安全とは言えないのよ」
「えっ……? それ、どういうことですか?」
「……そうね。大切な話だから、詳しく説明しておこうかしら」
そう言って、ベルさんはダッデウドについての解説を始めた。
「元々ダッデウドは、肉体的には脆弱なことが多いの。そのせいで、あまり繁殖力が高いとは言えないわ。それに、昔は、ケダモノみたいな男性はダッデウドに相応しくない、という理由で、容赦なく去勢が行われてた時代もあったの」
「……!!」
恐るべき話を聞かされて、僕は思わず、前を押さえてしまった。
女性であるクレアも、顔を真っ青にしている。
「そうやって、ダッデウドには、性に消極的な男性の血筋だけが残っていったわ。すると今度は、子孫を残すのに支障をきたすようになったのよ。大人になっても、女性に対して何の意識もしないような男が、ダッデウドにはたくさんいるの」
「……それ、どうやって子供を作るんですか?」
「女性から、気に入った男に対して、必死にアプローチするのよ。言ったでしょ? ちょっと仲良くなったら、すぐに同じ部屋で寝たりするって。それでも、結果として子供ができることは滅多にないし、そのための行為が行われること自体が珍しいわ。そもそも、肉体的な欲求を抱えている男性自体が少ないから、そういう対象として見てもらえたら、かなり幸運だと思うべきでしょうね」
「……」
僕が住んでいた村の男子は、どの女の子が可愛いか、といった話ばかりしていた。
男という生き物は、自然とそうなるものなのだろう。
しかし、ダッデウドの男性は違うようだ。
「そんな感じで、ダッデウドの夫婦って、上手くいかないことが多いの。子供が欲しい奥さんと、女性に興味は無いけど頼まれて結婚した男性の間には、激しい価値観の相違があるから」
「……何だか、ダッデウドって大変なんですね」
「そうなのよ。そのせいで、ダッデウドの人口は減る一方で、元々ダッデウドが支配していた地域は、オットームが作った帝国に奪い取られたわ。でも、数を減らしたダッデウドは、オットームと交流することになったの。そして、彼らとの間にたくさんの子供を作るようになったのよ。その子供の多くはオットームの性質を持って生まれたけど、一部はダッデウドとして生まれたわ。そして、今になっても、その血筋はこの辺りの地方に残っている、というわけなのよ」
「それで、僕みたいに、オットームの両親からダッデウドが生まれたりするんですね……」
「ダッデウドの男性って、不思議なのよ。ダッデウドの女性に対しては何の感情も抱かない男でも、オットームの女性に対しては、人が変わったように積極的になるらしいの。オットームの方が体が丈夫だからか、子供ができる確率も高いらしいわ。ダッデウドの男性が、どうしてオットームの女性のことを好きになるのか、不思議よね……」
「……」
きっと、歴史的に女性から虐げられてきたダッデウドの男性は、ダッデウドの女性を避ける本能を獲得したのだろう。
だから、オットームの女性を前にすると、本来の機能が復活するのではないだろうか?
……僕は、ダッデウドの社会で生まれなくて良かったのかもしれない。初めてそう思った。




