プロローグ
僕は魔物の首を刎ね飛ばした。
思わず笑いがこみ上げてくる。
どいつもこいつも雑魚ばかりだ。僕の敵ではない。
たった今仕留めた魔物の死体の脇に、一人の女がへたり込んでいた。
その女を見て、不愉快な思いが甦る。
こいつは、僕に対して嫌悪感を露わにし、攻撃的な言動を繰り返してきた奴なのだ。
それが、今は真っ青な顔でブルブルと震えていた。
「……お願い……殺さないで!」
女は、怯えた様子でこちらを見上げながらそう言った。
とても腹が立った。
僕のことを散々いじめてきたお前に、そんなことを言う権利があると思っているのか!
躊躇は全く無かった。
僕は、その女の脚を剣で貫いた。
女は絶叫した。
いい気味だ。
僕が剣を引き抜くと血が吹き出し、再び女は叫び声を上げた。
村一番の美人だと言われ、散々チヤホヤされていた、その女を見下ろす。
苦痛のためか、顔は醜く歪み、涙をボロボロと流している。
その様子に腹が立って、今度は腕を突き刺した。
またしても金切り声を上げる女。
なんて無様なんだ!
とても良い気分だった。
僕は、剣の切っ先を女の顔に向けた。
この女は、自分は美人だと鼻にかけていた。
だから、それを切り刻んでやることが、この女にとって一番ショックなことであるはずだ。
回復魔法でも決して治せないように、ズタズタにしてやろう。
仮に、その途中で死んだとしても、醜い女が、醜い死体に変わるだけだ。大差は無い。
最初に目を潰そう。それから、鼻を切り落としてやるといい。顔の皮は、念入りに削ぎ落としてやろうか?
「……助……けて……」
顔に剣を突き付けられて、女は息も絶え絶えに言った。
その瞬間、僕は、今まで感じたことの無いほどの興奮を覚えた。
そんなに痛めつけられるのが嫌なのか?
だったら僕は、喜んでお前を切り刻んでやる!
高揚した気分で計画を実行しようとした、その時だった。
「やめて!」
突然、聞き慣れた女性の声が、僕を静止した。
黒髪の少女が、僕が痛め付けていた女のことを庇うように立ちはだかる。
彼女は、幼馴染のクレアだ。
「どうして、こんな酷いことをするの?」
クレアは、目に涙をためてそう言った。
尋ねたいのは僕の方だった。
どうして、君が僕を止めるんだ?
この女は、散々僕を馬鹿にしていじめた。殺されて当然の女だ。
そのことは、君だって知っているはずじゃないか!
こんな女を庇うなんて……君まで、僕を裏切るのか?
「貴方は、こんなことが出来る人じゃないはずでしょ?」
クレアは、続けてそう言った。
君は何も分かっていない。
今までの僕には、力が無かったんだ。
今の僕こそが、本当の僕だ!
今の僕なら、君のことだって躊躇なく殺せる。
それを、今……証明しよう!
僕は、クレアに向けて剣を振り下ろした。