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花泥棒と恋占い  作者: 紫幹翠葉
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ため息つかなくても幸せ逃げてませんか?

 校舎を出ると、辺りはもう暗くなり始めていた。後ろを振り返り、誰も追ってこないことを確認して、ため息をついた。


「はぁあああ……」

 すれ違ったおばさんがギョッとした顔をした。ごめんなさい。




 今日私は、部活が顧問の出張で急遽休みになったので、放課後空き教室で一人時間を潰していた。この教室は、この学園に入学してすぐ迷子になった時に見つけた穴場スポットで、私だけが知っている。

 ……と思っていた。さっきまでは。



 教室の1番前の席からぼーっと外を見ていたら、いきなり声をかけられた。心臓が止まるかと思った。言われた言葉にも、それを言った相手にも驚いた。私に声をかけてきたのは少女漫画に出てきそうな、精悍な顔つきの美形だった。喪女の私には一生縁のないタイプ。


 そのイケメンは顔に似合わずゴリラのような握力で、言ってることもめちゃくちゃだった。それから、眼鏡の先輩と同じクラスの猫みたいな男の子がきて、なんやかんや言ってるうちに私は生徒会に入ることになっていた。




 うぅん……解せぬ。




 1年で会長をしている美形ゴリラは一条 蓮(いちじょう れん)と言うらしい。彼は、私を知っているようだった。私の方では全く記憶にないが。


 2年の副会長は眼鏡が素敵な七草 菖人(ななくさ あやと)先輩。柔和な笑顔と優しげな顔立ちにぴったりな名前だと思う。


 もう一人の副会長は同じクラスの姫崎 楓(ひめさき かえで)女の子みたいな名前だ。実際にその辺の大多数の女の子よりも綺麗で整った顔をしていた。




 この面子の中に私みたいなのが入っていいのだろうか。




 私の見た目ははっきり言ってダメだ。私の唯一の友達はそんなことないと言ってくれるが、親に可愛いと言われたことはないし、彼氏もいた事がない。それに、中学の時にはいじめにあった。それから、私は人前に出る時は必ずマスクをするようにしている。



 というか、生徒会って今から入れるのか?今は5月末だ。生徒総会は5月の頭にあったから、もう入れないんじゃ……。と思ったけど、あの人たちなら無理矢理にでも私を生徒会に入れそうだ。




 なんで、私なの?理由がまったく分からない。


 悶々と考えながら電車に乗り、家に帰り着く。




「ただいま」


 もちろん返事はない。

 私は高校に入学する少し前から一人暮らしを始めた。学園から電車で1時間ほど離れたこのマンションは格安の家賃を売りにしているが、思ったより治安は悪くないし、部屋もちゃんとしていたのでほっとしている。



 シャワーを浴び、可愛さの欠けらも無い黒のスウェットに着替えてそのままベッドに直行する。今日は疲れた。もう何もしたくない。




 微睡んでいたところでスマホが鳴った。




 バッグの中を探り、手帳型のケースに入れたスマホを取り出す。通話ボタンを押すと、ハイテンションな声が聞こえた。



「もしもーし!今日ねー、めっちゃ幸せなことがあったの!私の推しがねー、ってちょっと四葩(よひら)、聞いてる?」


「はいはい聞いてますよー」


「あれ?いつにも増して闇が深くない?大丈夫?」




 うるせー。いつにも増してってなんだ。日頃から闇とか抱えてないわ。


 電話してきたのは私の唯一の友達で親友の英 美柚(はなぶさ みゆ)だった。私のことを四葩(よひら)と名前で呼ぶのは彼女しかいない。大抵の人が苗字で水樹(みずき)と呼ぶ。私は彼女のことをみゆではなく、ゆずと呼んでいる。




「それがね、ゆず。今日放課後にちょっと理解不能なことが起きてさ〜」



 かくかくしかじか。放課後のことを話すと、ゆずは爆笑した。



「なにそれ、めっちゃ面白いんだけど」


「他人事だと思って!こっちはめちゃくちゃ悩んでるんだけど」


「えーでも、もう決まったことなんでしょ?諦めて生徒会頑張りなよ。友達出来るかもよ!あと彼氏!」



 無理無理無理。本音を言えば欲しいけど、私にはできない。



「ほら、その一条って人とかさ」

「ない」


「はっや。即答かよ。なに、そんなに嫌いなの?」



 嫌いだ。多分だけど。……落ち着いて考えてみると、今まで他人に興味を持ったことが数えるほどしかないから、自分でもよくわからない。



「そっか。またなんか面白い展開になったら教えてね」


「ならないと思うけどね」




 それからゆずの好きなアニメと推しのキャラクターの話を一通り聞いて、電話を切った。


 ゆずは、女の私でもクラっとくるくらいの美人なのに、いわゆるオタクだ。いや、なのにって表現はおかしいか。好きなものは好きなんだから他人がとやかく言うべきではないよな。



 私にはゆずみたいにのめり込めるような趣味がない。中学の時は勉強ばかりしていたから、毎日楽しそうなゆずが羨ましい。





 「はぁあああ」


 ため息をつくと幸せが逃げると言うけど、つかなくても逃げている気がするから我慢はしない。はぁ、明日からどうしたものか。







 ***






 「ふぁ…」


 あのあとそのまま寝てしまったようだった。お腹が何か食べ物をくれと訴えてくる。時計を見ると、6時だった。



 「やば、寝過ごした」


 私は吹奏楽部に所属している。青華学園は何かしら部活動に入らなければいけないためしぶしぶ入ったが、今は楽器の面白さに目覚めてきたところだ。吹奏楽部は放課後だけでなく、朝も練習がある。7時30分からある練習に間に合うためには、6時に家をでなければいけない。


 慌てて準備を済ませて家を出たが、遅刻は確実。寝過ごしたのは、誰がなんと言おうが昨日の美形ゴリラのせいだ。私は女の子が口にしてはいけないような悪態をついて、急ぎ足で学校に向かった。









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