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花泥棒と恋占い  作者: 紫幹翠葉
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あなたはいったい誰ですか?

 「君、生徒会に入りたまえ」



 一瞬、何を言われたのか分からなかった。だってあまりに突然すぎたから。椅子を倒す勢いで立ち上がって振り返ると、自分で自分の言葉に驚いたようにその端正な顔をしかめている彼と目が合った。


 ……いや、なんで私じゃなくてあんたがそんな顔をするんだ。驚いたのはこっちなんだが。


 思わず心の中でそう突っ込んでしまった。意図が掴めずに訝しげな顔をしている私から、彼は慌てて目を逸らし大仰に頷いた。



「あぁ、そうだ、それがいい。君のように不真面目な生徒は生徒会に入るべきだ。生徒会長としてこの俺がしっかり監督してやろう」


「え、嫌なんですけど」


 何を言っているんだこの男は。

 私と彼は初対面のはずだ。何故初対面のはずのこの男は私を不真面目だと断言できるのか。おかしい。まぁ……私が不真面目なことは否定しないけど。


 突然やって来て、おかしなことを言い出す彼からじりじりと距離をとる。

  私は、学年トップの成績を誇る自他認める秀才だ。私が生徒会に入る必要は全くない。そう言うと彼は、一瞬狼狽えたが、すぐにムッとした顔をして私の腕を掴みぐっと自分の方に引き寄せた。


 お、折れる……!この筋肉ゴリラ野郎!


「痛い! 離して!」


「生徒会に入るなら離してやってもいいが?」


 腕を掴む手に少しずつ力を込めながらゴリラが言う。



 ぜ っ た い に い や だ!



  生徒会に入ればかなり目立ってしまうことになる。それに、私はこの綺麗な顔をしている癖に、筋肉はゴリラなみのこの男がたった今嫌いになったから、一緒に生徒会をするなんてまっぴらだ。あと、なによりめんどくさい。



(れん)、女の子の腕を掴むなんて野蛮なことはやめなさい。」


 痛い離せ、いいや離さない、と押し問答を続けていると、それを聞きつけたのか、眼鏡をかけた男子生徒が仲裁に入ってくれた。優しげな顔立ちをした美形だ。今日は美形遭遇率が高いな。タイが緑色なので2年生の先輩だろう。

 助かった…!


「ほら蓮、手を離して」


「ちっ」


 舌打ち!?皆さん聞きました!?今舌打ちしましたよこの男!私は、解放された腕を擦りながら睨みつけた。絶対痕になってる。


「ほらほら君も。そんな顔しない」


 先輩に諭され、慌ててマスクを目の下まで引っ張り上げて顔を隠す。誰も来るはずがないとたかを括っていたから、人と会う時は絶対に外さないマスクを顎に下げていたのだ。先輩はそんな私をちょっと驚いたような目で見た。



「なんか揉めてんの」


 声のした方を見ると、今度は同じクラスの男子生徒が入ってきた。猫っ毛のアッシュカラーの頭と眠たそうな目。どこか色気の滲む彼は、よくクラスの女の子達の話題に上っていたので覚えていた。


 同じクラスの彼(名前は知らないので仮に猫くんとする)が顔を覗き込んでくる。

 ……切実にやめて欲しい。こんな顔見られたくないし、それに、声にからかいの響きがある。ここはあまり人がこない教室だから、もしかすると痴話喧嘩だとでも思われているのかもしれない。それだけは避けたい。



「この男が、私に生徒会に入れって脅してきたんです」


 眼鏡先輩と私の名誉のためにきちんと事情を話さなければ。


「な!? 別に脅してはないだろう!?」


 ゴリラが何か言っているが気にしない。


「蓮が? 君を生徒会に?」

「え、こいつが? お前を?」


 2人とも驚いたように顔を見合わせた。この2人は知り合いだったのか。


「俺にはこいつを叩き直す使命がある!」


 ゴリラが喚く。あ!今私のことこいつって言ったな!許せん。それに、使命ってなんですか。



「だから、嫌だって言ってるでしょ!あの、2人もなんとかこのゴリ……じゃなかった彼を説得してください!」


 眼鏡先輩と猫くんに助けを求める。けれど、何を血迷ったのか猫くんがこんなことを言った。


「ふぅーん。なるほどね……。蓮もたまにはいいこと言うね。ねぇあんた、生徒会に入りなよ」


「はぁ!?」



 どうしてそうなる。



「だって君よく授業サボってるでしょ。蓮の言うことにも一理あるよね?」


「そうなのかい? また蓮の思いつきかと思ったけど、ちゃんと考えがあってのことだったんだね。それに、サボリは良くないと思いますよ」


 眼鏡先輩まで!違うんです。確かに授業サボったことはあるけど、たったの1回だけだ。

 猫くんはなんでそんな嘘をつくんだ。私なんかしちゃったかな?後、先輩は勘違いしているがこれは彼の思いつきだ。だって生徒会に入れって言った彼自身がそれに驚いていたのだから。


 先輩たちに意見を肯定された美形ゴリラはドヤ顔で私を見る。


「そういうわけで決定事項だ」

「そ、そんなぁ……」


 男3人に囲まれて、嫌です!と断れるほど私はメンタルが強くない。



「まぁ、仕事はちゃんと教えてあげるから大丈夫だよ」


「何か困ったことがあればいつでも僕に聞いてください。姫崎(ひめさき)くんも、こう見えて頼りになりますし。」


「こう見えてってなんだよ」


 あ、猫くんは姫崎って言うんだね。

 ……ん?あれ?ちょっと待って、2人も生徒会役員なの?

 ポカンとした顔で見上げると、逆に「えっ」って顔をされた。


「知らなかったの」

「僕は一応生徒会副会長なんですけどね」


 き、聞いてなーーーい!!初めて知りました。眼鏡先輩はわかるけど、猫くんも生徒会役員だったなんて。



「やはり君は不真面目だな。この前の生徒総会でいったい何を聞いていたんだ」


「……」


「どうせ自分には関係ないからと寝ていたのだろう?君の浅はかな考えなどすぐに分かるぞ」


「……」


「やはり、俺が監督する必要があるな」


「……」


「おい、聞いているのか?俺を無視するな」


「……聞いています」


 図星だった。悔しいけど言い返せない。



「あらら、大丈夫?」


 借りてきた猫のように大人しくなった私に猫くんが声をかける。いいえ、大丈夫じゃないです。


「蓮、咎めるのもそれくらいにして。あ、そう言えば、まだ名前を聞いませんね」


「あ、1年3組の、」

「ミズキだ」


 私が言うより早く、ゴリラが私の名前を口にする。なんでお前が言うんだ。というか、名前知ってたんだね。



「ミズキさん、だね。僕は2年5組の七草 菖人(ななくさ あやと)


「俺は姫崎。あんた俺と同じクラスだって知ってる?」


 知ってます。……名前は知らなかったけど。


「もちろん知ってますよ。七草先輩、姫崎くん、不本意ですが、これからよろしくお願いします。」


「よろしくね」

「ども」



「おい、俺への挨拶はないのか」


 横を見ると、不貞腐れた顔をした彼がいた。顔に感情が出やすいな。


「えと、名前、なんでしたっけ」


 そう言うと、3人が固まった。

 え、え、どうかしました?私、彼の名前知ってるんだっけ。必死に頭を巡らすが、分からない。




「……一条(いちじょう)だ。一条、蓮」


 何故か顔を手で覆ってため息混じりに名乗ってきた。そんな、呆れるほどのことなのだろうか。あ、そう言えば、彼は生徒会長らしいから、普通の生徒なら名前を知っているはずか。これで、私がどれだけ学校に興味がないのかお分かり頂けただろう。



「一条、先輩?」


「いや、俺とお前は同い年だ。タイの色を見れば分かるだろう」



 今度は可愛そうなものを見る目をされた。


 ……本当だ。あまりに偉そうだから先輩かと思っていた。



「くくっ。ミズキさん、面白いね」


 猫くんもとい姫崎くんが肩を揺らして笑う。その隣にはなんとも言えない顔をした七草先輩と、口をぱくぱくした一条くんが。

 ……もしかしなくとも、さっき思ったことを口に出してしまっていたらしい。




「あ、あの、ごめんなさい!わ、私もう行きます!」


 恥ずかしくて顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。これ以上恥を書く前にとにかくここから離れたかった。なんでこんなことになったんだろう。私は鞄を引っ掴んで一目散に駆け出した。


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