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異世界転生モノ

魔族転生/異世界転生記番外編『白直也[コール]と白めると[メルト]』

作者: 音無 なの

―時季としては初夏、とある墓地の墓の前に、眼鏡をかけた黒髪の少年が居り、手を合わせていた。

少年が手を下ろし、目を開ける。

その目は、酷く濁っており、表情には生気が全く感じられない…。


理由は…家族全員と大切な相棒を事故で一度に喪ってしまったからだ。

いや…もし彼に“彼女(相棒)”だけでも手元に“()()()()()”、もう少し違う結果になっていたかもしれない。


その“彼女”も、家族と同じ墓の中に“ある”。


少年は、虚ろな目を虚空にさ迷わせ…“彼女(相棒)”の事に想いを馳せる―






少年が彼女と出会ったのは数年前。

父親の古い携帯電話をもらい、修理していた時の事だ。



「ここを…こうして…出来たっ!!

今度こそ起動してくれよー…。」



少年は古くなったり壊れてしまった物の修理や再利用が得意だった。

その日も修理した携帯電話をわくわくしながら起動した。

電子音と共に、携帯電話が起動する。

それから、しばらくカチカチと操作する少年。

電話やカメラ等の機能が正常に使える事を確認した少年は、喜色満面に声を上げる。



「やった!!初成功だ!!」


「ありがとう!なの!!」


「えっ!?」



突然聞こえた声に驚き、辺りを見回す少年。



「私はここなの!!」


「!?」


「はじめまして、なの♪」


「えっ!?えっ!?だれっ!?」


「わたしはきみが修理した携帯電話なの♪」


「・・・はい?;」



改めてさっきまで携帯電話を修理していた机を見ると、小学生位の女の子が座っていた。

女の子は銀髪で長い髪、目は黒く、顔立ちはあどけなくて可愛い。

まるで人形の様な女の子だった。

その女の子はにこにこと少年を見つめる。

そんな女の子に、少年は改めて聞き返す。



「あの…今、キミ、自分の事を携帯電話だって…


「うんっ!!わたしは携帯電話!!

正確には、携帯電話に宿ったつくも神なの♪」


「つくもがみ…?つくもがみ…付喪神…って、あの…?」



付喪神…。

九十九とも書くソレは、古くなったり、長年大切に使われた物に宿るとされている妖怪である。

九十九の字が表す通り、百年経つと物には魂が宿ると言われるのでその前には捨てましょう的な意味もあるのだが…

そもそも携帯電話自体が登場してから百年も経っていないし、この携帯電話だって精々五年物だ。

それ位の知識はある少年は、彼女を可哀想な子だと判断した。



「うーん…どこから入ってきたか知らないけど、交番行く…?」


「Σひどいっ!?;」


「いや…だって付喪神って百年経った物に宿るんだよね?」


「それは違うのっ!!

『つくも神』は、物を大切にしてくれる人の前に現れるの!!

そっちの『付喪神』は物を捨てちゃう悪い人を懲らしめるの!!」


「…?…??」


「うー…ご主人様が子供だとくろーするの…。」


「キミだって子供じゃないか…。」


「てへっ♪」


「はぁ…;それで…?

キミ達は付喪神とどう違うの?」


「うんっ!わたし達の『つくも神』って字は、こう書くの!」


「!?」



女の子は、いきなり手から修理したばかりの携帯電話のディスプレイを出すと、メール画面を開いてそこに字を表示した。

そこには『白神 (つくもがみ)』と表示される。



「えっ!?手からディスプレイが…って…キミ…ナニモノ…?」



少年は、理解不能な行動をしだした女の子に恐怖心を抱き、後ずさる。

そんな少年を見た女の子は、悲しそうな表情(かお)になった。



「さっきも言ったけど、わたしはこの携帯電話の白神なの。

だから、宿主の機能は使えて当然なの。」


「・・・。」



それを聞いた少年は、最初こそ怯えていたものの、彼女の悲しそうな顔、それに、最初から自分に悪さをするつもりならそうしていると思い直して彼女に近付いた。

何より、少年は好奇心が強いのだ。



「ごめん…つまり、キミは…僕の物(携帯電話)って事だよね…?」


「そうなのっ♪

わたしはご主人様の物なのっ♪」



少年がそう訊くと、女の子はさっきの表情(かお)が嘘の様に笑顔になって答える。

その女の子の表情(かお)に、不覚にも“きゅん”と来た少年は、いつの間にか女の子を“そうゆうもの”として受け入れていた。

そして少年は女の子に手を差し出す。



「そうなんだ。

じゃあ…これから宜しくね!!

僕は『つくも直也なおや』!

えっと…キミ…名前は…?」


「名前…?

わたしは白神なのっ!!

わたし自身の名前は無いのっ!!」


「へっ…?そうなんだ。

うーん…でも、毎回『白神』、じゃあ呼び辛いし…『白』だとぼくの名字だし…『神』…は…なんだかキミを遠く感じるからヤだな…。

じゃあさ、『めると』…何てどうかな?」


「めると…?」


「うん、丁度メール画面を開いてるしさ。

…安直だったかな…?」


「ううん…嬉しいのっ♪

これからよろしくなのっ!!」


「うんっ!!」




それから数年経ち、段々と色々な知識を(インターネットで)得ためるとは、主である直也の性格や趣味等も把握し、すっかり直也と馴染んでいた。

直也自身も、めるとが何時も一緒に居て、様々な体験を共に経験するのが当たり前に感じていた。


ただし、うっかりめるとに話し掛けた時には周りから奇異の目で見られる事も多々あった。

何しろ、他の人には直也がめるとと話している時は『自分の携帯電話(失礼だが随分オンボロ)に名前を付けて、しかも携帯電話“と”話しているイタイ人』の様に見えるからだ。


だから直也は自室以外ではめるととは極力メールで話す様にしていた。

めるとも自身が白神である以上、直也以外には同じく白神憑きを所持した人間にしか自身を認知出来ないと知っている為、何より大切な主が自分のせいで奇異の目で見られるのは嫌だった為、それで納得していた。



「のう直也。」


「どうした?めると。

もしかして、どこか不調か?」


「あいや、不調は無いのじゃ。

そろそろワシらが出逢って3年は経ったと思うてな。」



因みに、今のめるとのこの妙な古風じみたっぽい喋り方は直也の趣味に合わせた結果だ。

現在の直也の趣味は漫画やアニメと言った、所謂サブカルチャーで、その中でも『のじゃろり』なるモノにはまっている事をめるとは知っている。

それでも当然の様に修理も趣味として健在だ。

今も直也は妹のぬいぐるみを慣れた手つきで補修している。

ぬいぐるみは某キャラクターを模したものらしく、ふわふわなウサギっぽい犬のぬいぐるみだ。



「そっか…もうそんなに経つんだな…。

お前の体も8年目、少しガタが来てるけど大丈夫か?」


「まだまだ大丈夫じゃて。

お主は心配性じゃのう…。」


「いや…でもお前って本体(宿主)である携帯が完全に壊れたら消えちゃうんだろ…?」


「うむ…それはそうじゃが…。

だがのう、ワシとて最早お主と離れ難いのじゃよ。

じゃから今のワシが修理不可能なほどに壊れてしもうたなら、お主が新しく携帯を買い換えれば今度はそれを宿主に変え、お主と共に在ろうと思うておるのじゃ!」


「えっ?

そんな事も出来るのか?」



直也の驚きに、薄い胸(めるとはあれからもずっと小学生の見た目の為、胸もそのまま)を張る。



「当然じゃて!!

ワシ等白神は物を大事にすると分かっておる心優しき者からは簡単には離れてやらんのじゃ♪」


「…それを聞いて安心した…。

でも、出来るだけ今の(宿主)も修理してやるからな。」


「うむ!

それでこそ直也じゃ!!

さて、そろそろ出発の時間なのじゃよ直也!」


「おっ…もうそんな時間か。

なら行こう、めると。」


「温泉、楽しみなのじゃ♪」


「ああ。

防水加工もバッチリだからな、めるとも一緒に入ろう!」



この直後、家族旅行へ向かう途中に暴走車に巻き込まれた一家の車は大破し、両親と兄と妹、そして、めるとの宿る携帯電話を喪ってしまったのだった。

その携帯電話は、まるで直也を守るように壊れていたらしいが…。



あれから半年、治療が終わった後も全てを失った直也は、何もする気力が起きず、ただただ日々を浪費してきた…

そんな彼の目には、少しだけ…ほんの少しだけ光が戻りつつあった。

そう、今の追憶で1つ…可能性を見出だしたのだ。



『じゃから今のワシが修理不可能なほどに壊れてしもうたなら、お主が新しく携帯を買い換えれば今度はそれを宿主に変え、お主と共に在ろうと思うておるのじゃ!』



思い立った直也は、縋る思いで携帯ショップへ駆け込み、めるとを想いながら(せっかくならと最新の)携帯を選び、契約した。

…しかし、店で契約完了してもめるとは現れず、期待しただけ無駄だったと落胆してとぼとぼと帰宅した。


それでもせめて家族の思い出を…と、兄と妹の使っていたストラップ(妹は携帯を持っていないので防犯ブザーに付けていた)を新しく買った携帯電話…スマートフォンに付けて、眠りについた。












―直也!」



最初、耳朶を打つ聞き慣れた…だけど振るえている幼声おさなごえは幻聴だと思った。



「のう…直也ぁ~起きるのじゃぁ~!」



自分の身体を揺らす小さな手は…暖かな感触は…幻覚だと思った…



「直也ぁ~何時まで寝ておるのじゃ~?

お主の待ってたワシが呼んでおるのじゃぞ~?」



しかし、重たい瞼を無理矢理開けると、そこには―



「やーっと起きたのじゃ!ただいま、直也!」


「…誰だ?」



顔立ちこそめるとそっくりだが、髪は艶やかな青、瞳は翡翠で泣き顔のツインテール幼女がそこにいた。

目を覚ました直也は困惑していた。

何せ、顔と声はよく知る、直也が待ち望んでいた、帰ってくる事を期待していた、めるとなのだ。

だが、髪の色や目の色はまるで違う。

今のめるとは慣れ親しんだ銀髪黒目ではなく、青髪碧眼になっていた。

が、当のめると(?)は気にしていない…と言うか気にしている余裕は無いようだ。



「どうしたのじゃ?直也…。」


「あっ…いや…お前…めると…だよな…?」



改めて目の前のめると(?)を見れば、左右の房を纏める髪留めは、寝る前にスマホに付けた兄と妹の形見(星と花の形をしている)だ。

そのめると(?)は信じられないといった表情(かお)になり、更に泣きながら叫ぶ。



「お主は何を言っておるのじゃ!?

こんなに可愛らしいお主の白神はワシしか居らんじゃろうに!

そもそも!!

怪我で動けなんだ時はともかく、怪我が治ったなら何故なにゆえ早々にワシの憑代を用意せんかったのじゃ!!

ワシは嫌われたか忘れられたと思うたのじゃ!!

うぁぁぁ…!ふっきゅ…ふぁぁあん…!」



めるとは、そこまで言って完全に泣きはじめてしまう。

そんな彼女を、直也は抱き締めた、めるとの温もりを、存在を確かめる様に…。



「…ごめん…。

俺さ…何もやる気が起きなかったんだ…。

家族も…お前も…皆喪って…もう…もう…俺には何もないんだって…勝手に絶望して…


「ぐずっ…かっ…勝手に…諦めんな…なのじゃぁ…

ワシは…ワシは白神じゃ…憑代があれば…お主が生きておれば…何度でも…ひゅっ…帰って…これるのじゃぁ…


「ごめん…めると…。」



そう言ってめるとを抱き締め、涙を流す直也の目は、確かな生気が戻りつつあった。

そして、決めた。

必ず、何があろうとめるとだけは守りきると。

めるとの為にも、必死で生きようと。

それからの直也は今まで以上にめるとを側に置いた。

今度は最初から防水機能付きなのでそれこそ風呂にまで持っていく程に。

めると自身も直也と入浴するのが密かな夢だったのでこれには凄く喜んだ。

…どうやら白神つくもがみ憑きになると本体(宿主)も多少変化するのか、高温にさらしても本体(宿主)は特に不調は無かった。

…そもそも、携帯電話スマホが牛乳を飲んだり、アイスを食べたりしても平気なのは、あまつさえそれでバッテリーが少し回復してたりするのはあからさまにおかしいのだが。

直也はそんな事はどうでも良かった。

ただ、単純にめるとと一緒に経験出来る事が増えたと喜んだ。


それから、夏休みの間、ずっとめるとと行動する内に本来の明るさを取り戻し、独り暮らしにも慣れてきた直也は、治療と夏休みでずっと行っていなかった学校へ久しぶりに登校した。

とは言え、夏休み中に友達には会っていたし、友達に勉強も見てもらったので大して気後れも無いのだが。



「おはよう!!敦!利佳!」

{雪華もおはよう。}


「来たか直也。」

{それとめるともな。}


「おはよう♪

昨日ぶりかしら?」


『やぁやぁ直也くんにめるとちゃん♪』


「皆は相変わらずだな!」



「まぁな。

許嫁なのを除いても俺は利佳と雪華が好きだし。」


「まぁ嬉しい♪」


『~っ///』


「へぃへぃ…相変わらずお熱いこって…。」

{しかし…まさか俺にも幽霊が見える様になるとはな…。}


『さぁね~?

知り合った時からキミは白神憑きだったし…、やっぱり事故のえいきょー?

まぁめるとちゃんとボクは知り合った時からお互いの姿が見えてたけど♪』


『うむ!

ワシと雪華は親友なのじゃ♪』



直也の友達…

まず、黒髪のショートレイヤーで黒の切れ長な瞳のクール系イケメンが一ノいちのせ あつし


次に、ダークブラウンでサイドテールに纏めた髪、褐色の瞳なウサギっぽい美少女が音無おとなし 利佳りか


最後に白銀のロングヘアーに紅の丸い瞳のロリ系美少女…で、幽霊な篠原しのはら 雪華せつか


三人は皆幼馴染みらしく、幼少期に雪華と死別したが、数年後に再会したと言うある意味直也より特殊な経歴を持つ。


そして三人にはめるとの姿が見えているらしい。

正確には、敦と利佳は事故後に再会した後から、らしいが。


それでも、事故前の時点で雪華経由でめるとの事は知っていたとか。

それもあって時たま携帯電話と話をする直也の事を理解して受け入れ、友達で居てくれたらしい…


そんな三人に直也は心の中で改めて感謝した。



「それはそうと直也。

2学期からの授業にはついていけそうか?」


「まぁ何とかするさ。

こっちにはめるとも居るしさ。」


『うむ!!

直也はワシが面倒を見ておる故、心配いらんのじゃ!!』


『でも、テスト中に小声でめるとちゃんと喋るのはどうなの…?;』


「めるとは俺のスマホなんだから俺の力にカウントして良くないか?」


「『駄目に決まってるでしょ!?;』」


「冗談だよ。

最初のあのテストは、ほぼ俺の実力だ。」


『ワシは直也が寝てしまわぬ様に監視してたのじゃ♪』


「お前等も似た様な事してたじゃないか。」


『あ…うん…;

二人は優秀だからなにも心配してないけどね。』


「終いにはめるとと二人で爆睡してただろ。」


『それを言っては駄目なのじゃっ!!///』






―そんなこんなで高校生活も充実して過ごせた彼は、高校卒業後に特技を生かして開いた修理屋がそれなりに成功した。

そして―






「なぁ…めると…。」


「なんじゃ直也。」


「俺は…お前と出会えて良かったよ…。」


「うむ。

ワシも、お主と過ごせて幸せじゃった。」


「なぁめると…。

次にまた逢えるなら…

その時もまた、俺と一緒に居てくれるか…?」


「当然じゃろ。

お主以外に誰がワシを修理できようか。」


「ふ…ふ…そうだな…。

…輪廻転生なんぞ…空想だとは思うが…。

もしも…もしも何処かへ俺が生まれ変わったら、

その時は、よろしく頼むぞ…。」


「分かっておる。

分かっておるのじゃ…

だからのう直也。もういのじゃ。

お主はワシと再会した時に誓った通り、精一杯生き抜いた。

お主が人である以上、老いには勝てぬのじゃよ。」


「・・・それでも…俺は…お前を独り置いて…逝きたくは無い…。」


「…案ずるな直也。

安心して眠るが良いのじゃ。」


「…める…と・・・・・・・・・・。」




この日。

つくも 直也なおやは天寿を全うしてその生を閉じた。

享年九十九歳。

奇しくも百歳を迎える前に亡くなったが、長年連れ添った相棒(彼にとっては家族も同然だった)に看取られながらの大往生であった。

























―そんな彼が息を引き取るのを見送った彼女めるとは、しかしながら実に良い笑顔だった。





「―安心せい。

既に手は打ってあるのじゃ。

ワシとてまだまだ、お主と一緒に居たいからのぅ♪」




















ここはエルラント―

3つの国と魔界から成る剣と機械と魔法の世界。


森と草原が広がる剣と魔法の国、ウィンド王国。


雪に閉ざされた機械と兵器の国、フェンリル帝国。


砂漠に囲まれた技術と魔術の国、ラミネス皇国。


そして、この世界の調整を一手に担う魔族の国、コキュートス。




さて、他の国のお話は別で語るとして…

今回のお話はその中の1つ。

ラミネス皇国から始まる。









あの後、直也を看取っためるとはこの世界へとやって来た。

いや、正確には()()()()飛ばされた。




「さてさて…直也はこの世界に転生したようじゃが…何処にるのじゃろう…?」



因みに、事故後に直也と再会してから(二度と壊れない様にとの気概で)色々と手を加えられた めるとは、80年以上もあの時のスマートフォンを宿主にしている。

そのスマートフォンは今でも現役稼働中、本体も電池バッテリーも直也の技術とめるとの白神つくもがみ補正により常に最新・最高のCPUが使用され、老朽化知らずで衝撃に強く、防水、防塵、耐火、防刃、etc...しかも めるとの飲食や睡眠でバッテリー回復や傷の自動修復が可能と、かなりのチート機能を誇っていた。

最早この宿主スマホは直也とめるとの技術と愛の結晶…二人の娘と言っても過言ではないだろう。

だが、スマホに対してこれはやりすぎである。


閑話休題


現在めるとが居るのは商店街らしき場所。

彼女の周りでは石造りでテントのような屋根がせり出した店先に、さまざまな果物を並べた店、野菜を売る店、香辛料を扱う店等、色々とあった。

その中にはめるとが前世で見た事がない…いや、見るはずもない店もあった―



「ふむ…

魔法具屋…とな…?」



気になって足を止めた めるとは、看板を見上げる。

書かれている字は当然異世界の文字。

しかし めるとは普通に読むことが出来た。

何せ、めるとは白神の力で使えなくなったインターネットの代わりにこの世界の叡智(コキュートスのコア)にアクセスしているからだ。

…白神だからって何でもあり過ぎである。


さて、そんな店(この店だけは扉があり、中に入るタイプの様だ)から重い足取りで誰かか出てきた様だ…

める とが道を譲る(この世界では めると も実体を持ち、他の人からも認知されるらしい)と、出てきた人物は めると には目もくれず、去っていく…

その人物は男性で、この世界ではよく見かける、茶色の髪(但し髪型は寝癖がついた様な感じだ)に茶色の瞳だ。

この国の標準的な服装である、薄くて動き易そうな服を着ている。



「・・・ふむ…この世界で直也の父となる者・・・かのう。」



しかし、白神である めると にはすぐに分かった。

彼が、この世界の直也の父親だと。

そんな彼は、ポツリと呟く。



「うむむ…お告げでは今日魔法具屋へ自らの足で向かえば手に入るはずだったのだがなぁ…。」


(…ふむ。

あやつは何か探しておるのか…。

どれ…。)



めるとは、コキュートスに接続し、必要な知識を“検索”する。

これは地球に居た頃にもしていた事で、見たものを検索したり、イメージで検索したり出来るので普通に検索するよりも楽で確実なのだ。

これで直也の手助けをしていた。


どうやら彼は、この国でそれなりの地位に居る人間らしく、今回は占い師(この国では占い師の助言が重要視されている)に『産まれてくる子には自らの足で向かい、購入した板状の魔法具を与えよ』との啓示を受けたらしい。


恐らく、『板状の魔法具』とは自分(の宿主)の事なのだろう。


(かなり的を射た啓示をしている辺り、地球の占いよりかなり高性能じゃのう…)


等と感心しつつ、チート性能スマホから薄手のフード付きの上着を取り出して羽織り、ボイスチェンジャーを起動した めると は男性に声をかけた。



「もし、そこのお方。」


「ん…?

おや、誰かな君は…変わった格好の様だが…。」


「ふふふ…私は旅の占い師ですの。

今しがた、貴方が困っている様に見えましたの。

そこで、これを貴方に授けようと思いましたの。」


「(!)おぉ…!

もしやそれは、板状の魔法具ですかな!?」


「うふふふふ…

私はお見通しですの。

ささ、これを貴方の子に授けなさい。

そうすれば、貴方の子はきっと幸せになれるでしょう。」


「そこまでお見通しとは…

いやはや、ありがとうございます、占い師殿!

ところで…お代は?」


「いえいえ、必要ございませんの。

但し、その魔法具からは女の子が現れますの。

その子も貴方の子と同様、食事と寝床を与え、大切にしてほしいですの。

そして、その女の子が常に貴方の子の側に居る事を許してほしいですの。

それと…産まれてくる子に、名前も授けておきました。」



この国では名前も占い師に決めてもらう事が多い。

それを利用してめるとはこの世界へ転生してくる直也の名前も、男性へ渡した。



「勿論ですとも、ありがとうございます占い師殿!!」


「うふふふふ…それでは…。」

(直也…今度はワシがお主に名を与える番じゃよ。

気に入ってくれると嬉しいのじゃが…。)












無事に男性へ自身の宿主を預けれた めると は、この世界の直也に逢うのを楽しみにして宿主の中へ戻った。



それから数日後…

その男性の家に男の子が産まれた。

付けられた名前は『コール』、『めると』と対になる様に考えたらしく、『呼ぶ(電話的な意味で)』と『凍る』を兼ねてみたとか。

めるとは元々『メール』から捩った名前だが、『溶ける』、と言う意味があったからその対義語らしい。

そんな、直也改めコールの側に現れためるとは、産まれたばかりの彼を見て微笑み、彼のこの世界での両親となった彼等に元気よく挨拶した。



「ワシはこの魔法具に宿る白神つくもがみ、『めると』じゃ!!

主であるコールの事は、ワシが守るのじゃ!!

よろしくなのじゃ!!父殿、母殿!!」


「おぉ…君が占い師殿の言っていた…。

随分可愛らしい精霊殿だね。」


「まぁ…本当に可愛らしい子。

宜しくね、おちびちゃん♪」


「うむ♪」



どうやらこの世界での めると は精霊扱いされるらしい…

でも、兎に角コール(直也)の側に居られるのなら何でもよい、と思ってめるとはスルーした。



主様あるじさま…今世でもよろしくなのじゃ…♡」



めると は無事に出逢えた直也の頬にそっと口付けをした。











…お楽しみいただけましたか?

それでは、彼等の物語は本編登場までありませんので…また何処かで。

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