Ep.84 契約
三学期の第一の週末…
↓
私立賀正高校…
↓受験シーズンのど真ん中…
その三学年において
↓
全国ではセンター試験が行われ
↓国中は…
受験生たちの戦場と化していた
私立賀正高校
↓きっての
秀才であった…
↓
学年トップの超エリート
↓
重金属眼多流
↓
校内一の才色兼備
↓
西岡加奈子
↑この校内を代表する知的エリートふたりの
↓周囲より多大なる期待を負った優等生男女は
↓
受験拒否!
↑
これは賀正高校にとっての衝撃であったが
↓
のみならず
↓
各方面からの注目を集めた超ド級な逸材であったという事実を真っ向から証明するように
↓
史上稀に見る逸材の損失劇との伝播の輪は
↓
驚異的速度と範囲をなして広げられていった……
↓
が。
↓
重金属眼多流そして
↓
西岡加奈子にとって
↓
ある年度の
↓
受験戦争におけるスキャンダルなど
↓
最早微塵にも意識に上がらぬ程に
↓
彼ら…
↓
より正確にいうならば
↓
浪藤吉藤吉浪を中心とした彼らにとって
↓
今そこにある危機
↓
全国魔境問題が
↓
巨大な難題として立ち塞がっていたのである
彼らに…
↓本質的には
この世界に暮らすものたちその全てに
↓
避けることの出来ない
↓更に発展させて
絶対的に攻略しなければならない
↓人類並びに世界においての危機
魔境…大ボスへの勝利
↓
それこそが
↓人類の選択できる
唯一の生き延びるための運命であった
紺藍の魔境の激闘から二週間…
↓第二の魔境
朱色の魔境の魔力と危険性の増幅は…
↓もはや決壊寸前であり
刻一刻と迫る
↓ギリギリの均衡…絶体絶命世界の崩壊の産声を聞く前に
鎮圧を収めるための猶予はもう差し迫っているのだった
センター試験を受験しない三年生は総じて自由登校の身となって
↓
それを利用して藤吉浪 御一行は
↓目下の宿敵
朱色の魔境と大ボスの攻略に戦略を絞り
↓現地捜査員里山青年を含めて
緊急作戦への最終議論と策略を練り続けていた
決行の日取りは明日!
↓
眼多流と勾玉は里山青年にそれを通達し…
↓それから
藤吉浪にそれを告げた…
告げられた藤吉浪
↓藤吉浪を抱き
肩に顔を寄りかからせて
↓胸騒ぎの拠り所を失いそうになっている
加奈子…
絨毯の上で腰をおろしたふたりの頭上
↓
眼多流と勾玉は
↓緊張した面持ちで…
藤吉浪と加奈子の様子を見遣っていた…
↓すると…
「王子、勾っち!」
↓恋人に対してさえ沈黙を続けていた
↓加奈子が口を開いた…
「あなたたちとダーリンは第一の魔境を急ぎ足で討伐にかかり…」
↓
「危うく生き延びた!」
↑
「……」「……」
↑眼多流勾玉は何も言うことが出来ない…
↓そんななか…
藤吉浪はひとり涼しげな表情を見せながら
↓
更なる沈黙を変えることはない
↓
「王子…勾っち…情報収集と戦略を怠ることなく」
↓
「勝利へと繋いでくれたその結果に感謝するよ」
↑
「……」「……」
↓
「ありがとう」「恐縮です…」
↑
「うん!」
↓……
「でもね。」←加奈子
↓最後の最後で…
「ワタシの特殊能力が発動した結果だったことも理解しているんだよ」
↑↑
「もちろんだよっ!!」「ええ…」
↓それで…
「生きて帰ってくれて本当に感謝している…」
↓だけど…
「下手をすれば生きて戻れなかった…」
↓うん!
「ワタシがいなかったら絶対に!!」
↑↑↑
「!」「!!」「……」
↑藤吉浪
沈黙を続けていた…↓リーダーが…
ようやく→「ああ…」←口を開く…
加奈子…↓
「たら…ればではなく…」
↓俺たちがこうして生き延びている事…
↓それは…
「加奈子!全てお前が駆けつけてくれたおかげだった…」
↑
それは事実であり真実であった
↓
「全てはお前の特殊能力だのみだったってわけさ…」
沈黙…
そして
↓
「王子…勾っち!」
↓→「……」
「次はワタシをパーティーに入れなさい!」
↑↑
「!!」「!!」
命令形!
↓普段からたおやかで柔らかい物腰のオンナであり続けた
加奈子とあって…
↓しかも究極的に受身で依存気質の象徴であった…
そんな加奈子が…
↓
皆に命令を下した状況!!!
眼多流と勾玉は何も言わず…
↓ただじっと…
加奈子の真っ直ぐな瞳を見詰め…
↓そのあとに…
藤吉浪へと視線をずらしていた…
↓
藤吉浪は終始無言で…
↓
とても渇いた表情を見せ続けていた……
眼多流と勾玉の通達の為に部屋を訪れる前だった
藤吉浪と加奈子は
↓
ゆったりとした時間を噛み締めながら…
↓
ふたりはそれぞれ別の世界の沈思を続けていた…
その始終…
↓ぬくもりを伝え合って
手と手を握り絡め合いながら…
↓そして
「ふぅ~っ」←一息着いて←加奈子
↓
それから愛するオトコへと視線を正面から注ぎ込んで…
↓愛しさをたっぷりと表情だけで語りかけ…
同時に
↓
これまでにあり得なかった表情を…
↓
それは依存の意思表明とは異質である…
↓加奈子自身から溢れ出した
独立した真っ向からの意思の表明であり…
↑
その表情を軽く一瞥しただけで…
↓何も言わずに
彼女を愛するオトコは
↓
その全てを瞬時に汲み取っていたのである…
↓それでも…
全く何も意見しないで…
↓
彼女のカールの掛かった美しい天然の茶髪を…
↓
さらりと指と手のひらで触れて…
↓
オンナはすぐに安堵の表情に溶け広がっていった…
これは…
↓
従順で…
↓
柔和な
↓
契約への絶対服従を誓うオンナ
↓
加奈子の!
↓
その王とも神とも…
↓否
それら概念よりも完全に強大な
↓
絶対的な敬虔を以降誓うであろう
↓
奉仕の愛と精神の結実…
↓
加奈子にとっての…
↓
人生たった一度きりの…
↓
独立意志……
↑
それは…
↓
余りにも理路整然とした
↓
何ひとつの淀みのない…
↓
完璧な戦略であって…
↓
それはもう皆の心に直ぐ様浸透し
↓
言葉に表すまでもない
↓
自然な決定であっただろう…
↓
そして!
↓
「なあ…加奈子…」
↑
藤吉浪は語り始めた…
↑
加奈子は隣にいる愛しいヒトをじっと見詰めて…
↓
「俺が受け入れた約束は次の一回きりだ…」
↓
加奈子はその言葉を頭で整理している…
↓
「……」
↑
「そのかわり…絶対に攻略する!お前の力がなくても勝利する方法を…」
↓
「何が何でも見つけ出す!」
↑
「……」←加奈子は再び安堵の表情に還っていた…
↓
「約束は絶対に守るさ…お前と俺の…」
↓
「それが契約だ!!」
藤吉浪と加奈子…
↓
何も言わず…表情すら眺めずに…
↓
ふたりはあろうことか
↓
約束ごとまでも
↓
こころとこころで交わしていたという…
↓それは…
常人には最早理解不能な領域であり…
↓
精神の純粋な領域に…
↓
ふたりの精神はともには昇華していたということになるのだろうか……
↓
よって
↓
藤吉浪加奈子
↓
ふたりはこの宇宙において
↓
史上類を見ない繋がりを伝播しうる
↓
唯一のペアだったといえよう…
↓
そう!
↓
ふたりはマサシク…
↓
夫婦だった!!!




