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憑依転生、失敗されたらしいのですが……

 朝、起きたら記憶が増えていた。

 はたから聞いたら狂人の戯れ言(ざれごと)にしか聞こえないが、事実なのだから仕方ない。


 昨夜、眠る時には特に異常はなかった。

 むしろ寝付きが良く、気持ち良く起きられたほどである。

 それが朝、目が覚めたら記憶が増えているとか何の冗談だと聞きたくなる。


 元凶である増えた記憶に、この事態の理由があるかと探ってみて、思わず頭をかかえた。


 神様のミスで亡くなった少女が、オワビに、少女が好きだったマンガ原作のゲームに酷似した世界に憑依転生させてもらう、ということらしい、のだが……。


 この時点で誰かに話そうものなら、精神科への通院を勧められるだろう。

 良くても距離を取られるのはほぼ確定である。


 非常に遺憾であるが、話が進まないので仮にこれを真実だとしよう。

 神も少女──仮にA子とする──も頭がオカシイとしか思えない。

 ミスしたのはしょうがないにしても、なぜゲームの類似世界に、しかも憑依転生させようとする。

 それをなぜ受けるA子。

 アホか。天然なのか。夢見がちファッ〇ンウーマンなのか。


 言いたいことは山ほどあるが、この事態の解決が優先なので今は後だ。

 とは言っても、関わってきそうな記憶はコレだけである。

 しかし、私にA子の記憶が多少なりともあることで推測することはできる。


 私にA子の記憶があるということは憑依転生の先は私だった、と考えるのが自然である。

 そして私の人格がA子の人格に消されていないことを考えるに、何らかの事態が起こったのだ。

 私とA子の人格が融合した可能性もないではないが、A子の記憶を他人のもの、異物として捉えられている現状、その可能性は低い。

 と仮定すると、その事態によってA子は私の中に入ってはきたが、私の人格は消えず、A子の人格がその記憶の一定の部分を残して消えた、と考えるべきだ。


 これで当初の問題は解決した、のだが。

 この記憶を事実とした場合、ゲームの世界に酷似した世界で憑依転生の対象に選ばれた私は、所謂(いわゆる)モブのキャラクターではなく、ストーリーに関わるネームドのキャラクターである可能性が高い。

 ほのぼの日常系の作品の可能性もあるが、マンガ原作でゲームになっている以上、ある程度ストーリー性のある話なのは確実である。

 多少のドタバタ展開もあったとみるべきだ。


 あくまでゲームに酷似した世界で、少なくとも私は現実として認識していることを鑑みる(かんがみる)とストーリー通りに動くかは不明だが、厄介ごとに巻き込まれるのは勘弁である。

 神とA子からの慰謝料としてA子の記憶を活用したとて罰は当たるまい。


 そう思ってゲームの記憶を手繰った(たぐった)私は悪くないだろう。

 どちらにしろ、知りもしない記憶が脳内にあるなど不気味以外のなにものでもない。

 結局、早いか遅いかの違いで記憶をすべて復習っていた(さらっていた)のは間違いないのであるからして。

 結果、私が膝をついてうなだれることになるのも既定の事実なのだった。


 復習ってきた(さらってきた)マンガとゲームの知識に寄ると、この世界は“ハーレム☆スクール”というマンガ原作のゲームと酷似した世界であるらしい。


 あらすじは富裕層の子息子女が多く通う学園、晴夢学園(はるゆめがくえん)に転入することになった主人公であるヒロインと大企業の御曹司たちやら幼なじみやらとのベタな学園恋愛モノ。そう、つまり──

 「乙女ゲームかよッ……!! 」

 魂からの慟哭(どうこく)であった。


 その上、私と一致する登場人物を1人ずつ記憶と照会して探してみたところ、容姿や性格などは当てはまらないが、名前や境遇、その他が一致する人物が1人だけ浮上した。


 その人物は150cmぐらいの少々、小柄な身長に清楚な雰囲気をまとい、顔は童顔で、きれいというより可愛らしい、愛くるしい印象を与える。 こぼれ落ちそうなほど大きな目はぱっちりとした茶瞳。小さな唇はとても柔らかそうで、頬は薄い桃色をしている。

 体つきは小柄ながらそれなりに出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。

 髪形はツヤのある、きれいな茶髪をミドルほどの長さでおろしている。

 性格は天真爛漫で芯が強く、趣味はお菓子作りと映画鑑賞。特技はピアノ演奏。

 名前は私と同じ桜庭 結希(さくらば ゆき)

 押しも押されぬヒロインさんである。


 いや、待て。と思った私は悪くない。

 第2の人生が学園恋愛モノでヒロインて何の罰ゲームだ。

 お前は本当にそれで良かったのかA子。

 大体、私とヒロインのスペックが違い過ぎる。


 身長は190cmと、少々を大幅に越えた長身。

 良く言えば凛々しさとワイルドさを兼ね備えた、悪く言えば関知に長けたケダモノの雰囲気を持ち、顔つきは鋭く、獲物を追い詰める猟犬の印象を与える。

 少し釣り気味の三白眼に、引き結ばれた唇が意志の強さを感じさせ、余計な肉のない頬がその印象をよりソリッドにする。

 体つきは引き締まってボルゾイなどの犬科の動物を想起させるが、胸や臀部(でんぶ)は身長と釣り合いが取れる程度に脂肪が乗り、女性らしさを喪わせていない。

 髪形は墨を溶かしこんだようなツヤの薄い黒髪をベリーショートにしている。 性格は一見クールでストイックだが情熱家。

 趣味はトレーニングと読書。特技は段位も持っている合気道。


 どこに出しても恥ずかしい、少々ポエマーな友人の私に対する人物評を並べると以上のようになる。


 大体において、私には素敵な婚約者様が既に存在している。

 お互いの仲も良好で、言うのは恥ずかしいがラブラブというやつだ。

 それなのに、何が悲しくて性格破綻者の問題持ちという地雷原のような攻略対象共と恋愛なぞしなければいけないというのだ。


 ゲームと酷似した世界という触れだったのだが、私以外に力を割き過ぎたのだろうか。

 もっと近そうな世界を探してやれよ、神。


 しかし、私は逆に安心してもいた。

 名前や境遇、その他こそ一致しているが、容姿や性格がこれだけ離れているのである。

 ストーリー通りに動く可能性は皆無に等しいし、攻略対象たちに過剰に好かれるというのもなさそうだ。

 攻略対象たちも私と同じくゲームとまったく違う人物というのもあり得る。

 多少は気をつけるべきかもしれないが、乙女ゲーム展開に巻き込まれることもあるまい。


 私は安心して朝食や翌日に控えた転入の準備の前に日課の早朝トレーニングへと出かけるのだった。


 だが、この時の私は知らない。

 なぜか攻略対象共に好かれ、付きまとわれることを。

 そして、あまりのウザさに全員まとめてたたきのめし、私には婚約者がいて、『私より強いヤツに嫁に行く』と言ってしまうことを。

 さらに、婚約者様と結婚するまで、身体を鍛えた攻略対象共に挑まれ続け、挙げ句の果てに結婚式にまで現れたことに婚約者様がキれ、全員をさんざんにぶちのめすことを。

 この時の私は知らなかったのだ。


 ゆえに一言だけ言いたい。

 格ゲーとかジャンル違うから!

 主人公:生まれる世界を間違えたレベルの武術の達人。

 身内に対しては照れ屋(物理)。

 乙女ゲームに酷似した世界で主人公的立ち位置にいるが、本人は嫌がっている様子。

 憑依転生されそうになったが、相手方の自我が弱すぎて失敗された。


 神とA子:ミスして殺した神と憑依転生を受け入れるA子なので、ある意味、お似合い。


 友人:主人公の数少ない友達の1人。

 感じたこと、考えたことを素直に口に出す性格で、主人公曰く『どこに出しても恥ずかしいポエマー』。

 本文中の主人公評は彼女のものだが、主人公が照れると拳が飛んでくる人なので、実は主人公が手を出さないギリギリのところでの評。

 そのため、本来より少し低評価になっている。

 『ユキが手を出さないギリギリのところを見定めるスリルがたまらない』とは本人談。

 乙女ゲームではサポートキャラ。


 婚約者:生まれる世界を間違えたレベルの武術の達人。

 この世界では数少ない主人公に勝てる内の1人。

 その他スペックも攻略対象たちを凌駕し、どこの完璧超人か、とツッコミが入るレベル。

 ハーレム形成体質だが、主人公一途のため、近付いてきても切り捨てる。

 乙女ゲームではいなかった存在。


 攻略対象共:ストーカー。

 本文中、ある意味1番、憐れな存在。


 というわけで、ここで本作は終了となります。

 作者、処女作である本作品、いかがだったでしょうか。

 よろしければ、感想、批評などいただけますと幸いです。

 以上、アネット・ラスキンでした。

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