お金のおはなし
とある魔法使いが独りで旅をしていました。
普通の魔法使い(彼女以外にはもうほとんどいませんが)は、人々をしあわせにするために魔法を使っていましたが、彼女は違います。
彼女は世界を憎んでいましたので、他人のために魔法は使えないのです。魔法は自分のためだけに使います。
その魔法使いは長い黒髪をなびかせ、今日も世界を憎みながら旅を続けます。
魔法使いが歩いて、歩いて、歩くとひらけた場所にでました。その真ん中にある、まあるい壁に覆われた場所はおそらく国なのでしょう。
魔法使いにとっては食べ物も着るものも全部魔法でだしてしまうので、国に立ち寄る必要はありませんでした。なので今回も魔法使いは興味を持つことなくその国を通り過ぎようとしました。
ふと、魔法使いの足が止まります。俯き気味だった顔をあげ鼻から空気を吸います。それを三回ほど繰り返しました。彼女の視線は今まさに通り過ぎようとしている国へ釘づけでした。
国からもれる様々な音によって、魔法使いのお腹から鳴った小さな音はかき消されてしまいました。
入国は非常に簡単でした。魔法使いの見た目はまだ幼さ残る女の子でしたし、武器の類を一切持っていなかったのがよかったのでしょう。(さすがに何も持っていないのでは怪しまれると思ったのか、彼女は大きめの袋を背負っていたようです。)
「まだ若いのに独りで旅なんて、さぞかし大変だったでしょう。」
と、門番の同情的な視線を受けながら二言、三言言葉を交わすと門を開けてくれました。
「なにもない国ですが、旅の疲れを癒していってくださいね。」
そう言いながら門番は魔法使いを見送りました。
魔法使いは国の中心にある広場にいました。そこにはたくさんの人々が居ました。久々に見る大勢の人々に魔法使いは少し気が滅入りました。
彼女がぼーっとしながら立っていると、一人の男性が近づいてきました。彼は自分がこの国の役人であることを説明し、見慣れない格好に興味を持ったと言います。魔法使いが自分が旅人だということを伝えると、
「やっぱり!この国に旅人がくるなんて珍しいので。いやもしかしたら、なんて思ったんですけど。」
彼は興奮しているのか、うまく言葉がまとまっていなかった。しかししっかりと魔法使いに歓迎の気持ちを伝えた。
役人の男の歓迎のあいさつが終わると、魔法使いは旅をしている理由や目的を聞かれる前に、口を開きました。
「ところで、先ほどからしているこのいい匂いはなんですか?」
話の腰を折られた男は、えっという小さな言葉を漏らした後、気を取り直して彼女の質問に答えました。
「ああ、この匂いはこの国の名物料理ですよ。」
彼の話によればその料理はいろいろな野菜を肉と一緒に煮込んだもののようです。誰かのお腹から、誰にも聞こえないような小さな音が鳴りました。
「ただ、あの料理はとても高いんですよね。僕も生れてこの方数回しか食べたことがありませんよ。でもとてもおいしいです。旅人さんもぜひ食べてみるといいですよ。」
男の話が終わると、魔法使いは少し困った表情を浮かべました。
「どうしたのですか?」
彼がこう聞くと、魔法使いは首を傾げました。そして少しの間の後、口を開きます。
「私はこの国には初めてきました。それもこの国にくる予定でもなかったのです。なので私はこの国で使えるお金を持っていません。売れそうなものもありません。」
男が残念そうな顔をするのを見ながら彼女は続けます。
「わたしが持っているのは、私の故郷で使われていたお金だけです。」
そういいながらポケットの中から一つの木の実を取り出し、男に見せました。男は目を丸く見開き驚きました。
「これがお金なんですか?」
彼女は頷き、説明します。
「この木の実が取れる木は、私の故郷に一本しか生えていませんでした。国の周辺でもです。余談ですが、私が旅をしている最中にもこの木に出会うことはありませんでした。私の故郷の一本以外はもう絶滅してしまったのかもしれません。」
「確かに僕もこんな木の実は見たことがないですね。」
彼女が見せた木の実に役人の男は興味津々でした。
「しかし、なぜ木の実をお金に?僕たちの国のようにお金を自分たちで作ってしまった方が管理もしやすく良いのでは?」
「私たちの国の技術は、あまり高くありませんでした。いろいろな国を回ってみてもあれほどまでに遅れている国はそうないほどに。なのでお金を作ってもすぐに偽のお金が出回ってしまうのです。誰のでもまねできるもの、しか作ることが出来なかったのです。このことに長年悩まされていましたが、一人の役人が案を出しました。それがこの木の実を使うということでした。」
「なるほど、国に、いや世界に一本しかない木から取れる木の実であれば、偽物は作れないというわけですね。」
男は腕を組みながら、時に頷き、時にうなりながら真剣に魔法使いの話を聞いています。
「その木は大きかったのでたくさんの木の実が取れました。私の国が小さかったのもあり、お金として十分機能する量でした。それに一年に取れる量もほぼ決まっていたようなので、管理も難しくなかったと聞きます。」
「ふむふむ、木の実が腐ったら役場に持っていき、新しいものと交換する。という風にすればいいわけか。」
そういうことです。と魔法使いは男の言葉にうなずきます。
「そして役人が木を見張っていれば、もうお金に関する問題はなくなるということか。」
「そうですね。その木から木の実を取ろうとしたところを見つかれば、重い罪が課せられました。」
魔法使いがそう言ったところで、男は腕を組みながらうなり、一人考え込んでしまいました。しばらくしてから腕を解き、魔法使いに笑顔を向け、
「大変、参考になりました。近年、我が国でも偽の紙幣が作られ、問題になっていたんです。今のお話から解決方法が見えてきたような気がします。」
といいました。それに魔法使いも笑顔で答えます。すると役人の男は急に真剣な顔になり、申し訳なさそうに口を開きました。
「この木の実を譲ってもらうことはできませんか?すいません、これが貴重なものであるということは十分、いや十二分にも理解しているつもりですが、他の役人にこの話をするときにこれが嘘ではないと証明するために、この木の実を証拠としたいのです。もちろんタダでとはいいません。この国のお金であれば差し上げます。」
言葉の後に男は深々と頭を下げました。魔法使いは笑顔のまま肩に下げる大きな袋を下して言います。
「構いませんよ。でもせっかくなので…」
彼女は袋の中から同じ木の実を五個ほど取り出しました。
「私の持っている木の実全部を差し上げます。もう持っていてもしかたありませんから。」
男はすごい勢いで頭をあげました。驚きの表情を浮かべています。
「いいんですか、こんな貴重なもの!それにあなたの故郷の思い出でもあるでしょうに。」
「いいですよ。私にはもう価値のないものですし。この国のためになるのであれば、喜んでお譲りします。」
男は先ほど顔を上げた時と同じ勢いで、今度は頭を下げました。しばらくして顔を上げると、彼は財布を取り出しました。
「こんな貴重なものに、いくら払えばいいかわかりませんが…」
そういった男に魔法使いは笑顔で
「あの名物料理が食べられるくらいの額で結構ですよ。」
と言いました。
その料理は大変おいしいものでした。魔法使いはしっかりとこの味を覚えるように味わって食べました。お会計を済ませても貰ったお金はまだ残っていました。あの役人の男はかなり多めにお金をくれたようです。彼女は残ったお金でおいしそうなお菓子をたくさん買って、肩に担いだ大きな袋に入れました。
魔法使いはその日のうちに国を出ました。門番には驚かれましたが、彼女は当たり障りのない理由を言い、門番も納得したようでした。
買ったお菓子を食べながら彼女は歩き始めました。しばらく歩いたところで、彼女は立ち止まり、しゃがんで、何かを拾いポケットにいれました。
見つけた国に立ち寄るようになった魔法使いは、木の実を一つポケットに忍ばせ旅を続けます。
はじめましての方ははじめまして。一作目も読んでくれたという方には地面に頭が埋まるほどに頭を下げたい気持ちです。どうもkinaです。
前回のあとがきにも書いたんですが、本当はこれを一作目にするつもりでした。でもそうしたら魔法使いちゃんがとてつもなく腹黒で性根の腐ったやつ、みたいなイメージがついてしまうんじゃないかと思ってやめました。この話から見た人はそう思っちゃうかもしれませんが。
それに一作目を見てもあんま伝わってこないという話もちらほら…
たしかに魔法使いに関する情報が少なすぎる。容姿に関しても!世界を憎んでるって意味不明な設定にしても!!
まあ一応どちらについても理由はあるんです。容姿についてはあんまり固定させたくないんです。ほらだって魔法使いじゃないですか。その気になれば見た目も、言ってしまえば性別も魔法で何とかできると思うんですよね。
つまり何を言いたいかというと、皆さんの思う「魔法使い」をイメージしてくださいっていうことです。彼女の名前についても同様な理由でつけていません。
え?それは作者の手抜きなんじゃないかって?
…HAHAHAチガイマスヨー、チャントカンガエアッテノコトデスヨー
ごほん、ごほん。よ、容姿に関してはこのくらいにしておいて、あとは変な設定についてですね。
それについては「おはなし」があるので待っていただければなーと思います。一応伏線的なものは這ってみましたがどうだろう、回収できるかな?でも、いつか書きます。
…いつになるんでしょうねー
い、いやほんとに考えてあるんですよ!?ただまとまってないだけで。
それに私のスタイルは思いついたら書く。なので、、、ってあれ?じゃあその「おはなし」は思いついていないということに?
おかしいなフォローしようと思ったら墓穴を掘ったぞ。穴があったら入りたい。
ま、まあこのはなしはこれくらいにしましょう。というかこれ一作目の時に書くべきでしたよね。
いまさら考えてもしょうがない。後ろは振り返らない男、それがkinaです。
とまあこんな感じであとがきは終わるんでしょう。普通は。しかし期待のあとがき作家は止まらない。まだまだ書きたいことがたくさんある!!
なんというかこの二作目のフォローをまったくやっていないなぁと思いまして。すいませんお時間があればもうすこし付き合ってもらいたいです。
話したいのはこの世界観でいうところの「魔法」についてですね。
…今回魔法でてきてないですけど。
いや!大きな袋と袋から出した木の実は魔法で出しました。出したんです!!
よかったよかった。魔法あったね。っとまた脱線しましたすみません。
この世界で、というか彼女が使う魔法は万能です。何でもできます。だからさっき言ったように容姿も変えられます。
ただ何でもできるなら彼女はとっくに世界を滅ぼしているでしょう。世界を憎んでいますからね。
よって制約はあるということです。
それは「しっている」ことです。
たとえば今作で彼女は美味しそうな料理に惹かれましたよね。別に魔法で何とかすればいいじゃんって思った人も多いかもしれません。でも彼女はそれをしなかった。というかできなかったんです。見た目も味も、さらには名前も「しらない」その料理は出すことはできないってことですね。
こう考えると一作目で男を楽に殺す魔法ってのも多分できないんでしょうね。これを作者にミス、矛盾ととらえるかどうかは読んでいただいたみなさんの想像にお任せします。
っとまあ書きたかったことはこんな感じです。だらだらとほんとに申し訳ありません。時間を取らせてしまいました。
作品やこのあとがきに関するご意見、ご感想あればください。意見をくださればきっと成長します。もっといい作品がそして、もっと長いあとがきが書けるようになるはずです!!
…あとがきが長いというご意見。重々承知しております。
ということでだらだらとした駄文にここまでつきあってくれた方、本当にありがとうございました。途中で断念してしまった人にも届け!感謝の気持ち!!
以上前回の二倍ほどの量に成長したあとがきでした。