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ARROGANT  作者: co
翌木曜日
95/194

 君島が玄関を出ていくと、わっと大勢の声が上がった。

 健介はそれをドア越しに聞いていて心配ではらはらしたが、そんな大勢の声よりも大きな音でシャッターが開閉し、その後すぐに全部の音が消えた。


 すごいなー、秋ちゃん……。


 健介がため息をつくと、マックスがにやおんと鳴いた。

 顔を上げると、マックスが目を見開いて尻尾を立てて健介が持っている皿を凝視している。


「あ。これ、マックス専用だもんね。洗ってあげるから待ってよ」


 フロアに上がるとにやおんにやおんと鳴きながらマックスが足に巻きついてくる。


「そんなにこのお皿がいいの?」


 これまでにないほど上機嫌な猫が可笑しい。


 キッチンに行って皿を水で流してキッチンペーパーで拭いて、フードを入れて置いてあった皿と換える。

 マックスは健介の足に一度頭を擦りつけてから、皿の前に座って食べ始めた。



 家出だったのか。マックス、自分でここ出て行ったんだ。

 それで、帰ってきたんだ。やっぱりここがいいから帰ってきたんだ。


 僕と同じだね。

 父さんのところに帰ってきたんだね。



 そして健介は、二階の原田の部屋の方向を見上げた。



 ご飯を食べ終えたマックスが、赤いベッドに引きこもる。

 それを見送って、健介が立ち上がった。


 階段を上り窓から外を見ると、報道陣が半減している。

 ということは、あそこにいた大勢の半分が君島を追ったということ。


 すごいなー、秋ちゃん。とまた健介は思った。


 そして振り向き、原田の部屋のドアを開けた。



 父はまた布団を頭まで被っている。

 仮死状態のわりにまめに動いているよね、と思いながらまた顔を出してやる。

 それからくるりと部屋を見回した。


 そういえばアロガンの匂いが薄くなっている。

 芳香剤代わりに使っているらしいけど、どこに置いてあるんだろう。

 立ち上がって家具を見回す。原田は綺麗好きなので全てフラットに収納されていて、探すとしたらクローゼットを開けるしかない。

 まずドア近くの扉を一つ開けてみた。


 CDがぎっしり並んでいる。

 指でそれをなぞり、真ん中ぐらいで止めて、一枚抜き出した。



 これ、知ってる。

 大きい人が大きい球を持ち上げてる写真。

 知ってる。このCD、耳が破れそうなくらい大きい音で聴かされた。

 いつ?どこで?

 健介はまた部屋を見回す。

 ここじゃない。


 健介は原田の部屋を出て、隣のオーディオルームのドアを開けた。



 ここだ。

 ここの、一番奥に置いてあるあのデッキ。

 もう古い大型で今は使っていない。

 あれで聴いた。

 あれで、ここに引っ越してきたばかりの時に、聴いた。



 そんな記憶があったことに健介は驚く。

 そんな大昔。健介はまだ2,3歳。

 まだダンボールが山積みだったこの部屋であのデッキのセッティングをした。原田がコードを色々と繋いでいる横で健介はCDを掻き回していた。

 作業を終えて振り向いた原田が、健介の握っているCDを見て笑った。

『古いアルバム掘り出したな。それ聴くのか?』




 これがあの時のCDだ。

 健介はデッキの電源を入れてトレーを開けてCDをセットする。

 くるくるとディスクが回り始めて聞こえたのが、


 大型の野獣のような、小さい子供なんか簡単に獲って食いそうな、どこかのおじさんの乾いた野太い大声。うねるようなギターの後にまたおじさんのシャウト。


 久しぶりに聴いて、健介は笑った。




 あの時これを、原田がボリュームを間違えてマックスにしていたから健介は跳びあがって驚いた。


 頭の割れそうなボリュームとおじさんの半笑いの恐怖の大声に慄き、健介は泣こうと思った。


 しかしその前に原田が片腕で健介の両耳を塞いで、片手でボリュームを落としたから、タイミングを逸した。

 タイミングは逸したけど、ちょうど父の腕の中に入ったし、やっぱり泣こうかなと思って健介が原田を見上げると、原田は笑っている。

 あれ、笑ってる、とまた躊躇したが、やっぱり泣こうと思い健介は息を吸った。

 その間に原田が腕の中の健介に質問した。


『どう思う?これ』


 健介は、質問の続きを聞くために泣くのは少し待つことにした。


『俺、嫌いじゃないんだよな。サミー・ヘイガー。悪くないよな?』


 そしてその、幼児にはまったく意味のわからない質問の答えを考えるために、健介は泣くのを止めた。


 それなのに背後で大声が響いた。


『ダメに決まってるだろっ!ヴァン・ヘイレンのボーカルはデイブ・リー・ロスに限るだろっ!』


 さっきの獲って食われそうなおじさんの声とは違う、刺殺されそうな斬殺されそうな君島の甲高い声。



 健介は結局、泣いた。

※『5150』VAN HALEN 86年リリース。本当に古いですね。

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