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ARROGANT  作者: co
翌木曜日
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「とにかく全部嘘なんだ!もう、おじさんたちどっか行ってくれよ!健介が出てこれないだろ!」

 拓海がそう叫んで涙を拭いた。

 そして、カメラに背を向けた。



 健介はその画面を、咳を軽く残しながら愕然と眺めていた。


 テレビの中で拓海の後ろ姿が小さくなる。

 小さくなって立ち止まったのは、原田邸のガレージシャッターの前。

 重い鉄製の横開きの格子状シャッターで、簡単には開かないし開く時には近所迷惑なほどガラガラと大きな音を立てるという泥棒に嫌われる仕様なので、普段は鍵を掛けていない。

 それを知っている拓海は、両手でそれを掴み、腰を落として全力で引き始めた。

 そしてゆっくりと、ガラガラと、開き始めた。


 ……え?

 何?何してんの?拓海。


 健介は咳を忘れて画面を注視した。


 拓海は重いシャッターを自分が入れるくらいに開いて、するりと向こうに消えた。そして車の横を通って玄関の前まで走り、叫んだ。


『健介!』



 え?


 と、驚きながらも健介はまだテレビを注視していた。

 テレビではもう拓海の姿は見えないがシャッターの隙間から玄関が映っている。その声は小さく聞こえる。



『健介!ごめんな!俺、謝りに来た!』



 やっと、健介は立ち上がった。



『ごめんな!嘘言ったり、父さん悪く言ったり、』



 健介はリビングを出て、玄関に向かった。

 もう声はドアの向こうから聞こえている。



「ごめんな!でも俺、健介の父さん、本当は好きだぞ!」



 健介は沓脱に降りて、ドアに手を当て、耳をくっつけた。



「ぶっきらぼうだけど、おっかないけど、好きだ。俺言ったの全部嘘なんだ」



 鍵を開けた。



「転校しないんだろ?また遊べるんだろ?学校来るんだろ?」



 ドアを、少し開けた。



「健介、来るよな?今週中に、」


「……行くよ。きっと」



 なぜか、少し上を見て呼び掛けている拓海に、健介が応えた。

 その声にびっくりして拓海が一歩下がった。



「……健、」

「休んでても、つまんないから、そのうち行くよ」



 そう応えた健介の顔を見て、拓海がまた涙を溢れさせる。



「ごめん、な。俺、」



 健介は首を振りながら、少し笑った。




 そこに、カメラとマイクとライトが多数急襲した。




 被害少年です!身体は大丈夫?怪我はなかったの?お父さんは出てこないの?君、誘拐されたの?お母さんだったんじゃない?お母さんに会いに行ったの?何があったかわかってる?どうして高速で逃げたの?お母さんなんだよね?お父さんはどうして出てこないの?



 突然真っ白なライトと多数の口撃を浴びせられて、健介は玄関先で硬直した。






 キッチンに飲み物を探しに行って全く見つけられず、君島は結局グラスに水を汲んでリビングに戻った。

 しかし座っていた健介がいなくなっていて、なんとテレビに健介が映っている。

 え?テレビに入った?どうやって?

 と、一体どういう事態に発展したのか瞬時には判断できず、その後にやっと玄関が賑やかなことに気付いた。

 テーブルにグラスをゴンと音を立てて置き、ダッシュした。




 お父さんは?家にいらっしゃるよね?全然出てないもんね?説明してもらえないかなぁ?離婚したの?どうして君、お母さんについていかなかったの?やっぱりお母さんがよくなって会いに行ったんじゃないの?秋ちゃんって誰?



 健介が息を吸った。



 秋ちゃんってお父さんの彼女?君はその人をどう思ってんの?お母さんの方が良かったんでしょ?とにかくお父さん出してよ。



 君島が玄関に着き、沓脱に降りて健介の腕を引こうとしたが、その時健介が口を開いた。






「静かにして」






 大人たちが、一瞬声を潜めた。

 そして健介は続けた。




「静かにして。父さんが寝てるから。騒ぐなら出て行って」




 健介が、しっかりとそう言った。

 両拳を握って、目には涙を溜めて、それでもきっぱりと大人たちに抗議した。



 大人たちは沈黙し、動作も止めた。



 ああ、すごいな。健介。よく言ったな。

 君島が笑いかけた。



 そこに、大人たちのずっと奥の方から、吐き捨てるような声が聞こえた。





「……父親そっくりだな」





 健介は驚いて目を見開いて顔を上げた。

 君島も驚いて笑みを引っ込めた。



 恐らく原田が無愛想にカメラを怒鳴りつけたことを引き合いに出している。恐らくその大人は大人げないことに、小学生の健介をその言葉で嘲たつもりだ。




 しかしそれは、健介にとって最高の賞賛だった。




 それを聞いた健介は、満面の笑みを浮かべ、目に溜めていた涙を一つ落とした。

 後ろで君島は声を上げて笑い出した。



 ありがとう。健介には何よりも嬉しい言葉だ。そう、よく似た父子だろ?認めてくれてありがとう。

 そう感謝しながら君島は健介の身体を後ろから抱き、引っ込めてドアを閉めようとした。

 そこで、君島が後ろにいることに初めて気付いた健介が、つい名前を呼んだ。




「あ、秋ちゃん」




 集っている大勢の大人全員がその言葉に瞬時に反応した。


 ……秋ちゃん?

 秋ちゃん?!

 秋ちゃんって、あなたですか!あなたは誰ですか!同居してたんですか!秋ちゃんです!この人が秋ちゃんです!



 と騒ぎが再燃し、なんとカメラマンが玄関に足を踏み入れたので、



 多分、いいよね?正当防衛だよね?別にそうじゃなくてもいいけど。



 と、君島が右足を高く突き出し、玄関に入ってきたカメラマンがその肩辺りで掲げていた小型のカメラを、庭の奥に蹴り飛ばした。



 その見事なハイキックももちろん、全国生中継されていた。

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