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ARROGANT  作者: co
翌水曜日
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 今朝は目が覚めて、もう夢だとは思わなかった。

 ベッドの下に君島はいない。もう一人で大丈夫だから、と君島にも自分のベッドに戻ってもらった。

 健介は一人で目覚めて、カーテンの間から漏れる朝日を見ていた。



 夕べ遅くまで君島に話を聞いた。

 君島はずっと笑いながら話していた。


 しかし健介は、どうしても時々泣いた。我慢したけれど無理だった。


 何にも知らなかった。

 違う、全部忘れていた。

 ずっと当たり前のように父に抱かれていたから、当たり前のように父に甘えてきたから、当たり前の記憶として全部頭の隅に追いやった。

 きっとそれと一緒に怖い記憶も追いやった。


 怖くて泣く僕を父さんは抱き上げて甘やかして、そうやって少しずつそれを溶かした。

 そんな記憶ごと、僕は当たり前のように忘れたんだ。



 泣いてしゃくりあげる健介の頭を撫でて、君島はやはり笑った。


「浩一に話を聞く時は泣くなよ。泣いた時点で話が止まるからね。浩一は人に感謝されるのが本当に嫌いだから」

「……なんで、だって、僕父さんいなかったらきっと、」

「まぁそうだけど。口にはするな」

「なんでさ」

「感謝なんかしたらこの家追い出されるかもよ」

「なんで!」

「知らないよ」

 君島は笑いながら応えた。


「この家に居座るコツは、当たり前の顔をして浩一に依存することなんだよ。僕はそれを健介に学んだ」

「僕?!」

「そう。お前は最初から浩一をパパって呼んで憚らなかったんだから。だから僕も当然のような顔をして、洗濯籠にパンツを入れてる」

「パパとパンツは違わない?」

「同じ同じ」



 そして二人で笑って、また原田の部屋を覗く。

 また布団を頭まで被っている。


「いつになったら起きるのかなぁ」

 原田に話しかけながら、健介が布団を引っ張って頭を出してやる。

「そういえば父さん、ずっと寝ててご飯とか水とかトイレとか大丈夫なの?いらないの?」

 ふと気付いて君島を見上げて訊いた。

「ね。僕も毎回思うけど、多分冬眠と同じシステムなんじゃない?最低限の代謝機能しか動いてないんだよ。ほぼ仮死状態?すごいよね。浩一ってかなり特殊な個体だと思うよ」

「そっかー」

 一応納得して健介は頷いた。


「明日はテレビの人たちいなくなってたらいいね」

「そうだね」

 そう二人で慰め合い、それぞれの部屋に別れた。




 もういなくなってたらいいな。冷蔵庫にヤクルトがもう一本しかないんだから。

 そう思い出しながら健介はベッドを降りて部屋を出て、向かいの部屋の冬眠状態の父の様子を確かめる。やっぱり布団に埋まっているので頭を出してやる。


 原田の部屋を出て、吹き抜けの窓から外を見てまだ報道クルーが減ってないことにがっかりして、階段を降りる。

 またマックスが怖い顔をして鳴きながらうろうろしている。

 マックスのご飯を上げて最後の一本のヤクルトを取って、リビングに行くけれどテレビは点けない。


 ソファに座ってヤクルトにストローを刺してから、くるりとリビングを見回す。



 父は建築士なのに、この家は自分で建てた物じゃない。

 面倒だから建ってたのを買ったと父は言っていた。


 そうじゃなかったのだと、健介は昨日君島に聞いた。


 もちろん健介も、子供ながらに家というのは物理的に大きなものなのでそんな適当な理由は冗談だとは思っていた。思っていたけれど、自分のために買ったのだとは知らなかった。

 しかも、健介は子供だから知らなかったけれど、この家屋は比較的大きい方で、仕様も比較的高級で、土地はこんな山なのに一等地だった。

 原田はこれを健介のために購入したのだ。


 眩暈がする。

 それでも父に感謝を表してはいけないのだ。

 当然な顔して依存しなくちゃ。

 僕は、えっと、当然な顔して、当然な顔して、


 と、考えていると、マックスがまた怖い顔をしてのしのしとリビングに入って来た。


「なんだよ」

 と言うと、にやおんと怖い顔で鳴く。健介が首を傾げるとさらににやおんにやおんと大声で鳴く。

「ご飯食べただろ?」

 と言う健介にそっぽを向き、キッチンの流し台に飛び乗った。

「なんなんだよ?」

 健介がその後を追うと、マックスは水道の吐水口の下に座り、健介を振り向いた。


「あ!水?!」


 マックスの食事台にはフード用の皿しか置いてなかった。


「ごめん!水飲んでなかったの?!」


 健介は慌てて棚から皿を取り出して吐水口の下に置いて水を出した。

 マックスは、その中に溜まった水にすぐさま顔を近づけた。


「ごめん!気付かなかった!」


 健介が謝りながらマックスの頭を撫でようとすると、マックスは不快そうに首を振ってその手を払い、健介を見向きもせずに水を飲み続ける。

 そして満足して顔を上げ、舌でぺろりと口の周りを舐めて、やはり健介を見向きもせずにキッチン台から飛び降りて去った。


 唖然と見送ると、マックスは自分の赤い猫ベッドに入り丸くなった。

 愛想の欠片もない。



 それでも、まぁしょうがないかとマックスを眺める。

 こんなものだよね。マックスは。猫は。

 当たり前のようにここにいるし、ここにいるのが当たり前なんだよね。

 

 それに、僕がマックスにここにいて欲しいから。マックスには当たり前の顔をしてここにいて欲しいから。いまさら愛想振りまかれても気持ち悪いもんね。



 そして気付いた。

 そっか。

 当たり前のように依存って、マックスを見習えばいいんだ。



 そっか。



 健介は笑って頷いた。




 しばらくして君島が起きてきて、二人で残り少ない食材を分かち合いながら、また暗くなるまでゲームをした。

 今日はどこにも電話もしなかった。

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