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そして君島と入浴。
ざっと流してから健介が先に湯船に浸かる。
それからシャワーで頭を洗う君島をじっと眺める。
まるで、漫画か彫刻のような筋肉質の身体に、可愛い美女顔が乗っている。
見慣れているはずなのに、健介は見るたびに感心する。
他にこんな身体の人を見たことがないし、他にこんなに可愛い顔の人を見たこともない。
それがくっついて一つになってここで頭を洗っている。
そういうことを、秋ちゃん自身はどう思ってるんだろう?他の人は?例えば、父さんは?
「……秋ちゃん」
「ん?」
「父さんと、一緒に温泉とか入るよね?そういう時って、」
「入らないよ」
「え?」
君島が濡れた髪をかき上げて、健介を見た。
「浩一は誰ともお風呂に入らないよ。健介も入ったことないだろ?」
「……あ、うん」
「入らないんだよ。朱鷺ちゃんともヤマちゃんとも入らないんだよ」
「なんで?」
「教えてくれないけどね。朱鷺ちゃんの推測ではね」
「うん」
「般若背負ってる」
「……へ?」
「僕の予想は昇り竜なんだけど」
「え、それって、」
「ヤマちゃんの予想は唐獅子牡丹、」
「入れ墨?!」
「よくわかったね!」
「そんなわけないじゃん!」
なんてばかばかしい大人たちなんだろう。健介は笑った。
「なんで一緒に入らないのかなぁ」
「さぁねぇ。なにしろ独りの生活が長い人だから、ほとんどのことを独りじゃなきゃできないみたいだよ」
「……秋ちゃんは独りじゃ暮らせないのにね」
「あ。そういうこと言う?僕だって独り暮らししてたことはあるんだよ」
「すごいね。すごかったんだろうね」
「普通だよ。今時はね、誰でも独り暮らしぐらいできる便利な時代なんだからね」
身体を洗い終えて君島がそう言い、立ち上がった。
健介も湯船を上がり、君島と交代する。シャワーを出して頭にかけた。
そんなふうに長く独りで暮らしてきたのに。いまだにほとんどのことを独りじゃなきゃできないのに。
どうして僕を。
シャンプーを泡立てる。
どうして、じゃないのか。
僕が捕まえたんだよね。
がしがしと頭を洗う。
僕が捕まえた。
そうなの?だけど、そうだとしても。
シャワーで髪を流した。
そして君島を振り向いた。
「秋ちゃん。僕はどうやって父さんに拾われたの?」
バスタブに頬杖をついたまま君島が、健介の頭に手を伸ばした。
「拾われたとか言うな。お前は物じゃないんだから」
「じゃ、何て言うの?」
「出会った、ぐらいでいいんじゃない?」
「出会った?じゃ、どうやって出会ったの?」
「僕も詳しくは知らないんだよ。浩一が起きたら本人から聞けばいいよ」
健介は首を振った。
「父さんにも聞くけど、その前に秋ちゃんに聞きたい」
「なんで?」
「だってきっと、父さんは嘘つくと思う。僕のために、僕に言いたくないこととか隠すと思う」
うはは、と君島が笑った。
「信用ないな、浩一。でも、そうだよね。僕もそう思うよ」
健介も笑って頷いた。
「浩一は甘い父親だから。ずっとお前にだけ甘いから」
健介は笑ったまま唇を噛んだ。
「お風呂上がったら、話しよう」
君島がそう言って、また湯船に沈む。
「浩一の主張では、全部天気予報のせいらしいよ」
ん?と健介が顔を上げた。
「年末までの長期予想が悪かったんだって。天気がいいのは今日ぐらいって」
「うん?」
「NHKのお天気お姉さんが朝そんなことを言ったから、浩一は年内乗り納めのつもりでバイクで出勤したんだって。今ぐらいの11月末」
「うん」
「だから、お前に出会った」
「うん?」
「だから、NHKのお天気お姉さんのせいで、お前に出会ったらしいよ」




