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病院には朱鷺母の指定した11時よりも前に到着した。
指定された裏口に回るには正面玄関前を通過する必要があり、原田はナビ通りに門をくぐり、案内表示通りにぐるりと駐車場を迂回し、正面玄関に向かった。
そしてその正面玄関が迫るにつれ徐々に人影が増えてきて、車道にまではみ出すほどになり、危機回避のために歩く速度まで車のスピードを落とす。
なんだこれ?と、まず他人事のように顔を顰めてから、朱鷺母の言葉を思い出した。
『昨日の5倍はいるから』
そして正面玄関に、その5倍の集団が見えてきた。
しかしその姿は昨日うろついていた通りすがりの一般人風ではなく、明らかに玄人集団。
抱えるカメラがでかい。背負うバッグもでかい。ヘッドセットを装着している。マイクを持っている。そんな構成員で大集団が成立している。
なんだこれ。
また他人事のように考えてから、いや、俺なのか?と思い直す。
俺なのか?あれは俺を待ってる集団なのか?
何故?
歩く速度までスピードを落としているベンツで正面ロータリーを回る。
うろついているのも大人数だが、徐行している車も大行列なので集団には気付かれていない。
なんなんだ一体。原田は俯き気味に顔を顰めて集団を覗き見る。
当然、本来の目的で病院に来ている人々の大変な邪魔になっていて、病院職員らしき数人が玄関に立ち塞がっている。
なんなんだ。
俺が何をしたっていうんだ。
そういえばタクシーの運転手がおかしなことを言っていた。
ホテルのフロントにも不可解なことを言われた。
なんなんだ一体。
やっとロータリーを抜けて車が減り、歩く人影も消え、裏口に向かってハンドルを切る。
田舎の大きな総合病院で、むやみに緑豊かでなぜか無駄に道が入り組んでいる。
案内表示の矢印を辿って進み病棟の間を抜けてまた交差路に差し掛かったところで電話が鳴った。
広い路肩にハザードを点けて停まり、電話に出た。
『浩一?今どこ?』
君島の甲高い声で短い質問。
「もうすぐ裏口に着く」
『え?もう?そっか。じゃ、急ぐけど、』
「何?」
『正面の騒ぎ、見たよね?裏にも実は集まってるんだよ。正面ほどじゃないけどね。だから、僕らちょっと離れたところまで行くからそこで拾って』
「ああ、」
『でもまだみんな中にいるから、僕が一度戻って知らせてからまた出てくるからね、そうだな、あと5分後ぐらいに出口の先の方に移動してるから見つけて』
「わかった」
『じゃ!』
と、通話が切れた。
5分後ぐらい。
こういう場合は遅れた方がいいだろう。
原田はハンドルに顔を伏せてため息をついた。
なんなんだ。どうしてこんなことに。
高速で何かやらかした?
昨日から何度もそんなことを言われたが原田にはまるで思い至らない。
健介を掴まえただけだ。
確かに渋滞していて多くの車から注目はされていた。
それだけだろう?
と、考えてもわからないことに悩んでいてもしょうがない。
考えるのを止めて、原田はナビで帰宅ルートを確認して設定した。
5分経ち、原田はシフトを入れてアクセルを踏んだ。案内表示に従いゆっくりと進む。カーブを曲がってやっと裏口玄関が見えてきた。
そしてそこには君島が言った通りに、またしてもごっそりと集団がドアを向いて立っている。
顔を顰めてその後ろ姿を眺めながら通り過ぎ、少し進むと4人が歩いていた。ハザードを点けてその横にゆっくりと停まった。
君島が助手席に乗り、朱鷺母、健介、朱鷺の順に後部座席に乗り、すぐに発進。
とりあえず無事に病院敷地を抜け出すまでは誰も口を開かなかった。
通用門を出て左折し、最初の信号に引っ掛かって停止。
そこでやっと全員ため息をついた。
一息ついたところで、朱鷺母が怒りだした。
「まったくもう。どうして頼んだことができないのかしら。たった一つしか頼んでないのにそれができないなんて一体どういうことなのかしら」
その剣幕に、健介が謝る。
「ごめんなさい。僕が、起きちゃったから、」
「いいのよ。昨日はちゃんと二人が寝たのを確かめてから消灯してくださいって頼んだんだから。朱鷺が起きてたのに消した看護師が悪いの」
「どうしたんです?」
原田の問いに君島が応えた。
「消灯してから健介が起きて、真っ暗だったから大絶叫したらしい」
「え?」
原田が振り向いた。
「そんな、そんなでもないよ!びっくりしたけど、怖かったんだけど、」
健介が首を振りながらおろおろと言い繕うが、朱鷺母が続けた。
「朱鷺が気付いたんですって。聞こえないのにね。真っ暗で見えないのにね。朱鷺が気付いて看護師を呼んだんですって」
「びっくりしただけなの。暗いのが、怖かっただけだから、」
「そうでしょ?だから気を付けてくださいって頼んで帰ったのよ、昨日。まったくひどい看護師よね」
「でも、」
「庇わなくていいよ、健介。おかげで寝てないんだろ?看護師の失態だよ」
君島が笑った。
「寝てないのか?」
原田が訊いた。
「結局朱鷺と一晩中しゃべってたんですってよ!」
朱鷺母が応えた。
「……朱鷺が一番の被害者だな」
原田の言葉を朱鷺母が通訳して、朱鷺が笑った。




