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ARROGANT  作者: co
日曜日
67/194

21

 食前のシャンパンに一口つけてから気付いた。


「君島……!お前、呑んだな?!」

「エヘ。呑んだね」


 酒に弱い君島はたった一口で真っ赤になっている。

 原田はその顔を愕然と見詰めた。


「あら。いいじゃない。健介君のことも解決したんだし、お祝いよね」

「そーですよねっ!」

 朱鷺母のフォローに君島が笑って、また一口呑む。

 あああー、いよいよ最悪。どんどん最悪の底が抜けていく。

 原田は頭を押さえてため息をつく。

 君島もさらに陽気にグラスを傾ける。



 前菜を揃えてもらいメインをオーダーした後に、朱鷺母が口を開いた。




「それで」




 朱鷺母がいよいよ詰問の姿勢に入った。




「どういうことなのかしら?」




 うーん。

 どこの何からどう説明したらいいんだ?

 原田は頬杖をついて考えているが、まだ自分でも全てをまとめられていない。

 お前が説明しろよ、と君島を睨むが、君島は赤い顔で笑っている。

 どこから。健介の母親が現れたところから。あれはいつだったんだ?今週?先週?月曜日?火曜日?

 そんな具合に原田が逡巡している間に、朱鷺母が続けた。




「健介君が、鷹村会長の子供っていうのは、本当なの?」




 え?いきなりそこ?

 と一瞬驚いたが、よく考えれば朱鷺の実家の会社と鷹村産業が古くから商売仲間ならこっちの方が身近な問題だ。



「……本当かどうかは俺も知りませんが、そういう前提で健介は攫われました」


 そう応えた原田を朱鷺母はじっと見詰めたまま、何度か頷いた。


「そう」


 そしてそう言って、視線を逸らした。



 視線を逸らされた原田は、自分の応えが導く連想に一つ辿り着く。

 だから慌ててそれを否定しようとした。


「いえ、しかしそれが本当だとしても健介を渡すとか遺産相続なんかを考えては、」


 原田が必死に語る言葉も聞かずに、朱鷺母は被せるように一言声を張った。






「やめた方がいいわよ」






 原田は絶句して、目を丸くした。




「もし相続の権利が発生したとしても放棄した方がいいわ。見た目ほど財産はないから。不動産なんか継いでもあそこじゃ売り物にならないしね」

「そう、なんですか。いや、元々そんなつもりはないですけど、」

「あらそう。それが賢明よ。あそこ、ものすごく業績悪いのよ。代替わりしてからもう、どうしようもないのね。今の社長の腕が悪いっていうよりも、先代が良すぎたの。一代限りの会社だったのよ。

 うちもね、取引縮小しているところなの。いずれはゼロにする予定でいたんだけど、今回がいいきっかけになったわ」

「……え?取引、解消するんですか?健介が原因ですか?」

 原田が慌てて訊くが、朱鷺母は笑った。


「健介君じゃないわよ。朱鷺よ。当然」

「朱鷺?」

「そう。朱鷺。朱鷺をね、あの家の人は見殺しにしようとしたの」

「え?」



 朱鷺母は笑ったまま、原田を見た。笑っていたが、目には怒りの光を溜めている。



「朱鷺がね、鷹村の屋敷の離れに閉じ込められて倒れてたのよ。

 私が朱鷺を探してたら、井口会長が離れに入ったっきり出てこないようだって教えてくれて、すぐに鷹村の奥さんとお嫁さんに鍵開けるように頼んだの。そうしたら鍵がないっていうの。鍵がないから無理だって。ここは開けられないからもう一度他を探してくださいって」


 朱鷺母の瞳が怒りで揺れる。


「井口会長が見たって言っているのよ。井口会長ってね、業界最大手の井口マシンの創業社長なの。大企業だから冠婚葬祭の案内の数も半端じゃないし、会長自身がもうお年だから最近では葬儀にも参列なさることはほとんどないのよ。だけど鷹村会長とは親しかったからって会長ご本人が内通夜にもいらしてて、うちの父とも親しかったから朱鷺のこともご存じなのね。

その井口会長が、見たって言ってるの。井口会長が朱鷺を見間違うこともないし、嘘を言うはずもないじゃない?それをあの家の人は……」


 朱鷺母がシャンパンを一口飲み、続ける。


「私はドアを開けなさいって言ったの。いないならいないで確認させなさいって。朱鷺は耳が聞こえないから呼んだって気付かないんだから。

それなのにまだ鍵がないからだめだって言い張るのよ。おかしいでしょ?鍵がないならドアを壊せばいいじゃない?そう言ったら、ドアは輸入物で高価だから困るですって。そんなもの私がいくらでも弁償して差し上げるわよ、ってドアを壊そうとしたら、井口会長が壊すなら窓ガラスの方が簡単だっていうから、庭の石で窓割って入ったのよ」




 鍵がないならドアを壊せばいいじゃない。

 まるでマリー・アントワネット。

 原田と君島は、怒りに震えながら語る朱鷺母のそんな武勇伝を、息を止めて聞いていた。



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