表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARROGANT  作者: co
日曜日
63/194

17

 外科病棟の個室ベッドで、寝ている朱鷺はぼんやりと天井を見上げている。



 目覚めた後、涙を流さんばかりに喜ぶ母にいろいろ話しかけられて、いろいろ応えて、もう疲れていた。そして母はどこかに行ってしまった。

 入れ替わりに現れたのが君島で、笑顔で一言教えてくれた。


『健介、助かったよ』


 手よりも饒舌なその美しい笑顔で、朱鷺には手話を見る前からわかっていたことだけど。


 朱鷺が頷いて応えると、君島は目を伏せて笑ったまま呟いた。



「……疲れた」



 そして君島はベッドの横の椅子に座り、俯いてため息をついた。



 だから朱鷺も話しかけずに天井を見上げた。



 そして天井も見飽きた。

 カーテンを閉めていない窓も、暗い空に雪が降っているだけのつまらない景色。

 そんな退屈な景色を目に映しながら、朱鷺はぼんやり考えている。



 健介が助かったって言うのは、一体どういうことなんだろう。

 母が兄から聞いた情報によれば、健介が誘拐されたのだと言う。

 その兄も原田からの箇条書きのような大雑把な説明しかもらっていない。それを又聞きした母の話は尚一層現実味を感じない。

 だいたい通夜に来ているはずの自分が、着ていたスーツも脱がされて病院のベッドで横になっている。

 そしてハワイに行ってて日本にはいないはずの君島がこの隣県の片田舎の病院に来ている。

 なにもかも理解不能で、朱鷺は誰に何を訊けばいいのかもわからない。

 とにかくぼんやりとしている。夢の中にいるような気がしている。




 そしてしばらくぼんやりと外を眺めていた朱鷺が、急に身体を起こした。

 君島がそれに気付き顔を上げると、朱鷺はドアに目をやってから君島を見て、指で示した。



『健介が来る』



 君島は顔を顰めた。


 そんなわけがない。そんな連絡も入ってないし、今頃多分警察だろうし、第一今だれも廊下を歩いてもいない。そんな音もしないよ、朱鷺ちゃん。

 と、頭の中で思い、どれを伝えようかなと指を動かそうとしたら、廊下を走ってくる小刻みな音が聞こえてきた。


 嘘、と思いながら君島は立ち上がり、スライドドアを引いた。

 そして顔を出して廊下を見て、その姿を見つけた。

 原田の大きなジャケットをマントのように翻しながら走ってくる。



 全力で走ってくる健介を見つけて、君島は廊下に出た。




「秋ちゃん!」




 君島は笑って、大きく手を広げた。



「秋ちゃん!」



 健介がその腕に飛び込んだ。




「頑張ったな、健介」



 健介を抱き締めて、君島は原田と同じ言葉を掛けた。



「うん!頑張ったよ!走ったよ!ずっと走ったよ!」

 健介は君島の腹に顔を埋めたまま大声で叫んだ。

「帰ろうと思ってね、ずっと走った!それでね!」

 やっと健介が顔を離し、君島を笑顔で見上げ、そして横を見た。


 そして、病室の中のベッドの上から、顔を覗かせている朱鷺を発見した。



「朱鷺ちゃん!」



 弾かれるように君島から離れ、健介は朱鷺に突進した。



「朱鷺ちゃん!」



 ベッドの上の朱鷺も両腕を広げて健介を抱きとめた。



「ごめんね朱鷺ちゃん、僕のせいで怪我したんだよね!僕が謝ってる途中だったのに僕のせいでまた怪我したんだよね!」

 またしても朱鷺の胸に顔をつけたまま、伝わらない言葉を叫び続ける。



 一体、何がどうなってるんだか。

 朱鷺がよくわからないまま笑って健介の背を抱いていると、その健介の後ろに大きな人影が近づいた。


 朱鷺は、ちらりと目を上げ、その姿を確認した。



 原田だった。



 その姿に気付いた途端、朱鷺は健介の背に回していた腕に力を入れてその身体をベッドに引き摺りあげた。

 突然のことで驚きながらも、健介は抵抗せずにベッドに上る。朱鷺に逆らうことは考えられない。


「朱鷺ちゃん?」

 健介が顔を上げようとしたが、朱鷺は尚一層強く健介を抱いた。


「朱鷺?」

 原田が驚いて声を掛けた。




 朱鷺は、健介を抱いたまま原田を睨んで、強く指を振った。

 強く、指で手で原田に何かを宣言した。

 朱鷺が強くはっきり何かを断言していることだけは原田にもわかった。

 朱鷺が怒っていることだけはわかった。それ以外はわからない。何を怒っているのかがわからない。

 原田は手話をほとんど解しないのだ。それを知っているくせに朱鷺は怒りの手話を展開している。




 そして、それを読んだ君島が、爆笑した。

 それを読んだ健介は、朱鷺に抱きついてまた泣いた。泣いて謝った。また朱鷺の胸に顔をつけたまま泣き叫んだ。



 君島が笑いながら、手話が読めない原田に教えた。




「健介を他の誰かに渡すくらいなら、朱鷺ちゃんがもらうって。君には返さないって」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ