表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARROGANT  作者: co
日曜日
59/194

13

『私ね、秋ちゃんの友達なの。秋ちゃんに健介君を助けて欲しいって電話もらってね、今話してるの』



 秋ちゃん、という単語に、健介の身体の強張りが解ける。

 あの大きな目、高い声、長い睫毛、がちがちの筋肉、そしてあの温かい手。

 思い出すだけで身体が暖かくなる。



『それでね、私もラジオで友達みんなに頼んだの。健介君が今走ってるから、みんなで助けてって。だから、見えてるよね?車がたくさん、窓開けてるよね?』



 健介はもう一度、車の列を端から端まで眺めた。



『追いかけてきてた車も止まったのよ。ダンプに乗ってるラジオのリスナーが止めてくれたの』



 遠くでダンプのホーンが鳴った。



『みんな私の友達なの。みんな、健介君の味方だからね。みんなが助けてくれたからもう大丈夫!』



 息を弾ませたまま、健介はこの信じられない光景をただ見ていた。



『もうすぐお父さんがそこに行くから。健介君を迎えに行くから。だからもう走らなくていいよ!』



 白いライトで埋まる右側の視界にさっきから赤のランプが光っていた。

 遠くで鳴っていたサイレンが近づいてきていた。



 父さん?

 父さんがここまで、来てくれる?


 段々重くなってきた腕をだらりと下げて、息を弾ませたまま健介は唯一迫ってくる白いライトと回る赤色灯を見詰めていた。




『もう立ち止まったよね?もう健介君、助かったよね?誰か、教えてくれる?』

 ラジオの声が続いている。

『あ!はいはーい!少年、やっと止まったよ!今パトカーが路肩爆走中!』

 若い男性リスナーの電話の声が加わった。

『お父さんね?!』

『多分ね!そうだね!』

『もう近くまで来てる?』

『うん、停まった』



 赤色灯を回した紺の覆面パトカーが、路肩の広くなっているところに停まった。

 それが停まると同時に、後ろから長身の男が飛び出してきた。



「健介!」




 父さん




 なにもかも突然で信じられないけど、父さんだ。

 雪の向こうを父が走ってくる。

 まだ実感が湧かないまま、速い呼吸を収められないまま、健介は一歩進んだ。

 まだよくわからなくて笑顔も作れない。

 でも、父さんだ。

 走ってくる父に向かってもう一歩出した。




 そこに、乾いた声が低く響いた。

 並ぶ全ての車の中から、大きく空に響いた。





『……え?これ父親?……全然似てねー……』





 その冷酷な言葉。



 さっきまで励ましてくれていた柔らかい女の人の声ではなく、半分笑い声の若い男の、情のない平坦な音。



 まだ呼吸が速いままでパニック状態から抜けていない健介は、その非情な言葉に一気に時間を巻き戻された。



 あんなにたくさんの大人がいたのに、傷ついた自分も朱鷺も助けてもらえなかった数時間前に、引き戻された。



 足が、止まった。





「健介」



 走り寄ってきた父から、逃げるように後ずさった。



「健介?」



 父も立ち止まった。




『あれ?ほら、父親じゃねぇとか?』

 若い男の軽い笑い声がまた響いた。




 味方じゃない。

 ここにいる大人もみんな、味方じゃない。

 助けてくれない。

 逃げなくちゃ。

 父さんも逃げて。


 健介は首を振りながら後ずさる。



「健介」

 立ち止まった父がまた健介を呼ぶ。



 ごめんね、父さん。

 朱鷺ちゃんみたいになるから、逃げて。

 みんな味方じゃないから逃げて。



 首を振りながら、息を弾ませたまま、健介が後ずさる。






 離れていく健介に戸惑いながら、原田は動けずにいる。

 原田が一歩進めば、健介は二歩下がる。


 なんだ。どうしたんだ。


 気付けば周囲は静かになっていた。

 大勢の人間に注目されている。

 なぜか、ピアノの音が聴こえてきた。


 原田はちらりと周囲を見渡してから、また健介を見た。



「健介」



 原田はまたそう呼んだ。

 健介がまた一歩、下がる。


 だからもう、声を掛けるのは止めた。




 周りを見るな。

 もう大丈夫だから。

 怖くないから。




 そして、原田は雪が吸い込まれていくアスファルトにゆっくり片膝をついた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ