1
何も進展せず、何の情報も上がらないまま夜が明け、昼になろうとしている。
君島は和室で毛布を被って横になっている。寝てはいない。寝られるはずはない。
原田はリビングの壁にもたれて座っている。何時間も同じ姿勢のままでそこにいる。
警官がうろうろして、話をしたり電話をしたりしているが、捜索は一向に進んでいない。
そして突然、原田の携帯が鳴った。
警官たちが全員一瞬で、臨戦態勢の空気を纏った。君島も飛んできた。
原田の反応が一番遅かった。
それでも急いで立ち上がって慌てて警官から携帯を受け取った。
しかしその画面の表示は、
『社長』
だった。
原田はため息をついて、通話ボタンを押した。
『おー!原田。休みに悪いな。来週のオープンハウスの時間なんだけど、』
「あの、すいませんけど、当分この携帯に連絡しないでください」
『あ?なにが?』
「理由は今度言います。俺から掛けるまで、」
そこまで言ったところで、横から手が伸びて携帯を奪われた。
「ヤマちゃん?あのねー、健介が迷子になって、今この携帯で連絡待ちなんだ。急用があったら僕に連絡して。うん。ありがと。じゃぁね」
そう言って通話を切って、君島が警官に携帯を渡した。
「悪かったなって」
君島が原田を見上げて、そう言った。
長い長い時間、地獄のような絶望に浸かっていた健介に、やっと光が与えられた。
トランクが開けられ、日光と寒気と新鮮な空気を全て同時に味わった。
長い長い地獄だったから、健介はこれだけで幸せな気がした。
明るい野外の広い風景だけで、天国に来たような気がした。
「健介。お腹空いたでしょ?クッキーあげる」
お母さんがそう笑いながら、トランクの中の健介を立たせて、降りるように言った。
出られるんだ。クッキーももらえるんだ。
それだけで健介は、涙が出そうなほど、嬉しかった。
「後ろに乗ってね。これから家に行くから」
トランクに入らなくていいなら、どこにでも行く。
健介は大人しく従った。
その健介を見て、黒い男が言った。
「汚ぇなぁ。やっぱ夕べ一緒に部屋連れて行って風呂に入れればよかったか?」
「逃げられたら困るって言ったのあんたじゃない」
「服も真っ黒だぞ?」
「あんたがトランクなんかに入れるからでしょ!」
「しかも黄色のパーカーって、これから葬式だろ?」
「どこかで買ってく?」
「金ねーし」
「じゃ、しょうがないじゃない」
健介は車の中で、俯いてクッキーを齧っていた。
鄙びたホテルの屋外駐車場を出た後、コンビニで一度トイレを借りた。
健介は誰にも助けを求めずに大人しく車に戻った。
そのまま長い時間、車に揺られていた。
ずっと俯いていた健介がふと顔を上げて窓を見た。
もちろん見慣れない景色で、ずいぶん空が広いような気がしている。
枯れた大きな木が何本も立っている。
道の反対側にも同じように立っていて、少し進むと白黒の縞の幕が張られていて、その奥にはたくさんの車が停まっていた。
黒い服を着た人が何人もうろうろしている。
そしてその先には、広い庭と旅館のような豪邸。
「よし!帰ってきたぞ!お前の家だ!ボウズ!」
黒い男が笑った。




