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自分がいつ何を間違ったのかはわかっていなかったが、健介がその意思に反して連れ去られたということはわかっている。
僕はずっとここにいると、健介自身が笑いながら原田の膝を濡らしてそう言ったのだ。
その健介を力づくで奪われた。
健介の身が危険だということは重々わかっていた。
原田は一度下がって、玄関ドアを蹴った。
蹴りやぶって中に入って、何か手がかりでも探そう。
しかし二度目に蹴ろうとした時、白い光を当てられた。
「そこで何をしている!」
「204の住人か!」
原田が顔を顰めて手で光を遮り、走り寄ってくる二人に目を向けた。
「おい!名前は!」
「通報があったぞ!」
懐中電灯を持った制服の警官だった。
「名前は!」
二人で逃げ道を阻み高圧的に訊いてくる。
警官は嫌いだが、恐らく健介の捜索を助けてくれる二人だ。君島があの後すぐ通報したとしても、対応が素早い。
「204の住民が小学四年の男子を連れ去ったと通報があった!お前か!」
警官の一人が一歩近づいてライトを原田に当てた。
原田は光を避けて俯き、応えた。
「……原田です。連れ去られたのはうちの息子です」
警官が、はっとライトを下し、一歩下がり、しかしさらに訊いた。
「身分証明、お持ちですか?」
原田は頷き、ポケットを触り、それから何も持たずに家を飛び出したことを思い出し、口を押えて俯いた。
「どうしました?」
「……慌てて、何も持たずに来たので、車の、車検証なんかじゃだめですか?」
「それはちょっと」
「しかし、」
原田は顔を上げて首を振った。
「そんなことで時間無駄にしてる場合じゃない。俺のことはいいから健介を、」
「え、いや、しかしあなたが原田さんだという証明がないと、ここにいる以上犯人ではないという証明ができない」
「んー……」
くだらない。こんなことで。
原田はこの二人を殴り倒して逃走しようかとすら考えた。
こんなことをしているヒマがあるなら健介を探してくれ。
原田はいらいらしていた。
「原田さん」
警官に呼ばれて顔を向け、その瞬間フラッシュが光った。
「本部に、顔の確認をしてもらいます」
「え?」
そしてすぐにその警官の携帯が鳴り、短い受け答えで通話を切り、原田に告げた。
「失礼しました。原田さん。この部屋はこれから管理会社を呼んで検証することになります。原田さんはどうぞ、ご自宅の方にお戻りください」
「え?確認が取れたんですか?」
「はい。刑事部長に」
「は?」
「必ず、お子さんは見つかりますよ!」
警官が、強い目で原田を見上げた。
「必ず無事に戻りますから!気を強く持ちましょう!」
原田は、疑問を抱いたまま、頷いてそこを去った。
そして自宅に戻ると、家の前に警察車両が何台も停まっている。
それを見て、どんどん気分が重くなる。
健介が事件に巻き込まれたのだと、時間が経つほどに思い知らされる。
原田はまだ少しあの母親の愛情を信じていた。
まさか健介を傷つけるはずがないと思っていた。
しかしそう考える自分を、信用していない。
君には判断能力がない。
この君島の言葉を信用していた。
なぜなら、これまでのことの全て、君島が正しかったから。




