表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARROGANT  作者: co
土曜日
39/194

13

 猫の姿がないことにやっと健介は気付いた。


「そうだ、さっきいた場所で、どこかの家の庭にマックスみたいな猫いたんだよ」


 健介はそう言って原田を見上げた。

 しかし答えたのは君島だった。


「マックスはいないよ」


「いない?やっぱりさっき見た猫はマックスだったのかな?逃げたの?」

「違う。あげた」


「……え?」



 君島が足を組んで、膝に頬杖をついて呟いた。


「欲しいって人がいてね。マックスあげた。どうせ健介もいなくなるんだしちょうどいいだろ?」



「……何、言ってんの?じゃ、さっきの家にあげたの?」

「違うよ。そんなに遠くの家じゃない」

「なんであげるの?なんでそんな勝手なこと、秋ちゃんがするの?」



「だって、いいだろ?どうせ健介、ここから出ていくんだろ?」

 君島が大きな目で健介を見据えた。


 じわりと、お腹の中が熱くなった。


「なんで……!僕と、マックスは関係ないよ!」

「うん。関係ないよ。マックス向こうに懐いちゃったんだ」

「嘘だ!マックスなんか父さん以外のみんなに唸るんだから!秋ちゃんだって知ってるくせに!秋ちゃんなんか今でも嫌われてるくせに!」

「だってさ、向こうの家にマックスそっくりの猫がいてね、よく訊いたらその猫、マックスの兄弟だったんだよ」

「そんなわけないっ!」


 健介の怒りが沸騰した。


「マックスの兄弟なんか、全員死んだんだから!マックスだって死にかけてた!」

「あぁ、だからそういう意味じゃない。一緒に生まれたんじゃなくて、マックスの前に生まれた兄弟」

「……そんな、え、そんなの!」

「うん。つまり、マックスの元々の家」

「そ……、」


「だから、続けてたくさん生まれたから、マックスと兄弟は捨てたんだって」



「そんなのっ!」



 健介は怒りのあまり、立ち上がった。



「それならなんでいまさらマックス欲しいなんて言うのさ!」

「マックスは大きくなって手間もかからないし楽だろ?」

「だって、だって、そしたらマックスが病気にでもなったらまた捨てるよ!」

「それはないでしょー」


 笑う君島が許せなかった。


「マックスが大きくなったのは、うちで助けて育てたからじゃないか!」

「だからもうどこでも生きていけるよ」

「無理だよ!マックスなんか躾が悪いんだから!」

「マックスが喜んでたし」

「バカなんだもん!マックスはバカなんだから、やっちゃだめだよ!」


 健介の目に涙が滲んできた。


「だって、生まれた家なんだよ?マックスだって嬉しいよ」

「そんなはずない!ダンボールに入ってたんだ!ダンボールで生まれて、大雨の中でずぶ濡れで、みんな死んでたんだ!」

「そんなことマックス忘れてる」

「マックスはバカなんだもん!マックスを、どこにもやらないで!」



 涙が零れた。



「でもマックスはここに戻りたくないって思ってる」

「マックスはバカなんだもん!そんな家にいたら、またひどい目に遭うんだ!」

「本当の家なのに?」

「本当の家じゃない!マックスの本当の家はここだ!」

「だってほかにも兄弟猫がたくさんいたよ」

「捨てたくせに!僕が!僕が助けて育てた!僕の猫だ!」

「マックスが戻りたくないって」

「絶対だめ!そんな家、絶対またマックス捨てる!絶対返さない!」




「本当の親なのに?」

「君島!」





 原田が、君島の言葉を大声で遮った。


 その声に健介がびくりと震えた。


 うわ……!と君島が、ソファの背もたれにそのまま倒れ込んだ。




 台無し……!

 くっそー……!

 後で本っ当に殴ってやる!



 両手で目を覆い、君島はため息をついた。







 以前から気付いていた。

 というより、健介がマックスを拾ってきた時に思っていた。



 まるでそれは、原田が健介を保護した時と同じだった。

 罪のない小さな存在をただ温めたいと思っただけ。

 その小さな存在がそれを幸せだと、それを当然だとするなら、ずっとそのままでいさせてやりたい。


 そう思うだろ?健介。

 僕らは、少なくとも僕は、健介をそのつもりで育ててきた。

 そして僕は、そういう健介を絶対不幸にはしないつもりだ。

 たとえ健介が不幸になることを望んだって僕は許さない。


 健介が不幸になることは僕が絶対許さない。


 そう思うだろ?

 マックスが不幸を選んでもお前は許さないだろ?




 君島がまた一つ大きく息を吐いて、指の間から健介を覗き見た。



 そして、身体を戻した。




「秋、ちゃん」




 健介が茫然と立ったまま、宙を見た目から滂沱の涙を流して呟いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ