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「ごめんなさいって、なんだよ?健介」
君島が健介の腕を握って訊く。
「ん。あの、僕、お母さんのところに行くから」
「僕の話、聞いてたのか?」
「うん。聞いた。聞いたよ。僕は、」
健介は頷きながら続けた。
「僕は、父さんの子供じゃなくて、苦労掛けた」
そう口にすると、指先から熱が無くなっていくような感じがした。
そう感じている自分も、本当じゃないような気がしている。
それでも、決めた。自分で決めた。
健介は目を閉じて、もういちど考える。
僕はお母さんと暮らすことにした。
元々そう決めていた。
父さんも認めてくれた。
だからそれが一番いい。
だって僕を捨てたお母さんが反省して僕を探しに来て、
……違う。
お母さんは父さんが勝手に僕を連れて家を出たって言ってた。
嘘?
だって、お母さんは火事で死んだって、みんなが嘘を言っていた。
どれが嘘?
だって、僕の名前だって、嘘なんだよ。
嘘ばかり
僕のまわりは、僕自身も、嘘ばかり
僕は、誰なの?
俯いていた健介の呼吸が激しくなり、君島は顔を上げさせて胸と背中を押さえた。
「健介」
その名前は違う。
僕じゃないんだよね。
「ごめんね。全然わかんないよね」
わかるよ、秋ちゃん。
なんか今、すごくわかっちゃったよ。
「なにもかも全部、浩一が悪いんだ」
違うよ、秋ちゃん。
なにもかも僕が、
僕がいることが、悪かったんだよ。
「ごめんなさい」
血の気を失った蒼白の顔で、健介が呟いた。
「ごめんなさい。お世話になりました」
「健介!」
君島が健介の頬を両手で挟む。
「あのね!聞いてたの?お前はあのお母さんに捨てられたんだぞ!それからもう8年経ってる!ずっと僕らがお前を育ててきたんだ!」
「だから、ごめんなさい」
「謝るな!健介が悪いんじゃないんだから!」
「僕が、悪い」
「健介!」
「それは、僕の名前じゃない、んだよね?」
健介は笑っていた。
誰も僕がいらない。
みんないらない。
お母さんは僕を捨てた。
父さんだって朱鷺ちゃんとマックスの方が大事だ。
「僕は、嘘だから、邪魔だから、いらないから、」
「そんなこと言うな!」
「本当だよ!だって!」
ずっと頭から離れなかったことを、健介は口にした。
「だって、父さんだって、たばこで、たばこの火で、僕にヤケドさせた!」
ドアの向こうで、ゴンっと何かが床に落ちた音がした。




